上 下
45 / 361
最強剣士

最終確認

しおりを挟む
 学園での訓練とノワール家の屋敷での訓練を繰り返していった三人は、パーティ訓練を翌日に控えたその日に最後の模擬戦へと挑むことになった。
 チグサ対三人という構図での模擬戦は、今のところ三人の全敗である。
 しかし、前回の模擬戦では後一歩のところまで追い詰めることができたのでなんとかして勝利を掴み取りたいところだ。

「──フラッシュ!」

 アルが正面から光により視界を奪うための光魔法を発動した。
 チグサは腕で光を遮りながら、残る二人の動きを注視する。
 リリーナがウッドロープを使っているのは今までと同じなのだが、そのタイミングが少し早まっている。
 そしてクルルはというと、リリーナと同じでウッドロープを発動していた。
 ただ、リリーナのレベル2とは違いクルルの木属性はレベル1。
 魔法発動の速度も、威力も、比べ物にならない。
 故に、最初に到達したリリーナの魔法を回避した後に難なくクルルの魔法も回避する。
 そこに迫ってきたのは、またしてもウッドロープだった。

「アルお坊ちゃまも?」

 何を企んでいるのか、チグサの思考がフル回転して三人の思惑を探ろうとする。
 アルの魔法操作は随一だが、それでもレベル1である。
 良くてレベル2相当の威力と精度になるのでリリーナと同等か、魔法操作が上手い分より高い精度で迫って来た。
 思惑に行きつく前に魔法がチグサの足元に迫って来たことでいったん思考を停止して回避に専念する。
 しかし、ここでさらなる魔法がチグサめがけて放たれていた。

「──アーススピア!」
「──フレイムダンス!」
「ここで、初めての魔法ですか!」

 リリーナのアーススピアは、地面から土の槍が突き出てくる土属性魔法。
 クルルのフレイムダンスは、メガフレイムよりも威力は落ちるが広範囲に炎を吐き出すことができる火属性魔法。
 タイミングもずれることなく、完璧な同時攻撃になっていた。

「──アクアボム!」

 さらに正面からアルの追撃が放たれる。
 水属性魔法の丸い水の玉を撃ち出すのだが、触れた対象に高圧力の水の散弾を超至近距離から放つ。
 回避したとしても、地面に触れればそこから散弾が広範囲に撃ち出されるので二段構えの攻撃魔法になっている。

「三方向からの同時攻撃。なるほど、訓練の成果が現れていますね。ですが──」

 ここでチグサは大きく跳躍。
 全ての魔法が先ほどまでチグサが立っていた場所でぶつかり合い、爆発を起こして砂煙が舞い上がる。
 目指すべき着地地点に降り立とうとしたチグサだったが、そこにはいつの間にかアルが待ち構えていた。

「いつの間に!」
「チェックメイト、ですね?」

 着地をしたチグサの目の前に広げられたアルの右手。
 そこには深紅に揺れる高火力の小さな炎が顕現していた。

「……お見事です」
「……わ、私たち、勝ったの?」
「……勝った、勝ったんですね、アル様!」
「あぁ。二人の努力のおかげだよ」
「「やったー!」」

 諸手を上げてハイタッチを交わすリリーナとクルル。
 アルは右手で顕現させていた炎を消すと、そのままチグサと握手を交わす。

「ありがとうございました、チグサさん」
「いえ、これもリリーナお嬢様とクルルお嬢様の努力の結果でございます」

 お互いに笑みを浮かべた後、アルは壁際で模擬戦を観戦していたエミリアのところへ向かう。

「お疲れさまでした、アル君」
「エミリア先生、今回は助かりました。本当にありがとうございました」
「構いませんよ。これもアル君の成績のためですもの」

 冗談混じりの言葉に、アルは苦笑いしながら握手を求める。
 その手を握り返したエミリアの表情も満足気だ。
 喜び合っていた二人もそれぞれを指導してくれた者のところに移動してきており、エミリアのところにはリリーナがやって来た。

「エ、エミリア先生! 今日まで本当にありがとうございました!」
「よく頑張りましたね、リリーナさん。これはあなたの努力の結果なのですから、胸を張ってダンジョンに挑んでくださいね」
「はい! アル様も本当にありがとうございます」
「私へのお礼は必要ありません。お礼は、パーティ訓練を無事に終えることができた時までお互いに取っておきましょう」
「はい!」

 これほど嬉しそうなリリーナは見たことがない。
 魔法操作が苦手だと自ら口にしていたので、上達できたことが相当嬉しかったのだろう。
 クルルに視線を向けてみると、あちらも興奮したようにチグサにお礼を口にしているので似たようなものだった。

「……そうだ、エミリア先生。聞いておきたいことがあるんですがいいでしょうか?」
「答えられることなら構いませんよ」

 アルが質問を口にしたタイミングでクルルとチグサもやって来た。
 同じ質問をチグサにもしようと思っていたアルは、好都合だと思いそのまま口を開く。

「俺は魔獣がどのような存在なのかを知りません。そいつがどれだけ驚異なのかも。なので、魔獣についてご教授いただければと思いまして」
「魔獣についてですか。構いませんが、一度移動いたしましょうか」
「あっ、だったら俺の部屋でも構いませんか?」
「私は構わないのですが……全員、入りますか?」

 エミリアの質問にアルは首を傾げつつも視線を周囲に向けてみる。
 すると、リリーナやクルルもとても聞きたそうな表情でアルのことを見つめていた。

「……入りませんね」
「アルお坊ちゃま。応接室をご利用されてはいかがでしょうか?」
「そうだな。話を付けてきてもらってもいいですか、チグサさん?」
「かしこまりました。少しだけ、お待ちください」

 そうしてチグサが裏庭を後にしてから数分後──ラミアンから許可が下りたことで五人はノワール家の屋敷の中へと移動した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

邪神討伐後、異世界から追放された勇者は地球でスローライフを謳歌する ~邪神が復活したから戻って来いと言われても、今さらもう遅い~

八又ナガト
ファンタジー
「邪神を討伐した今、邪神をも超える勇者という存在は、民にとって新たなる恐怖を生み出すだけ。よって勇者アルスをこの世界から追放する!」  邪神討伐後、王都に帰還したアルスに待ち受けていたのは、アルスを異世界に追放するというふざけた宣告だった。  邪神を倒した勇者が、国王以上の権力と名声を持つことを嫌悪したからだ。 「確かに邪神は倒しましたが、あれは時間を経て復活する存在です。私を追放すれば、その時に対処できる人間がいなくなりますよ」 「ぬかせ! 邪神の討伐から復活までは、最低でも200年以上かかるという記録が残っている! 無駄な足掻きは止めろ!」  アルスの訴えもむなしく、王国に伝わる世界間転移魔法によって、アルスは異世界に追放されてしまうことになる。  だが、それでアルスが絶望することはなかった。 「これまではずっと勇者として戦い続けてきた。これからはこの世界で、ゆったりと余生を過ごすことにしよう!」  スローライフを満喫することにしたアルス。  その後、アルスは地球と呼ばれるその世界に住む少女とともに、何一つとして不自由のない幸せな日々を送ることになった。  一方、王国では未曽有の事態が発生していた。  神聖力と呼ばれる、邪悪な存在を消滅させる力を有している勇者がいなくなったことにより、世界のバランスは乱れ、一か月も経たないうちに新たな邪神が生まれようとしていた。  世界は滅亡への道を歩み始めるのだった。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...