239 / 361
代表選考会
スタンピード⑩
しおりを挟む
※※※※
エルザと別れたアルは戦域を徐々に中央へと移していた。
中央にはジラージやガバランを含めた冒険者の主力部隊が集まっているが、その変わりに魔獣の数も多くなっている。
一度崩れてしまえば冒険者はもちろんのこと、ユージュラッドにまで魔獣が到達してしまう恐れがあった。
「はあっ!」
『ゴベバラッ!』
「ふんっ!」
『ブジュララッ!』
「そりゃあっ!」
『ピギャギャアアアアッ!』
そして、アルの選択は正しかった。
一進一退の攻防が続いており、押されてはいないものの持久戦となればこちらが不利となる。
さらに、中央には大将首を討伐すべくフットザール家が前線に出てきている。
もし、魔獣に押されでもすれば冒険者を巻き込んでの広域魔法が放たれる可能性もあると踏んだからこそ、右側から中央まで移動してきたのだ。
「ガバランさん!」
「アルか! すまん、助かったぞ」
数分前、アミルダとペリナによる広域魔法が発動されて中央につながる山道の地形が変わっている。
あの魔法がここに放たれていたらと考えると、アルであってもゾッとしてしまう。
「おうっ! アルじゃねえか!」
「お疲れ様です、ルシアンさん」
「まあ、ひとまずは、だがな」
戦斧を肩に担いでフットザール家が進んで行った先に視線を向ける。
ジーレインに見られると文句を言われるだろうと隠れていたのだが、アルも彼らの装備を見ていた。
「……あれでは死にに行くようなものでは?」
「全く。アルにも分かることを、なんで大の大人が一緒にいるあいつらが気づかないかねぇ」
「ですが、彼らとてユージュラッドの上級貴族です。仕事は果たしてくれると思いますが」
ガバランの言う仕事というのは、大将首の討伐ではない。
「そうかあ? 上級貴族様だからこそ、自分たちの失態を隠すために失敗の狼煙を上げることを拒みそうだがなぁ」
ユージュラッド会議にて、それは決められたことだった。
大将首の討伐に成功すれば白い狼煙を。そして、失敗した場合は赤い狼煙を上げることになっている。
ジルストスは失敗などあり得ないと大口をたたいていたが、レオンやアミルダはほぼ確実に失敗するだろうと踏んでいた。
「誰か、偵察に出た方が良くないですか? もし失敗の狼煙が上げられなかったとすると、俺たちは大将首に奇襲を受けることもありますよ?」
それも、大量の魔獣を引き連れた大将首にだ。
「アミルダが言うには確か……あー、なんて名前だっけか?」
「フェルモニアですよ、ギルマス」
「おぉっ! そうだ、そいつだ。なんでも、魔獣が好む匂いを発しながら移動するってんだろ? 全く、迷惑な魔獣だぜ」
「そんな簡単な話をしているんじゃないんですよ! 強力な個体が大量の魔獣を引き連れてくるんですよ? それだけでも危機的状況じゃないですか!」
ガバランがやや怒鳴りながらジラージに詰め寄っている。
「そう怒るなよ。しかし、実際問題、魔獣がうようよいる山の中に送り出せるような奴がいないんだよなぁ」
「それは! ……そうですね」
「そうなんですか?」
「あぁ。Cランクの俺がギルマスの隣で戦ってるくらいだぞ? それ以上の冒険者が、今のユージュラッドにはいないんだよ」
「せめてBランク以上の剣士が必要だな。魔法だと、一度使ったら音で魔獣が寄って来ちまうからな」
この場ですぐに偵察として動けるのはジラージだけである。
しかし、ジラージには冒険者を統率する役割があり、むやみに持ち場を離れることができない。
「……それなら、俺が行きましょうか?」
となると、アルの選択は当然ながらこうなってしまう。
「いや、それはさすがに許可できんぞ」
「どうしてですか?」
「お前さんは最終的にフェルモニアを討伐するための切り札だ。それに、レオンも無理はするなと言っていたんじゃないか?」
図星である。
しかし、アルとしては無理をしているつもりは毛頭ない。
ただフットザール家の後方から様子を窺い、討伐失敗と見れば赤い狼煙を上げるだけだ。
あえて自分からフェルモニアに突っ込もうとはこれっぽっちも思っていなかった。
「アル。さすがに俺も承知しかねるな」
「ガバランさんもですか?」
「あぁ。アルの実力は知っているが、あまりにも危険過ぎる。それに、敵はフェルモニアだけじゃないし、山の中では視界も悪くなる。隠れている魔獣が突然襲い掛かってくることもあるんだぞ?」
そこでアルは考えた。
どうしたら自分が偵察として森の中へ入れるかを。
「……もし、俺が戻らなかったその時は、父上とルシアンさんが組んでください」
「おいおい、無茶を言うんじゃねえぞ!」
「元々はルシアンさんが父上と山に入るつもりだったんですよね?」
「それとこれとは話が──」
アルは間髪入れずにガバランへと顔を向ける。
「その時は、ガバランさんが冒険者をまとめてください」
「アル、無茶を言うな」
「何なら父上に声を掛けてください。父上なら、俺の選択を許してくれますから」
「おい! 止まれ、アル!」
そして、返事を聞くことなくアルは山の方へと駆け出した。
「大丈夫です! ちゃんと確認してから、赤い狼煙を上げますから!」
失敗が既定路線のまま話を終わらせたアルは、自然と笑みを浮かべたまま山の中へと消えていった。
エルザと別れたアルは戦域を徐々に中央へと移していた。
中央にはジラージやガバランを含めた冒険者の主力部隊が集まっているが、その変わりに魔獣の数も多くなっている。
一度崩れてしまえば冒険者はもちろんのこと、ユージュラッドにまで魔獣が到達してしまう恐れがあった。
「はあっ!」
『ゴベバラッ!』
「ふんっ!」
『ブジュララッ!』
「そりゃあっ!」
『ピギャギャアアアアッ!』
そして、アルの選択は正しかった。
一進一退の攻防が続いており、押されてはいないものの持久戦となればこちらが不利となる。
さらに、中央には大将首を討伐すべくフットザール家が前線に出てきている。
もし、魔獣に押されでもすれば冒険者を巻き込んでの広域魔法が放たれる可能性もあると踏んだからこそ、右側から中央まで移動してきたのだ。
「ガバランさん!」
「アルか! すまん、助かったぞ」
数分前、アミルダとペリナによる広域魔法が発動されて中央につながる山道の地形が変わっている。
あの魔法がここに放たれていたらと考えると、アルであってもゾッとしてしまう。
「おうっ! アルじゃねえか!」
「お疲れ様です、ルシアンさん」
「まあ、ひとまずは、だがな」
