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魔法競技会

進化する魔獣⑪

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 地面を焦がし、熱波が皮膚を撫でていく。
 火柱の中央にいるだろうデヴォルガンデがどうなったかは分からないが、アルは天にも届くかと錯覚させる巨大な火柱を顕現させた人物の方へ振り返った。

「……さすがは大隊長様ですね――グレン様」
「森を破壊するわけにはいかないからな。これでも手加減をしているのだぞ?」
「これで手加減?」

 グレンの言葉を受けてアルは再び火柱へ目を向けた。
 顕現してからしばらく経っているが、それでも火力が衰える兆しが見えてこない。それは大量の魔力を込めているという証拠でもある。
 それだけの事をしても後ろに立っているグレンは余裕の表情を浮かべている事から、魔法の腕前はこれまで出会ってきた中でも抜きん出ていると思っていいかもしれない。

「……デヴォルガンデは、死んだでしょうか?」
「どうだろうな。これで死ぬようなら、他の冒険者やお前に倒されていただろうがな」
『――くくくくっ。まあ、その通りであろうな!』

 火柱の中から声が聞こえてきたと思った瞬間、グレンの魔力を吹き飛ばすほどの膨大な魔力が津波のように吹きすさび火柱が弾け飛んだ。
 中心に立っていたのは当然ながらデヴォルガンデなのだが、巨大な火柱の中にいたにもかかわらず皮膚が所々焦げているだけでほぼ無傷の状態だった。

『なかなかに心地よい火力であったぞ?』
「心地よいか。さすがは堕神デヴォルガンデだな」
『貴様は何者だ? 最初から貴様が出てきておれば、ここまで苦戦する事はなかっただろうに』

 デヴォルガンデの言っている事は全くその通りだった。
 王や国を守る魔法師隊の大隊長がおいそれと出陣する事はできないだろうが、事はすでに冒険者や末端の魔法師ではどうしようもないところまで来てしまっている。
 実際にグレンが最初から出て来ていたらデヴォルガンデも対処していただろうが、それでも進化を繰り返してしまった現状は判断を遅らせてしまった王家の失態もあるかもしれなかった。

「これでも大隊長なのでな。冒険者や部下の仕事を簡単に奪うわけにはいかないのだよ。それに貴様は少しずつ進化を繰り返しているようだが、実際は簡単に今の状態になれたのではないか?」
『ほほう? どうしてそう思うのかな?』
「今までの情報を精査した結果だ。貴様、討伐に来た戦力に合わせて徐々に実力を開放していたな? 最初から今の姿であれば、私も即座に動いていたよ」
『……くくく、くはは、はははははっ! あぁ、その通りだ! 本当に面白かったぞ、勝てると思っていた人間が何故か勝てないと不思議がりながら死んでいく姿はな!』

 大声で笑いながらはっきりとそう口にしたデヴォルガンデに、アルは拳を握りしめながら怒りを露わにしている。
 だが、グレンは冷静にその様子を見据えており素早く次の魔法を構築するのと同時に発動していた。

「アイシクルソード」
『火力の次は冷気か! 安易な考えだな!』
「俺を忘れるなよ――ヘビーフォール!」
「ナイスタイミングだ!」
『たかが水の塊で何を――んん?』

 ダメージがないと確信を持っていたからかヘビーフォールをまともに受けたデヴォルガンデの周囲は水浸しになっている。
 そこへ降り注いだアイシクルソードが頭上からデヴォルガンデを――ではなく、足元に突き刺さりヘビーフォールの水だけではなく周囲の水気すらも凍らせていく。
 足が氷によって地面に縫い付けられたものの、デヴォルガンデの力をもってすれば簡単に破壊する事は可能だろう。
 だが、それでも構わないと承知の上でアルもヘビーフォールを放っていた。

『この程度で我の動きが止められるとでも――』
「トールハンマー!」
『これは!』

 流れるように強力な魔法を連発するグレンに、さすがのデヴォルガンデも驚きの声を漏らす。
 巨大な雷の鎚が振り下ろされると、激しい発光と共に強烈な雷撃がデヴォルガンデに襲い掛かる。
 周囲に舞い上がっている氷の結晶によって光は増幅されていき、離れて戦っているキリアンたちからは大爆発が起きたと錯覚したかもしれない。

『ぬおおおおぉぉぐがああああぁぁああぁぁぁぁっ!?!?』
「くおおっ!? こ、これでも仕留めきれないか!」
『……く、くくくく! まあまあの威力ではあるが、この程度では殺せないぞ!』

 雷撃により体に軽い痺れを覚えているものの、トールハンマーですら致命傷には至っていない。
 周囲にはまだ雷撃の余韻が残っており、人間であれば近づく事はできず、魔獣でも弱い個体であれば触れただけで絶命してしまうだろう。

「――なら、お前の首を落とせばいいんじゃないか?」
『貴様、何故ここにいる!?』

 雷撃をものともせず、倒し切れなかった時の事を考えて間合いを詰めていたアルは鞘に納めていたアルディソードを鋭く抜き放った。
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