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第一章:逆行聖女
第11話:剣士アリシア 5
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翌朝、アリシアたちは朝ご飯を終えると揃って出掛けた。
場所はアーノルドの職場でもある自警団の詰め所であり、そこでアリシアへ指導を行うことになった。
「……あ、あの、お父さん? 本当にここでやるの?」
「私も仕事があるからね、今日は家ではできないんだよ」
「それはわかるんだけど……みんなからの視線が……」
アリシアが詰め所に顔を出すのは珍しくない。
よくアーノルドの顔を見るために足を運んでおり、自警団員にも顔を覚えられている。
しかし今回はアリシアの手の中に木剣が抱かれており、これからいったい何が始まるのかと自警団員は興味津々で二人に視線を向けていた。
「なーに、すぐに慣れるさ」
「……う、うん」
朝礼を始めるために自警団員は訓練場に集まっている。
一糸乱れぬ隊列を組んでおり、アーノルドは自警団員の正面に向かい合うようにして立つ。
アーノルドの後ろをついて歩いていたアリシアはどうしたらいいのかわからなくなってしまったが、彼に手招きをされたことで思わず歩き出したのだが――
「……あれ? ここって、みんなの真正面だよね!?」
「これより朝礼を始める!」
「「「「はい!」」」」
「ひゃあっ!?」
アーノルドの号令に続いて自警団員が揃って返事を返す。
あまりに大きな声にアリシアは小さく声をあげてしまう。
「本日は村周辺の見回りと各自の訓練を行う! 見回りは事前に決められている班で行うが、イレギュラーが発生した場合はその限りではない! 見回り班は注意深く周囲を観察し、異変を見逃さないように!」
「「「「はい!」」」」
「以上! 解散!」
「「「「はい!」」」」
「……みんな、すごいなぁ」
今度の返事には驚くことなく、自警団員の揃った声に感嘆の声を漏らす。
見回り班が訓練場をあとにしていく中、アーノルドはキラキラした目を自警団員に向けていたアリシアに声を掛けた。
「驚いたかい?」
「……最初こそ驚いたけど、今は尊敬しているわ! お父さんも格好よかったもの!」
「……そ、そうか?」
「うん!」
格好いいという言葉に照れながら、アーノルドは訓練場の隅の方へアリシアと一緒に移動する。
その姿を訓練を行う自警団員がここでも興味津々で見つめていたのだが、その中で一人の女性がアーノルドに声を掛けた。
「団長!」
「ん? どうしたんだ――シエナ」
明るい赤髪が特徴的な女性自警団員のシエナは、ムッとした表情のままアーノルドへ詰め寄っていく。
「どうしたんだ? ではありません! アリシアちゃんに何をさせるつもりですか!」
「これはアリシアが剣を――」
「こんなにも可愛らしいアリシアちゃんに剣術を教えようと思っているのですか!」
「いや、だからアリシアがだな――」
「言い訳は必要ありません! アリシアちゃんが可哀想だとは思わないのですか!」
「シ、シエナ? 私の話も聞いてくれ――」
「さあ、アリシアちゃん。私と一緒にお家に帰りましょう?」
全く話を聞いてくれないシエナに、アーノルドは顔を手で覆いどうしたものかと考える。
一方でシエナはアリシアに手を差し出しているのだが、当然だが彼女がその手を掴むことはなかった。
「どうしたの、アリシアちゃん?」
「えっと、剣は私から習いたいって、お父さんにお願いしたんです」
「……えっ?」
「その、だから、あまりお父さんを怒らないでください」
まさかアリシアから剣を習いたいと口にしていたとは思ってもおらず、シエナは手を差し出したままの態勢で固まってしまう。
そして、まるで機械仕掛けの人形のようにカクカクした動きで顔をアーノルドに向けた。
「……そ、それは本当なのですか、団長?」
「アリシアの言う通りだ。私からアリシアに剣を習えなど、言うわけがないだろう」
「……そ、そういうことは早く言ってくださいよ! めっちゃ恥ずかしいじゃないですか!」
「お前が人の話を聞かないからだろう」
「あわわわわ! ご、ごめんね、アリシアちゃん!」
顔を真っ赤にして恥ずかしがったシエナが何度も頭を下げている姿に、アリシアは慌てて口を開いた。
「あ、あの、謝らないでください! シエナさんが私を心配して言ってくれていたのはわかっていますから!」
「……ア、アリジアぢゃ~ん!」
「きゃあっ!」
突然涙を流しながら抱きついてきたシエナに、アリシアは困惑してしまう。
「おい、シエナ。アリシアが困っているだろう」
「はっ! ほ、本当にごめんね!」
