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第一部・海豹の章
16話 20万字ぐらいで書かれるような話を、3年後のおれは600字ぐらいでかたづけた
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縄文時代で3年間を過ごした未来のおれ、というか3年後のおれは、へ、だから酔ってないって言ってんだろ、と、酔っぱらいの常套句で語りはじめた。
*
最初にやったんは、井戸を作ることだね。どうもこのあたりは真水が手に入れにくくて、あ、そのまえにあれだ、フォークダンスを教えたんだよ。井戸掘りの歌。「マイム・マイム」。あのダンスは、井戸がうまいこと掘れてうれしいな、って歌だろ。あの子が欲しい、って歌と踊りじゃないんだよ。
で、みんなで作業してたら、お湯が出てきたんで、温泉浴場にしたんだよね。狩りのときの傷の湯治場にもなるし、体を清潔にしとけば疫病対策にもなるし、お湯に入ってると気持ちがいいから、ってことで、噂を聞きつけてやってくるヒトたちで大繁盛した。
山の狩猟民がお礼として持ってきてくれたイノシシとキジの干し肉で、おれはひらめいたのね。土地の名物料理にラーメンを作ろうと。なんでラーメンかというと、異世界転生なろう系スローライフだと、温泉にラーメン、これは定番だろう。ラーメンを作るには鶏ガラスープと豚骨スープと醤油、それに小麦粉が必要なんだけど、そういうの無理だから、キジガラとイノシシ骨と魚醤、それにソバ粉でけっこううまいものが作れた。
酒かあ、そんなんはヤマブドウとかドングリとか、自然発酵させれば簡単だよ。温泉、まがいラーメン、ヤマブドウ酒、で、この集落に住みつく人間もどんどん増えて、とりあえずミチオが成人になって、祝の酒盛りをやってたところに、この黒いおっさん、竜神っての、そいつが現れて言うんだよ。歴史変わっちゃったから、3年前からやり直せ、って。
*
なろう系スローライフ小説だと、20万字ぐらいで書かれるような話を、3年後のおれは600字ぐらいでかたづけた。だいたい話はわかったよ。でも、なんでシロはいないの。おれの一番弟子だった、あやかしネコのシロは。
源泉を拡張工事している際に、いきなり吹き出した、とても熱い湯と蒸気に当たって、シロは大やけどをした。急いでこのあたりでは一番の治療師のところに担ぎ込んだんだが、そのときにはもう手遅れだった……。
*
おれは浜辺の砂を叩いて涙を流した。それは熱くて苦しかったろうな。流した涙は砂の上に、雨のしずくのように垂れた。
しかしおれは、自分の右横3メートルほどのところに、50センチぐらいの大きさの黒い球体がぼんやりと存在するのに気がついた。涙をふき、ミチオが常備しているあやかし刀を素早く手に取り、抜き放ち、裂帛の気合を入れてその球を撃つと、中からシロと、時間遡行局コールセンターの下っ端であるクロウサギが出てきた。
……死んだ、ってのは嘘だぴょん、とシロは言い、申し訳ありません、あなた様がどうしてもこれやれって言うもんで、と、クロウサギは弁明した。
やーい、ひっかかった、ひっかかった、と、3年後のおれはげらげら笑い、おれも3年前はそうだったんだよ、と言った。
治療師の見立てでは確かにそう。もう手遅れだ、って言われたんで、だったらいつ担ぎ込めばよかったんですか先生、って聞いたら、熱湯を浴びる前だったらなんとかなったんだが、ということで、浴びる前にシロを助けたんだ、と、3年後のおれは説明した。
そうだよなあ、時間遡行の手を使えばそれできるよね。
こいつぅ、よくもおれを騙しやがったな、と、おれはシロを追っかけ、シロは、あはは、ごめんなさい、と言いながら逃げた。しかし砂浜では身の重いほうはうまく動けない。おれは足を滑らしてころび、逃げていたシロは立ち止まって戻ると、大丈夫ですか先生、と、おれを助け起こした。
