82 / 105
第二章:新たなる力、メガネ付き
第24話:ラクシアの森 6
しおりを挟む
急いで駆けつけた二人は、微かに息をしている姿を見てホッと胸を撫で下ろす。
「夏希ちゃんは冬華ちゃんを見ていてちょうだい!」
「あ、明日香さんは?」
「私はイーライと一緒にガゼルさんのところに行くわ!」
「砕いた何かの場所を教えてくれ、アスカ!」
このまま凜音を助けるには明日香の助けが必要だとわかっていたイーライが声を掛ける。
明日香もそのつもりだったのですぐに立ち上がる。
「気をつけてください! まだ――岳人さんがどこかにいるんです!」
「「――!!」」
夏希の言葉を受けて、二人はすぐに周囲へ視線を巡らせた。
イーライは気配を探り、明日香はメガネで捉えられないかと首を振る。
しかし、岳人の存在を確認することは出来なかった。
「……近くには、いないの?」
「わからん。だが、警戒しておいていいだろうな」
「そうだね。夏希ちゃん、ポーションは持ってる?」
「持ってます!」
「それじゃあ、冬華ちゃんが飲めるようになったらすぐに飲ませてあげてね!」
「わかりました!」
警戒心を強めながら、二人は一人で凜音を抑えているガゼルの下へと急いだ。
激しい戦闘音が響いているので居場所はすぐにわかったが、こちらは一対一になったことでだいぶ余裕を持って戦えていた。
「おー、来たかー」
『グガアアアアァァッ!』
四本の腕の一つには剣が握られており、残りは素手だが鋭い拳が打ち出されている。
四方向からの攻撃なのだが、ガゼルは大剣で斬撃を防ぎながら拳は全て紙一重で回避している。
それも、二人が到着すると声まで掛けているので凜音からすると挑発されていると思うだろう。
「ガゼルさん! 凜音ちゃんを助ける方法があります!」
「おっ! マジか、教えてくれ!」
「凜音ちゃんは……左肩です! 左肩を貫いてください!」
「左肩だな! 任せろ!」
『グガガガガアアアアァァッ!』
そう自信たっぷりに答えたガゼルの速度が一気に上がる。
先ほどまでは防御に専念して動きを抑えていたのだが、今は違う。
凜音もガゼルの動きが変わったことに気づいたのか、咆哮をあげながら攻撃を加速させる。
しかし、ガゼルの変化とは天と地の差があった。
「遅い、遅いぜ!」
『グ、グガガ、グガガアアアアァァッ!』
ガゼルはすでに大剣の間合いに凜音を捉えている。
すぐに振り抜かないのは他の部分を傷つけて、凜音が人間に戻った時に傷を負ってしまわないかというガゼルの配慮でもあった。
「んじゃまあ、倒れてくれや!」
大振りになりそうな大剣を細かく動かして体に引き寄せたガゼルは、鋭い刺突を放ち左肩に剣先が命中した。
――バキンッ!
冬華の時と同じ何かが砕けるような音が聞こえてくると、凜音が絶叫をあげながら悶え始めた。
『グゲゲガガガガ、ギギャアアアアァァアアァァッ!?』
二本の腕が頭を抱え、残り二本の腕が胸を押さえている。
そして、こちらも冬華と同じで漆黒の煙が抜け出ていき、凜音が人の姿に戻って倒れた。
「鈴音ちゃん! ……あぁ、よかった。息をしてるよ!」
明日香がホッと胸を撫で下ろすと、ガゼルがすぐに抱き上げた。
「さっさとナツキのところに戻るぞ!」
「そうだな。聖女の力があるとはいえ、ガクトが見えないのは不安が強い」
「うん。すぐに戻ろう!」
明日香が立ち上がると、そのまま三人で夏希が待つ場所まで走っていく。
幸いなことに岳人が迫っているということもなく、合流すると全員で聖女の守りの中に入って冬華と凜音の状態を確認した。
「まだ目を覚ましません」
「ポーションは念のため一本ずつ残しておこう。夏希ちゃんはどのポーションを持ってるの?」
「下級ポーションが三本と、中級ポーションが二本です」
「私は中級ポーションが五本か。……よし、二人には私の二本を使おう」
「えっ? でも、それだと本数が少なくなりますよ?」
心配そうに明日香を見た夏希だったが、明日香は笑顔で返しながら口を開いた。
「大丈夫だよ。これからは一緒に行動するんだもんね」
「そういうことだ。回復量で言えば中級ポーション三本の方が高いからな」
「あとはガクトって奴だけなんだろう? さっさと倒して人に戻してやろうぜ、ナツキ!」
「……は、はい! ありがとうございます、皆さん!」
中級ポーションであれば酷い傷でも治すことができる。目を覚まして飲める状態になれば問題はないはずだと夏希は安堵する。
そして、残る岳人を見つけるために明日香は周囲へ視線を向けた。