「大丈夫ですよ、シエナさん」
シエナの誤解も解けたところで、アリシアの指導がようやく始まった。
場所はアーノルドの職場でもある自警団の詰め所であり、そこでアリシアへ指導を行うことになった。
「……あ、あの、お父さん? 本当にここでやるの?」
「私も仕事があるからね、今日は家ではできないんだよ」
「それはわかるんだけど……みんなからの視線が……」
アリシアが詰め所に顔を出すのは珍しくない。
よくアーノルドの顔を見るために足を運んでおり、自警団員にも顔を覚えられている。
しかし今回はアリシアの手の中に木剣が抱かれており、これからいったい何が始まるのかと自警団員は興味津々で二人に視線を向けていた。
「なーに、すぐに慣れるさ」
「……う、うん」
朝礼を始めるために自警団員は訓練場に集まっている。
一糸乱れぬ隊列を組んでおり、アーノルドは自警団員の正面に向かい合うようにして立つ。
アーノルドの後ろをついて歩いていたアリシアはどうしたらいいのかわからなくなってしまったが、彼に手招きをされたことで思わず歩き出したのだが――
「……あれ? ここって、みんなの真正面だよね!?」
「これより朝礼を始める!」
「「「「はい!」」」」
「ひゃあっ!?」
アーノルドの号令に続いて自警団員が揃って返事を返す。
あまりに大きな声にアリシアは小さく声をあげてしまう。
「本日は村周辺の見回りと各自の訓練を行う! 見回りは事前に決められている班で行うが、イレギュラーが発生した場合はその限りではない! 見回り班は注意深く周囲を観察し、異変を見逃さないように!」
「「「「はい!」」」」
「以上! 解散!」
「「「「はい!」」」」
「……みんな、すごいなぁ」
今度の返事には驚くことなく、自警団員の揃った声に感嘆の声を漏らす。
見回り班が訓練場をあとにしていく中、アーノルドはキラキラした目を自警団員に向けていたアリシアに声を掛けた。
「驚いたかい?」
「……最初こそ驚いたけど、今は尊敬しているわ! お父さんも格好よかったもの!」
「……そ、そうか?」
「うん!」
格好いいという言葉に照れながら、アーノルドは訓練場の隅の方へアリシアと一緒に移動する。
その姿を訓練を行う自警団員がここでも興味津々で見つめていたのだが、その中で一人の女性がアーノルドに声を掛けた。
「団長!」
「ん? どうしたんだ――シエナ」
明るい赤髪が特徴的な女性自警団員のシエナは、ムッとした表情のままアーノルドへ詰め寄っていく。
「どうしたんだ? ではありません! アリシアちゃんに何をさせるつもりですか!」
「これはアリシアが剣を――」
「こんなにも可愛らしいアリシアちゃんに剣術を教えようと思っているのですか!」
「いや、だからアリシアがだな――」
「言い訳は必要ありません! アリシアちゃんが可哀想だとは思わないのですか!」
「シ、シエナ? 私の話も聞いてくれ――」
「さあ、アリシアちゃん。私と一緒にお家に帰りましょう?」
全く話を聞いてくれないシエナに、アーノルドは顔を手で覆いどうしたものかと考える。
一方でシエナはアリシアに手を差し出しているのだが、当然だが彼女がその手を掴むことはなかった。
「どうしたの、アリシアちゃん?」
「えっと、剣は私から習いたいって、お父さんにお願いしたんです」
「……えっ?」
「その、だから、あまりお父さんを怒らないでください」
まさかアリシアから剣を習いたいと口にしていたとは思ってもおらず、シエナは手を差し出したままの態勢で固まってしまう。
そして、まるで機械仕掛けの人形のようにカクカクした動きで顔をアーノルドに向けた。
「……そ、それは本当なのですか、団長?」
「アリシアの言う通りだ。私からアリシアに剣を習えなど、言うわけがないだろう」
「……そ、そういうことは早く言ってくださいよ! めっちゃ恥ずかしいじゃないですか!」
「お前が人の話を聞かないからだろう」
「あわわわわ! ご、ごめんね、アリシアちゃん!」
顔を真っ赤にして恥ずかしがったシエナが何度も頭を下げている姿に、アリシアは慌てて口を開いた。
「あ、あの、謝らないでください! シエナさんが私を心配して言ってくれていたのはわかっていますから!」
「……ア、アリジアぢゃ~ん!」
「きゃあっ!」
突然涙を流しながら抱きついてきたシエナに、アリシアは困惑してしまう。
「おい、シエナ。アリシアが困っているだろう」
「はっ! ほ、本当にごめんね!」
「大丈夫ですよ、シエナさん」
シエナの誤解も解けたところで、アリシアの指導がようやく始まった。
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