戦斧を肩に担いでフットザール家が進んで行った先に視線を向ける。
ジーレインに見られると文句を言われるだろうと隠れていたのだが、アルも彼らの装備を見ていた。
「……あれでは死にに行くようなものでは?」
「全く。アルにも分かることを、なんで大の大人が一緒にいるあいつらが気づかないかねぇ」
「ですが、彼らとてユージュラッドの上級貴族です。仕事は果たしてくれると思いますが」
ガバランの言う仕事というのは、大将首の討伐ではない。
「そうかあ? 上級貴族様だからこそ、自分たちの失態を隠すために失敗の狼煙を上げることを拒みそうだがなぁ」
ユージュラッド会議にて、それは決められたことだった。
大将首の討伐に成功すれば白い狼煙を。そして、失敗した場合は赤い狼煙を上げることになっている。
ジルストスは失敗などあり得ないと大口をたたいていたが、レオンやアミルダはほぼ確実に失敗するだろうと踏んでいた。
「誰か、偵察に出た方が良くないですか? もし失敗の狼煙が上げられなかったとすると、俺たちは大将首に奇襲を受けることもありますよ?」
それも、大量の魔獣を引き連れた大将首にだ。
「アミルダが言うには確か……あー、なんて名前だっけか?」
「フェルモニアですよ、ギルマス」
「おぉっ! そうだ、そいつだ。なんでも、魔獣が好む匂いを発しながら移動するってんだろ? 全く、迷惑な魔獣だぜ」
「そんな簡単な話をしているんじゃないんですよ! 強力な個体が大量の魔獣を引き連れてくるんですよ? それだけでも危機的状況じゃないですか!」
ガバランがやや怒鳴りながらジラージに詰め寄っている。
「そう怒るなよ。しかし、実際問題、魔獣がうようよいる山の中に送り出せるような奴がいないんだよなぁ」
「それは! ……そうですね」
「そうなんですか?」
「あぁ。Cランクの俺がギルマスの隣で戦ってるくらいだぞ? それ以上の冒険者が、今のユージュラッドにはいないんだよ」
「せめてBランク以上の剣士が必要だな。魔法だと、一度使ったら音で魔獣が寄って来ちまうからな」
この場ですぐに偵察として動けるのはジラージだけである。
しかし、ジラージには冒険者を統率する役割があり、むやみに持ち場を離れることができない。
「……それなら、俺が行きましょうか?」
となると、アルの選択は当然ながらこうなってしまう。
「いや、それはさすがに許可できんぞ」
「どうしてですか?」
「お前さんは最終的にフェルモニアを討伐するための切り札だ。それに、レオンも無理はするなと言っていたんじゃないか?」
図星である。
しかし、アルとしては無理をしているつもりは毛頭ない。
ただフットザール家の後方から様子を窺い、討伐失敗と見れば赤い狼煙を上げるだけだ。
あえて自分からフェルモニアに突っ込もうとはこれっぽっちも思っていなかった。
「アル。さすがに俺も承知しかねるな」
「ガバランさんもですか?」
「あぁ。アルの実力は知っているが、あまりにも危険過ぎる。それに、敵はフェルモニアだけじゃないし、山の中では視界も悪くなる。隠れている魔獣が突然襲い掛かってくることもあるんだぞ?」
そこでアルは考えた。
どうしたら自分が偵察として森の中へ入れるかを。
「……もし、俺が戻らなかったその時は、父上とルシアンさんが組んでください」
「おいおい、無茶を言うんじゃねえぞ!」
「元々はルシアンさんが父上と山に入るつもりだったんですよね?」
「それとこれとは話が──」
アルは間髪入れずにガバランへと顔を向ける。
「その時は、ガバランさんが冒険者をまとめてください」
「アル、無茶を言うな」
「何なら父上に声を掛けてください。父上なら、俺の選択を許してくれますから」
「おい! 止まれ、アル!」
そして、返事を聞くことなくアルは山の方へと駆け出した。
「大丈夫です! ちゃんと確認してから、赤い狼煙を上げますから!」
失敗が既定路線のまま話を終わらせたアルは、自然と笑みを浮かべたまま山の中へと消えていった。
0
お気に入りに追加
353
あなたにおすすめの小説
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?
初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。
俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。
神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。
希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。
そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。
俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。
予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・
だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・
いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。
神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う
馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない
そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!?
そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!?
農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!?
10個も願いがかなえられるらしい!
だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ
異世界なら何でもありでしょ?
ならのんびり生きたいな
小説家になろう!にも掲載しています
何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる