27 / 99
第一章:逆行聖女
第27話:自警団員アリシア 5
しおりを挟む
「……そこまで、驚かないの?」
「ん? いや、まあ、そうだな」
アリシアからすると絶対に避けなければならない未来だったが、アーノルドからするとアリシアが死んでしまうという未来の方が気になってしまい、自分のことにはそう驚くことがなかった。
「もう! これはお父さんのことなんだからね!」
「そうなんだが……」
「やっぱり信じてくれていないのね!」
「それは違う! 私のことよりもアリシアのことが心配なんだ!」
「……私のことが、心配?」
何がそんなに心配なのかと首を傾げたアリシアに、アーノルドは苦笑を浮かべながら口を開く。
「今から一〇年以上先の話ということだが、私はアリシアが亡くなってしまう未来なんて、見たくはないからね」
「あ……うん、そうだよね。ごめん、怒鳴っちゃって」
「私も言葉足らずだったよ、すまないね」
お互いに謝罪を口にすると、アリシアは姿勢を正して話を続けた。
「私が剣を学んだのは、私が死んでしまう未来を変えるためなの。だけど、国のことを考えるあまり、身近で起きる悲劇について思い出すことを忘れていたの」
「身近で起きる悲劇……そのせいで、私は剣を握れなくなるということだね」
「……うん」
一つ頷いたアリシアは、小さく息を吐き出して気持ちを落ち着けると、身近で起きる悲劇について語り出した。
「今から三日後、森の中から大型の魔獣が現れるわ」
「大型の魔獣? ……まさか、シザーベアか?」
アーノルドの言葉にアリシアは大きく頷いた。
「シザーベアなら、何度も討伐してきたぞ?」
「私も知っているわ。だって、お父さんはとっても強い自警団団長だもの。……でも、三日後に現れるシザーベアは、今までの個体よりも大きくて、凶暴で、危険なの」
「ふむ……そいつは森の中の主かもしれないね」
「……心当たりがあるの?」
心配そうに顔を上げたアリシアだったが、アーノルドは彼女に心配させないようにと柔和な笑みを浮かべながら答えた。
「三年前、ヴァイスとジーナの父親が亡くなった時に現れたシザーベアかもしれない」
「そ、そんな!?」
三年前にディラーナ村を襲ったシザーベアがいた。
自警団が総出となり討伐を試みたものの、多くの犠牲の末に追い払うことしかできなかった。
その時に犠牲になった自警団員の中にヴォルスもいたのだ。
「ヴォルスは身を挺して多くの自警団員を守り抜いた。さらにそのシザーベアに深手を負わせたのもヴォルスなんだよ」
「……そうだったんだ」
「だが……いいことを聞いたかもしれないな」
「どういうこと?」
何がいいことなのかわからず問い返したのだが、その時のアーノルドの表情は優しい父親ではなく、自警団団長の顔をしていた。
「私の親友を殺したシザーベアを倒すことができるチャンスだからだよ」
テーブルの上に置かれていた両手を握りしめる力が強くなる。
その姿を見たアリシアの脳裏には、大怪我を負って戻ってきたあの日の父親の姿がフラッシュバックしてしまう。
「ダ、ダメだよ、お父さん!」
「大丈夫だよ、アリシア。今回はシザーベアの主が来ることを知っている。ならば、やりようはあるさ」
「それでもダメ! ……怖いよ、お父さん。またお父さんが大怪我をするんじゃないかって、怖いの」
再び体が震え出したアリシア。
しかし、今回の震えは不信感を抱かれると恐怖した時とは違い、アーノルドを失ってしまうのではないかという恐怖からくるものだった。
「万全の準備をしていく。安心して私たちの帰りを待っていてくれ」
「……本当に、大丈夫なの?」
「もちろんだ。私はまだまだ、アリシアを育てるために働かないといけないからね」
そう口にした時のアーノルドは、父親の表情に戻っていた。
しかし、アリシアの胸の中にある不安が消えることはなく、密かにとある決意を固めていたのだった。
「ん? いや、まあ、そうだな」
アリシアからすると絶対に避けなければならない未来だったが、アーノルドからするとアリシアが死んでしまうという未来の方が気になってしまい、自分のことにはそう驚くことがなかった。
「もう! これはお父さんのことなんだからね!」
「そうなんだが……」
「やっぱり信じてくれていないのね!」
「それは違う! 私のことよりもアリシアのことが心配なんだ!」
「……私のことが、心配?」
何がそんなに心配なのかと首を傾げたアリシアに、アーノルドは苦笑を浮かべながら口を開く。
「今から一〇年以上先の話ということだが、私はアリシアが亡くなってしまう未来なんて、見たくはないからね」
「あ……うん、そうだよね。ごめん、怒鳴っちゃって」
「私も言葉足らずだったよ、すまないね」
お互いに謝罪を口にすると、アリシアは姿勢を正して話を続けた。
「私が剣を学んだのは、私が死んでしまう未来を変えるためなの。だけど、国のことを考えるあまり、身近で起きる悲劇について思い出すことを忘れていたの」
「身近で起きる悲劇……そのせいで、私は剣を握れなくなるということだね」
「……うん」
一つ頷いたアリシアは、小さく息を吐き出して気持ちを落ち着けると、身近で起きる悲劇について語り出した。
「今から三日後、森の中から大型の魔獣が現れるわ」
「大型の魔獣? ……まさか、シザーベアか?」
アーノルドの言葉にアリシアは大きく頷いた。
「シザーベアなら、何度も討伐してきたぞ?」
「私も知っているわ。だって、お父さんはとっても強い自警団団長だもの。……でも、三日後に現れるシザーベアは、今までの個体よりも大きくて、凶暴で、危険なの」
「ふむ……そいつは森の中の主かもしれないね」
「……心当たりがあるの?」
心配そうに顔を上げたアリシアだったが、アーノルドは彼女に心配させないようにと柔和な笑みを浮かべながら答えた。
「三年前、ヴァイスとジーナの父親が亡くなった時に現れたシザーベアかもしれない」
「そ、そんな!?」
三年前にディラーナ村を襲ったシザーベアがいた。
自警団が総出となり討伐を試みたものの、多くの犠牲の末に追い払うことしかできなかった。
その時に犠牲になった自警団員の中にヴォルスもいたのだ。
「ヴォルスは身を挺して多くの自警団員を守り抜いた。さらにそのシザーベアに深手を負わせたのもヴォルスなんだよ」
「……そうだったんだ」
「だが……いいことを聞いたかもしれないな」
「どういうこと?」
何がいいことなのかわからず問い返したのだが、その時のアーノルドの表情は優しい父親ではなく、自警団団長の顔をしていた。
「私の親友を殺したシザーベアを倒すことができるチャンスだからだよ」
テーブルの上に置かれていた両手を握りしめる力が強くなる。
その姿を見たアリシアの脳裏には、大怪我を負って戻ってきたあの日の父親の姿がフラッシュバックしてしまう。
「ダ、ダメだよ、お父さん!」
「大丈夫だよ、アリシア。今回はシザーベアの主が来ることを知っている。ならば、やりようはあるさ」
「それでもダメ! ……怖いよ、お父さん。またお父さんが大怪我をするんじゃないかって、怖いの」
再び体が震え出したアリシア。
しかし、今回の震えは不信感を抱かれると恐怖した時とは違い、アーノルドを失ってしまうのではないかという恐怖からくるものだった。
「万全の準備をしていく。安心して私たちの帰りを待っていてくれ」
「……本当に、大丈夫なの?」
「もちろんだ。私はまだまだ、アリシアを育てるために働かないといけないからね」
そう口にした時のアーノルドは、父親の表情に戻っていた。
しかし、アリシアの胸の中にある不安が消えることはなく、密かにとある決意を固めていたのだった。
1
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます
との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。
(さて、さっさと逃げ出すわよ)
公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。
リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。
どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。
結婚を申し込まれても・・
「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」
「「はあ? そこ?」」
ーーーーーー
設定かなりゆるゆる?
第一章完結
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる