逆行聖女は剣を取る

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
16 / 99
第一章:逆行聖女

第16話:剣士アリシア 10

しおりを挟む
「……えっと、嘘でしょ?」
「……さ、さすがはアリシアだ!」

 動体視力の確認方法は、アーノルドとシエナが上下左右に投げるボールを素早く掴む、というものだった。
 最初はアーノルドがボールを投げたのだが、その全てをアリシアは掴んでしまう。
 そこへシエナが『手加減しないでくださいよ!』と文句を口にしながらボールを投げる役割を変わった。
 シエナは間違いなくアーノルドよりも厳しい場所にボールを投げた。
 しかし、それすらもアリシアは掴み取ってしまう。
 ただ触れるだけではなく、掴み取ってしまったのだ。
 この結果にはボールを投げたシエナだけではなく、見守っていたアーノルドも驚きを隠せなかった。

「えっと、これってすごいんですか?」
「すごいってものじゃないわよ! アリシアちゃん、どうしてそんなに動体視力がいいのよ!」
「それは私の娘だから――」
「団長は黙っていてください!」

 親バカなアーノルドの意見には耳を貸さず、シエナはアリシアからの答えを求めた。
 だが、アリシアもどうしてここまで素早く反応できたのか、自分でもよくわかっていない。
 しかし、可能性ということでいえば身に覚えが一つだけある。
 それは――五年後に聖女になる、ということだ。
 前世では聖女になるなど夢にも思っていなかったので、子供らしく元気いっぱいにただ遊びまわっていた。
 もしかすると、その時から動体視力もよかったのかもしれないが、ちゃんと確認を取ったことはなかったので気づかなかっただけかもしれないのだ。

「えっと、私もよくわかりません。日常的に遊びまわっていたからかも?」
「そうかなー? 私も子供の頃は村の中を走り回っていたんだけどなー?」
「お前とアリシアでは遊び方の質が違う――」
「それじゃあ、アリシアちゃんと一緒に遊んでいたお友達にもやってもらう?」
「……お前、団長である私の言葉を無視するな!」

 アーノルドの言葉を遮りつつ、シエナは本気でアリシアの高い能力を解明したいと考えていた。

「そ、それよりも私用の柔の剣を考えませんか? 私はそっちの方が気になります!」

 しかし、アリシアとしてはそれを調べられたとしても答えが出るとは思えず、本来の目的を進めようと口にした。

「そうだぞ、シエナ! アリシアの目的は柔の剣を学ぶことなんだからな!」
「えぇ~? ……でもまあ、仕方ないですか」

 諦めきれないのか表情は悔しそうにしているが、アリシアがそう言うのならばとシエナも気持ちを切り替えた。

「それだけの動体視力を持っているのなら、鋭い一撃を相手の攻撃を見極めて放つ柔の剣が最適かもしれないな」
「そうですね。しかも、ボールを掴み取ったってことは反射神経も最高のものを持っていますよ」
「守り主体のカウンタースタイルが、最大の攻撃手段になりそうだな」

 二人の真剣な姿を見て、アリシアは緊張しながら話し合いが終わるのを待ち続けた。
 素人の自分が口を挟めるわけもなく、また二人のことを信じているからこそ、言われた通りにやれば上手くいくとも考えていた。
 二人の話し合いはしばらく続き、休憩のために多くの自警団員が詰め所の中に戻ってきていたが、そのことにすら気づかないほど話し合いに集中している。
 こうして待っていること――二時間あまり、二人はようやく話し合いを終えて顔を上げるとアリシアへ視線を向けた。

「「で、できた!!」」

 ――ぐううぅぅぅぅ。

 しかし、あまりにも時間が経ち過ぎて、三人のお腹が同時に音を立てた。
 それぞれが顔を赤く染め、顔を見合わせると苦笑いを浮かべる。

「……あー、まずは腹ごしらえから、するか?」
「……そ、それがいいですねー、あははー」
「……うふふ。そうしようよ、お父さん、シエナさん! あー、お腹空いたなー!」

 恥ずかしそうにしている二人に変わり、アリシアがおどけた感じでそう口にする。
 すると今度は二人が空笑いを浮かべ、そのまま食堂へと足を向けたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...