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魔法学園
ノワール家とザーラッド家
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その日の晩ご飯では、今日の出来事をレオンとラミアンに報告することにした。
すると、レオンはやや表情を曇らせており、ラミアンは小さく溜息をついていた。
「ふむ、ザーラッド家の次男だな」
「家系なのか、あちらの方々は少々礼儀に欠ける節がありますからね」
「ザーラッド家というのは、やはり上位貴族なのですか?」
アルの質問にはレオンが大きく頷いてから口を開いた。
「その通りだ。ノワール家は下位貴族だが、魔法の腕前で言えばザーラッド家よりも優れていると言われている。しかし、ザーラッド家から見れば疎ましいのだろうな、昔から目の敵にされ続けているのだよ」
「キリアンの時には学園にザーラッド家がいなかったですし、ガルボの同学年にもいないわね」
「たまたま、俺と同学年にゾランがいたということですね」
「ガルボは今年か来年の卒業だから何かされるということはないだろうが、アルは卒業まで付き合うことになる。気をつけるんだぞ」
「はぁ。全く、これでは気の休まる時間がありませんね」
「いえ、俺は家で過ごすこの時間はゆっくり休める時間ですから」
「まあ、アルったら」
屋敷での晩ご飯なのだが、この場には三人しかいない。
キリアンは政務に励んでおり屋敷には戻ってきておらず、アンナはエミリアから与えられた課題に取り組んでいる。
ガルボは部屋にこもりっきりで、最近は食事も部屋で摂っていた。
ラミアンが教師から聞いた話では、キリアンが三年で卒業を決めたこともあり、自分はどうしても今年卒業したいと焦っているのだとか。
「キリアンはキリアン、ガルボはガルボだ。何を焦ることがあるというのか」
「まあまあ。ガルボなりに頑張っているのだから、応援してあげるのが親の務めですよ」
「応援はしている。だが、焦る必要はないと言っているんだ。それも、家族の時間を削ってまでな」
アルは学園に入学してからは一度もガルボと食事を共にしたことがない。
学園で見かけることはあってもガルボがそれに気づくとさっさと離れていってしまうので声を掛けることもできずにいた。
「ガルボ兄上も目標を持って勉強に励んでいるんです。それに、俺だってキリアン兄上と比べられることもあるんですから、次男のガルボ兄上はその傾向が顕著なのではないですかね」
身内の言葉よりも、周りの言葉の方が耳にする機会は多い。
その周りがキリアンとガルボを比べているのであれば、焦る気持ちも分からなくはない。
「そうだ。俺の学年にはゾランがいますが、アンナはどうなんですか? まさか、同じ年にザーラッド家の子供がいるとかありませんよね?」
転生者であるアルの場合は子供の嫌がらせだと流すこともできるが、アンナの場合はそうではないだろう。
悪質な嫌がらせとなればレオンとラミアンが黙ってはいないだろうが、それでも何もない方がいいに決まっている。
「安心しろ。アンナと同じ年の子供はザーラッド家にはいない」
「他の貴族にはいますけど、皆さん良い方々ばかりですよ」
「そうなんですね、それはよかった」
アルがホッと胸を撫で下ろしていると、レオンとラミアンが笑みを溢している。
何か変なことでも言っただろうかと首を傾げていると、その理由を教えてくれた。
「大変なのはアル、お前だろうに」
「自分ではない別の人のことを心配できるだなんて、アルは本当に優しいんですね」
「それは、アンナだからですよ。俺にとっては大切な妹ですから」
アルベルトとして生きた時は一人っ子だった。
キリアンとガルボは優秀で、アルが心配することは一つもない。
だが、アンナは唯一アルが心配しても差し支えない相手だった。
「俺にできることがあったら、アンナには全てを与えたいと思っています」
「……そうか。それなら、この家にいる間はアンナのことをアルに任せてもいいかもしれないな」
「あら、あなた。そんなことを言ったらエミリア先生が拗ねてしまいますよ」
「あはは、エミリア先生には敵いませんよ。だって、俺の先生でもあるんですから」
たった三人の食事ではあったが、アルにとっては有意義な時間だった。
レオンとラミアンとの会話は常に貴重な情報を得ることができる。
そして、次の質問がアルにとっては一番聞きたいことになった。
「父上。もしですが、ゾランから嫌がらせに似た行為が確認できた場合、俺は真っ向から対立しても問題はないですか?」
アルの質問に対して、一瞬だけレオンのこめかみがピクリと動いく。そして、真剣な表情を浮かべたままはっきりと口にした。
「……叩き潰してやれ」
「……いいんですか?」
「あぁ。私もザーラッド家のあからさまな態度には飽き飽きしていたところだ。この辺りで、魔法技能に関しては白黒はっきりさせておきたいからな。それで親が出てくるようなことがあれば、私も真っ向から戦ってやろう」
魔法技能という部分をより強調して発言する辺り、それ以外の部分では上位貴族と下位貴族の差は大きいのかもしれない。
ともかく、レオンからの許可が下りたなら心置きなくやり合うことができる──学園という名の大義名分があるうちは。
「……ありがとうございます」
「……親の仕事だからな」
「うふふ、二人とも楽しそうね」
最後は全員が声を出して笑ったのだった。
すると、レオンはやや表情を曇らせており、ラミアンは小さく溜息をついていた。
「ふむ、ザーラッド家の次男だな」
「家系なのか、あちらの方々は少々礼儀に欠ける節がありますからね」
「ザーラッド家というのは、やはり上位貴族なのですか?」
アルの質問にはレオンが大きく頷いてから口を開いた。
「その通りだ。ノワール家は下位貴族だが、魔法の腕前で言えばザーラッド家よりも優れていると言われている。しかし、ザーラッド家から見れば疎ましいのだろうな、昔から目の敵にされ続けているのだよ」
「キリアンの時には学園にザーラッド家がいなかったですし、ガルボの同学年にもいないわね」
「たまたま、俺と同学年にゾランがいたということですね」
「ガルボは今年か来年の卒業だから何かされるということはないだろうが、アルは卒業まで付き合うことになる。気をつけるんだぞ」
「はぁ。全く、これでは気の休まる時間がありませんね」
「いえ、俺は家で過ごすこの時間はゆっくり休める時間ですから」
「まあ、アルったら」
屋敷での晩ご飯なのだが、この場には三人しかいない。
キリアンは政務に励んでおり屋敷には戻ってきておらず、アンナはエミリアから与えられた課題に取り組んでいる。
ガルボは部屋にこもりっきりで、最近は食事も部屋で摂っていた。
ラミアンが教師から聞いた話では、キリアンが三年で卒業を決めたこともあり、自分はどうしても今年卒業したいと焦っているのだとか。
「キリアンはキリアン、ガルボはガルボだ。何を焦ることがあるというのか」
「まあまあ。ガルボなりに頑張っているのだから、応援してあげるのが親の務めですよ」
「応援はしている。だが、焦る必要はないと言っているんだ。それも、家族の時間を削ってまでな」
アルは学園に入学してからは一度もガルボと食事を共にしたことがない。
学園で見かけることはあってもガルボがそれに気づくとさっさと離れていってしまうので声を掛けることもできずにいた。
「ガルボ兄上も目標を持って勉強に励んでいるんです。それに、俺だってキリアン兄上と比べられることもあるんですから、次男のガルボ兄上はその傾向が顕著なのではないですかね」
身内の言葉よりも、周りの言葉の方が耳にする機会は多い。
その周りがキリアンとガルボを比べているのであれば、焦る気持ちも分からなくはない。
「そうだ。俺の学年にはゾランがいますが、アンナはどうなんですか? まさか、同じ年にザーラッド家の子供がいるとかありませんよね?」
転生者であるアルの場合は子供の嫌がらせだと流すこともできるが、アンナの場合はそうではないだろう。
悪質な嫌がらせとなればレオンとラミアンが黙ってはいないだろうが、それでも何もない方がいいに決まっている。
「安心しろ。アンナと同じ年の子供はザーラッド家にはいない」
「他の貴族にはいますけど、皆さん良い方々ばかりですよ」
「そうなんですね、それはよかった」
アルがホッと胸を撫で下ろしていると、レオンとラミアンが笑みを溢している。
何か変なことでも言っただろうかと首を傾げていると、その理由を教えてくれた。
「大変なのはアル、お前だろうに」
「自分ではない別の人のことを心配できるだなんて、アルは本当に優しいんですね」
「それは、アンナだからですよ。俺にとっては大切な妹ですから」
アルベルトとして生きた時は一人っ子だった。
キリアンとガルボは優秀で、アルが心配することは一つもない。
だが、アンナは唯一アルが心配しても差し支えない相手だった。
「俺にできることがあったら、アンナには全てを与えたいと思っています」
「……そうか。それなら、この家にいる間はアンナのことをアルに任せてもいいかもしれないな」
「あら、あなた。そんなことを言ったらエミリア先生が拗ねてしまいますよ」
「あはは、エミリア先生には敵いませんよ。だって、俺の先生でもあるんですから」
たった三人の食事ではあったが、アルにとっては有意義な時間だった。
レオンとラミアンとの会話は常に貴重な情報を得ることができる。
そして、次の質問がアルにとっては一番聞きたいことになった。
「父上。もしですが、ゾランから嫌がらせに似た行為が確認できた場合、俺は真っ向から対立しても問題はないですか?」
アルの質問に対して、一瞬だけレオンのこめかみがピクリと動いく。そして、真剣な表情を浮かべたままはっきりと口にした。
「……叩き潰してやれ」
「……いいんですか?」
「あぁ。私もザーラッド家のあからさまな態度には飽き飽きしていたところだ。この辺りで、魔法技能に関しては白黒はっきりさせておきたいからな。それで親が出てくるようなことがあれば、私も真っ向から戦ってやろう」
魔法技能という部分をより強調して発言する辺り、それ以外の部分では上位貴族と下位貴族の差は大きいのかもしれない。
ともかく、レオンからの許可が下りたなら心置きなくやり合うことができる──学園という名の大義名分があるうちは。
「……ありがとうございます」
「……親の仕事だからな」
「うふふ、二人とも楽しそうね」
最後は全員が声を出して笑ったのだった。
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