そして、おれは気がついた。真っ白だったシロの左手、そのひじの内側の毛が、わずかに黒くなっていることに。
*
最初にやったんは、井戸を作ることだね。どうもこのあたりは真水が手に入れにくくて、あ、そのまえにあれだ、フォークダンスを教えたんだよ。井戸掘りの歌。「マイム・マイム」。あのダンスは、井戸がうまいこと掘れてうれしいな、って歌だろ。あの子が欲しい、って歌と踊りじゃないんだよ。
で、みんなで作業してたら、お湯が出てきたんで、温泉浴場にしたんだよね。狩りのときの傷の湯治場にもなるし、体を清潔にしとけば疫病対策にもなるし、お湯に入ってると気持ちがいいから、ってことで、噂を聞きつけてやってくるヒトたちで大繁盛した。
山の狩猟民がお礼として持ってきてくれたイノシシとキジの干し肉で、おれはひらめいたのね。土地の名物料理にラーメンを作ろうと。なんでラーメンかというと、異世界転生なろう系スローライフだと、温泉にラーメン、これは定番だろう。ラーメンを作るには鶏ガラスープと豚骨スープと醤油、それに小麦粉が必要なんだけど、そういうの無理だから、キジガラとイノシシ骨と魚醤、それにソバ粉でけっこううまいものが作れた。
酒かあ、そんなんはヤマブドウとかドングリとか、自然発酵させれば簡単だよ。温泉、まがいラーメン、ヤマブドウ酒、で、この集落に住みつく人間もどんどん増えて、とりあえずミチオが成人になって、祝の酒盛りをやってたところに、この黒いおっさん、竜神っての、そいつが現れて言うんだよ。歴史変わっちゃったから、3年前からやり直せ、って。
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なろう系スローライフ小説だと、20万字ぐらいで書かれるような話を、3年後のおれは600字ぐらいでかたづけた。だいたい話はわかったよ。でも、なんでシロはいないの。おれの一番弟子だった、あやかしネコのシロは。
源泉を拡張工事している際に、いきなり吹き出した、とても熱い湯と蒸気に当たって、シロは大やけどをした。急いでこのあたりでは一番の治療師のところに担ぎ込んだんだが、そのときにはもう手遅れだった……。
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おれは浜辺の砂を叩いて涙を流した。それは熱くて苦しかったろうな。流した涙は砂の上に、雨のしずくのように垂れた。
しかしおれは、自分の右横3メートルほどのところに、50センチぐらいの大きさの黒い球体がぼんやりと存在するのに気がついた。涙をふき、ミチオが常備しているあやかし刀を素早く手に取り、抜き放ち、裂帛の気合を入れてその球を撃つと、中からシロと、時間遡行局コールセンターの下っ端であるクロウサギが出てきた。
……死んだ、ってのは嘘だぴょん、とシロは言い、申し訳ありません、あなた様がどうしてもこれやれって言うもんで、と、クロウサギは弁明した。
やーい、ひっかかった、ひっかかった、と、3年後のおれはげらげら笑い、おれも3年前はそうだったんだよ、と言った。
治療師の見立てでは確かにそう。もう手遅れだ、って言われたんで、だったらいつ担ぎ込めばよかったんですか先生、って聞いたら、熱湯を浴びる前だったらなんとかなったんだが、ということで、浴びる前にシロを助けたんだ、と、3年後のおれは説明した。
そうだよなあ、時間遡行の手を使えばそれできるよね。
こいつぅ、よくもおれを騙しやがったな、と、おれはシロを追っかけ、シロは、あはは、ごめんなさい、と言いながら逃げた。しかし砂浜では身の重いほうはうまく動けない。おれは足を滑らしてころび、逃げていたシロは立ち止まって戻ると、大丈夫ですか先生、と、おれを助け起こした。
そして、おれは気がついた。真っ白だったシロの左手、そのひじの内側の毛が、わずかに黒くなっていることに。
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