「夏希ちゃんは冬華ちゃんを見ていてちょうだい!」
「あ、明日香さんは?」
「私はイーライと一緒にガゼルさんのところに行くわ!」
「砕いた何かの場所を教えてくれ、アスカ!」
このまま凜音を助けるには明日香の助けが必要だとわかっていたイーライが声を掛ける。
明日香もそのつもりだったのですぐに立ち上がる。
「気をつけてください! まだ――岳人さんがどこかにいるんです!」
「「――!!」」
夏希の言葉を受けて、二人はすぐに周囲へ視線を巡らせた。
イーライは気配を探り、明日香はメガネで捉えられないかと首を振る。
しかし、岳人の存在を確認することは出来なかった。
「……近くには、いないの?」
「わからん。だが、警戒しておいていいだろうな」
「そうだね。夏希ちゃん、ポーションは持ってる?」
「持ってます!」
「それじゃあ、冬華ちゃんが飲めるようになったらすぐに飲ませてあげてね!」
「わかりました!」
警戒心を強めながら、二人は一人で凜音を抑えているガゼルの下へと急いだ。
激しい戦闘音が響いているので居場所はすぐにわかったが、こちらは一対一になったことでだいぶ余裕を持って戦えていた。
「おー、来たかー」
『グガアアアアァァッ!』
四本の腕の一つには剣が握られており、残りは素手だが鋭い拳が打ち出されている。
四方向からの攻撃なのだが、ガゼルは大剣で斬撃を防ぎながら拳は全て紙一重で回避している。
それも、二人が到着すると声まで掛けているので凜音からすると挑発されていると思うだろう。
「ガゼルさん! 凜音ちゃんを助ける方法があります!」
「おっ! マジか、教えてくれ!」
「凜音ちゃんは……左肩です! 左肩を貫いてください!」
「左肩だな! 任せろ!」
『グガガガガアアアアァァッ!』
そう自信たっぷりに答えたガゼルの速度が一気に上がる。
先ほどまでは防御に専念して動きを抑えていたのだが、今は違う。
凜音もガゼルの動きが変わったことに気づいたのか、咆哮をあげながら攻撃を加速させる。
しかし、ガゼルの変化とは天と地の差があった。
「遅い、遅いぜ!」
『グ、グガガ、グガガアアアアァァッ!』
ガゼルはすでに大剣の間合いに凜音を捉えている。
すぐに振り抜かないのは他の部分を傷つけて、凜音が人間に戻った時に傷を負ってしまわないかというガゼルの配慮でもあった。
「んじゃまあ、倒れてくれや!」
大振りになりそうな大剣を細かく動かして体に引き寄せたガゼルは、鋭い刺突を放ち左肩に剣先が命中した。
――バキンッ!
冬華の時と同じ何かが砕けるような音が聞こえてくると、凜音が絶叫をあげながら悶え始めた。
『グゲゲガガガガ、ギギャアアアアァァアアァァッ!?』
二本の腕が頭を抱え、残り二本の腕が胸を押さえている。
そして、こちらも冬華と同じで漆黒の煙が抜け出ていき、凜音が人の姿に戻って倒れた。
「鈴音ちゃん! ……あぁ、よかった。息をしてるよ!」
明日香がホッと胸を撫で下ろすと、ガゼルがすぐに抱き上げた。
「さっさとナツキのところに戻るぞ!」
「そうだな。聖女の力があるとはいえ、ガクトが見えないのは不安が強い」
「うん。すぐに戻ろう!」
明日香が立ち上がると、そのまま三人で夏希が待つ場所まで走っていく。
幸いなことに岳人が迫っているということもなく、合流すると全員で聖女の守りの中に入って冬華と凜音の状態を確認した。
「まだ目を覚ましません」
「ポーションは念のため一本ずつ残しておこう。夏希ちゃんはどのポーションを持ってるの?」
「下級ポーションが三本と、中級ポーションが二本です」
「私は中級ポーションが五本か。……よし、二人には私の二本を使おう」
「えっ? でも、それだと本数が少なくなりますよ?」
心配そうに明日香を見た夏希だったが、明日香は笑顔で返しながら口を開いた。
「大丈夫だよ。これからは一緒に行動するんだもんね」
「そういうことだ。回復量で言えば中級ポーション三本の方が高いからな」
「あとはガクトって奴だけなんだろう? さっさと倒して人に戻してやろうぜ、ナツキ!」
「……は、はい! ありがとうございます、皆さん!」
中級ポーションであれば酷い傷でも治すことができる。目を覚まして飲める状態になれば問題はないはずだと夏希は安堵する。
そして、残る岳人を見つけるために明日香は周囲へ視線を向けた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫野真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる