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第一章:逆行聖女
第16話:剣士アリシア 10
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「……えっと、嘘でしょ?」
「……さ、さすがはアリシアだ!」
動体視力の確認方法は、アーノルドとシエナが上下左右に投げるボールを素早く掴む、というものだった。
最初はアーノルドがボールを投げたのだが、その全てをアリシアは掴んでしまう。
そこへシエナが『手加減しないでくださいよ!』と文句を口にしながらボールを投げる役割を変わった。
シエナは間違いなくアーノルドよりも厳しい場所にボールを投げた。
しかし、それすらもアリシアは掴み取ってしまう。
ただ触れるだけではなく、掴み取ってしまったのだ。
この結果にはボールを投げたシエナだけではなく、見守っていたアーノルドも驚きを隠せなかった。
「えっと、これってすごいんですか?」
「すごいってものじゃないわよ! アリシアちゃん、どうしてそんなに動体視力がいいのよ!」
「それは私の娘だから――」
「団長は黙っていてください!」
親バカなアーノルドの意見には耳を貸さず、シエナはアリシアからの答えを求めた。
だが、アリシアもどうしてここまで素早く反応できたのか、自分でもよくわかっていない。
しかし、可能性ということでいえば身に覚えが一つだけある。
それは――五年後に聖女になる、ということだ。
前世では聖女になるなど夢にも思っていなかったので、子供らしく元気いっぱいにただ遊びまわっていた。
もしかすると、その時から動体視力もよかったのかもしれないが、ちゃんと確認を取ったことはなかったので気づかなかっただけかもしれないのだ。
「えっと、私もよくわかりません。日常的に遊びまわっていたからかも?」
「そうかなー? 私も子供の頃は村の中を走り回っていたんだけどなー?」
「お前とアリシアでは遊び方の質が違う――」
「それじゃあ、アリシアちゃんと一緒に遊んでいたお友達にもやってもらう?」
「……お前、団長である私の言葉を無視するな!」
アーノルドの言葉を遮りつつ、シエナは本気でアリシアの高い能力を解明したいと考えていた。
「そ、それよりも私用の柔の剣を考えませんか? 私はそっちの方が気になります!」
しかし、アリシアとしてはそれを調べられたとしても答えが出るとは思えず、本来の目的を進めようと口にした。
「そうだぞ、シエナ! アリシアの目的は柔の剣を学ぶことなんだからな!」
「えぇ~? ……でもまあ、仕方ないですか」
諦めきれないのか表情は悔しそうにしているが、アリシアがそう言うのならばとシエナも気持ちを切り替えた。
「それだけの動体視力を持っているのなら、鋭い一撃を相手の攻撃を見極めて放つ柔の剣が最適かもしれないな」
「そうですね。しかも、ボールを掴み取ったってことは反射神経も最高のものを持っていますよ」
「守り主体のカウンタースタイルが、最大の攻撃手段になりそうだな」
二人の真剣な姿を見て、アリシアは緊張しながら話し合いが終わるのを待ち続けた。
素人の自分が口を挟めるわけもなく、また二人のことを信じているからこそ、言われた通りにやれば上手くいくとも考えていた。
二人の話し合いはしばらく続き、休憩のために多くの自警団員が詰め所の中に戻ってきていたが、そのことにすら気づかないほど話し合いに集中している。
こうして待っていること――二時間あまり、二人はようやく話し合いを終えて顔を上げるとアリシアへ視線を向けた。
「「で、できた!!」」
――ぐううぅぅぅぅ。
しかし、あまりにも時間が経ち過ぎて、三人のお腹が同時に音を立てた。
それぞれが顔を赤く染め、顔を見合わせると苦笑いを浮かべる。
「……あー、まずは腹ごしらえから、するか?」
「……そ、それがいいですねー、あははー」
「……うふふ。そうしようよ、お父さん、シエナさん! あー、お腹空いたなー!」
恥ずかしそうにしている二人に変わり、アリシアがおどけた感じでそう口にする。
すると今度は二人が空笑いを浮かべ、そのまま食堂へと足を向けたのだった。
「……さ、さすがはアリシアだ!」
動体視力の確認方法は、アーノルドとシエナが上下左右に投げるボールを素早く掴む、というものだった。
最初はアーノルドがボールを投げたのだが、その全てをアリシアは掴んでしまう。
そこへシエナが『手加減しないでくださいよ!』と文句を口にしながらボールを投げる役割を変わった。
シエナは間違いなくアーノルドよりも厳しい場所にボールを投げた。
しかし、それすらもアリシアは掴み取ってしまう。
ただ触れるだけではなく、掴み取ってしまったのだ。
この結果にはボールを投げたシエナだけではなく、見守っていたアーノルドも驚きを隠せなかった。
「えっと、これってすごいんですか?」
「すごいってものじゃないわよ! アリシアちゃん、どうしてそんなに動体視力がいいのよ!」
「それは私の娘だから――」
「団長は黙っていてください!」
親バカなアーノルドの意見には耳を貸さず、シエナはアリシアからの答えを求めた。
だが、アリシアもどうしてここまで素早く反応できたのか、自分でもよくわかっていない。
しかし、可能性ということでいえば身に覚えが一つだけある。
それは――五年後に聖女になる、ということだ。
前世では聖女になるなど夢にも思っていなかったので、子供らしく元気いっぱいにただ遊びまわっていた。
もしかすると、その時から動体視力もよかったのかもしれないが、ちゃんと確認を取ったことはなかったので気づかなかっただけかもしれないのだ。
「えっと、私もよくわかりません。日常的に遊びまわっていたからかも?」
「そうかなー? 私も子供の頃は村の中を走り回っていたんだけどなー?」
「お前とアリシアでは遊び方の質が違う――」
「それじゃあ、アリシアちゃんと一緒に遊んでいたお友達にもやってもらう?」
「……お前、団長である私の言葉を無視するな!」
アーノルドの言葉を遮りつつ、シエナは本気でアリシアの高い能力を解明したいと考えていた。
「そ、それよりも私用の柔の剣を考えませんか? 私はそっちの方が気になります!」
しかし、アリシアとしてはそれを調べられたとしても答えが出るとは思えず、本来の目的を進めようと口にした。
「そうだぞ、シエナ! アリシアの目的は柔の剣を学ぶことなんだからな!」
「えぇ~? ……でもまあ、仕方ないですか」
諦めきれないのか表情は悔しそうにしているが、アリシアがそう言うのならばとシエナも気持ちを切り替えた。
「それだけの動体視力を持っているのなら、鋭い一撃を相手の攻撃を見極めて放つ柔の剣が最適かもしれないな」
「そうですね。しかも、ボールを掴み取ったってことは反射神経も最高のものを持っていますよ」
「守り主体のカウンタースタイルが、最大の攻撃手段になりそうだな」
二人の真剣な姿を見て、アリシアは緊張しながら話し合いが終わるのを待ち続けた。
素人の自分が口を挟めるわけもなく、また二人のことを信じているからこそ、言われた通りにやれば上手くいくとも考えていた。
二人の話し合いはしばらく続き、休憩のために多くの自警団員が詰め所の中に戻ってきていたが、そのことにすら気づかないほど話し合いに集中している。
こうして待っていること――二時間あまり、二人はようやく話し合いを終えて顔を上げるとアリシアへ視線を向けた。
「「で、できた!!」」
――ぐううぅぅぅぅ。
しかし、あまりにも時間が経ち過ぎて、三人のお腹が同時に音を立てた。
それぞれが顔を赤く染め、顔を見合わせると苦笑いを浮かべる。
「……あー、まずは腹ごしらえから、するか?」
「……そ、それがいいですねー、あははー」
「……うふふ。そうしようよ、お父さん、シエナさん! あー、お腹空いたなー!」
恥ずかしそうにしている二人に変わり、アリシアがおどけた感じでそう口にする。
すると今度は二人が空笑いを浮かべ、そのまま食堂へと足を向けたのだった。
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