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第一章:勇者召喚、おまけ付き

第47話:ガゼリア山脈の魔獣 11

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「ひいっ!?」
「こっちに来る!」
「二人とも、下がれ!」

 悲鳴をあげた夏希とは違い、明日香はしっかりとアースドラゴンを見ている。

「アースドラゴンが――飛んでくるよ!」
『グルオオアアアアアアアアァァァァッ!!』

 空を飛ぶ事ができないアースドラゴンだが、短くとも強靭な筋肉を備えている四肢で飛び上がる事は可能だ。
 地面を蹴りつけるとその場が大きく陥没する代わりに、アースドラゴンの巨体が宙を舞う。
 咄嗟の事に騎士団の面々は反応が遅れてしまったが、アル、リヒト、ダルトは違った。

「サンダーボルト!」
「アイススピア!」
「ギガフレア!」

 それぞれが持つ最大威力の魔法を放つ。
 全ての魔法が着弾したものの巨体の軌道を逸らすには至らず、アースドラゴンは真っすぐに明日香たちの下へ落下していく。

『グルゲゲガアアアアアアアアァァァァッ!』

 落下と同時に振り上げていた前足を一気に振り下ろすアースドラゴン。

「やらせるかああああああああぁぁぁぁっ!」

 その身に宿す魔力の全てを剣に纏わせて一気に振り上げるイーライ。
 アースドラゴンの前足とイーライの剣が衝突すると、あまりの威力に衝撃波が周囲へ迸る。

「ぐああああああああぁぁっ!」
「イーライ!」

 しかし、人の身で重力に引かれる巨体から放たれた一撃を受け止められるはずもなく、イーライはものすごい勢いで吹き飛ばされてしまう。
 地面を何度もバウンドし、崖に激突してひびを広げながらようやく止まる。
 ズルズルと背中をずり落としながら、イーライはその場に倒れ込んだ。

『グルアア?』

 しかし、イーライもただ吹き飛ばされただけではなかった。
 アースドラゴンに剣を叩きつけた時、防御を無視して全てを攻撃に注ぎ込み、舞い上がっていたアースドラゴンの上半身を打ち上げ、そのままひっくり返していたのだ。

「きっさまああああああああぁぁぁぁっ! セイントブレイドオオオオォォッ!」

 アースドラゴンは常に腹を地面に擦りつけており、攻撃を受ける事がほとんどない。
 故に、他の部分とは異なり腹だけは柔らかく、唯一の弱点になっている。
 ひっくり返った事で弱点をさらけ出しているアースドラゴンめがけて、怒り心頭のアルが光の剣を一気に突き立てた。

『グルギギギャアアアアアアアアァァアアァァッ!?』
「そのまま、突き破れ!」

 腹から体内に侵入したセイントブレイドは、そのまま十字の光を形作りアースドラゴンを中から切り裂いていく。
 大絶叫をあげるアースドラゴンだったが、徐々にその声を力を失っていき、最後にはその巨体を地面に投げ出して絶命した。

「……イーライ……イーライ!」

 アースドラゴンは死んだ。しかし、明日香の目にはその姿など映っていない。彼女はすでにイーライの下へ駆け出しており、その視界には彼しか映っていないからだ。
 地面に膝を付けて顔を覗き込み声を掛けるが、一向に反応を示さない。
 よく見ると体中が傷だらけになっており、鎧も所々で外装が吹き飛んでいる。

「わ、私が回復魔法を!」

 遅れてやって来た夏希が聖女の回復魔法を試みようとしたのだが、なぜか魔法が発動しない。

「……どうしたの、夏希ちゃん?」
「……あぁ……ま、魔力がもう、ありません」
「そんな! さっきポーションを飲んで傷が……あ、違う」

 ここで明日香はようやく気がついた。彼女が持ってきていたのはポーションであり、マジックポーションではない。
 体の傷は癒せたとしても、消費した魔力まで回復できるものではなかった。

「……ご、ごめんなさい! 助けてもらったのに、私は、役に立てない!」
「ううん、私の準備不足だもの。……待って、まだポーションは残っているわ!」

 明日香はポーチから最後のポーション――上級ポーションを取り出した。
 瀕死の重傷ですら一瞬で回復させてしまうと言われている上級ポーションを飲めば助かると信じて、イーライの頭を持ち上げると逆の手で飲ませようと近づけていく。しかし――

「……どうして……どうして飲んでくれないのよ!」

 直接口に付けて飲ませようとしても、ポーションは口端から頬を伝って零れ落ちていく。
 微かに息をしているものの、飲み込む力すらすでに残っていなかった。

「ヤマト様!」
「アスカ様!」

 そこへ駆けつけたアルとリヒト。

「イーライ!」
「誰か! 回復魔法を! もしくはマジックポーションは余っていませんか!」

 リヒトの声に騎士団をまとめていたダルトが確認を取るが、誰も魔力の余力はなく、マジックポーションも全て使い果たしていた。
 ダルトが悔しそうに首を横に振ると、アルもリヒトも愕然としてしまう。

「……イーライ……イーライ! 目を覚ましなさい、ポーションを飲みなさいよ、イーライ!」
「ヤマト様、イーライは、もう……」
「まだだよ! まだ、諦めない!」

 涙を流しながらアルを睨みつけた明日香は、手に持っていたポーションを自らの口に含んだ。そして――
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