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第十三章 金曜日の妹はいない

13-6話 松平さんの「クリムゾン・キングの宮殿」の解釈にはちょっと一言言いたくて

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「そう言えば、松平さんって悪役部の代表なのにどうして悪いこと今日はしないんですか?」と、図々しい今日の妹は聞いた。

 宴会芸が終わって、田部良紅羅架(たぶらくらか)さんに「これ飲めば元に戻るかもですよ」と渡されたポーションみたいなもののおかげで、3日後に死ぬ薬は解毒され、ようやくおれが物語を語れるようになったのだ。

「そう、まさにそれ! 悪役部が悪いことをするに決まっていると思われているのに、悪いことをしない! 悪役部に今日できる一番悪いことはそれなんです」と、白美神高校生徒会長・松平定子(まつだいらさだこ)さんは、魔法少女のスティックみたいな王笏を妹に向けて言った。

「じゃあまあそれは置いておいて…松平さんの「クリムゾン・キングの宮殿」の解釈にはちょっと一言言いたくて」と、妹は話を続けた。

     *

「クリムゾン・キングの宮殿」は、イギリスのプログレ・バンドであるキング・クリムゾンが1969年に発表したトータル・コンセプト・アルバム、つまり1枚のレコードで通しのコンセプトを持つアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』のラストに入っている曲で、ほぼ天才作詞家のピート・シンフィールドによって歌詞が作られた謎と暗喩に満ちた曲よね。この詩の中でもっとも興味深いのは、王であるクリムゾン・キング、あるいは女王であるクリムゾン・クイーンはその宮殿にいない、つまりさまざまな色彩がある中に欠けている「赤」に意味があることなの。

 よくって? 「音を鳴らす紫の笛吹き」「弔いの歌を歌う黒の女王」「常緑の植物を植える庭師」「柄模様の大道芸人」「虹色の船を追う私」「柔らかで灰色の朝」。五色不動尊の色の因縁がこんなところにもあるのよ。

     *

 相変わらず『虚無への供物』ごっこをしている妹である。

     *

 で、この「虹色の船を追う私」というのは兄上だよね。しかし不思議なものね、ここにこうして色にまつわる名前の人たちが集まるなんて。

 まず、美登里の「緑」、藤堂さん、つまり藤堂明音(とうどうあかね)先輩の「赤」、これは田部良紅羅架(たぶらくらか)さんはもっと赤いよね、それに流奇奈紘季(るきなひろき)くんの基本色である青。これは自分の名前の「直(なお)」も、実は「あお」をもじってつけられたの。で、ここに作者のもともとの創作メモを、実は自分は持ってるのね。その中では、松平定子(まつだいらさだこ)さんの名前は「公子(きみこ)」つまり黄色だったのよ。じゃあなんでそうならなかったかというと、歌詞の中で「黄色い道化は芝居をせず、あやつり糸をたくみにたぐって、人形たちの踊りにほほえむ」、つまり定子さんは芝居を演じる人形のひとつにすぎない、というのが作者の構想として変わったというわけ。じゃあ、真の黄色は誰かというと…その前に、真の白と黒の女王を紹介するわ。

     *

 三絡克真 (みつがねかつま)さんの太鼓、田部良紅羅架(たぶらくらか)さんの三味線、流奇奈紘季(るきなひろき)の笛によって演奏される「勧進帳」の出囃子に乗って、廊下側から舞台へやってきたのは、すみれ色の瞳と髪の毛の色を持つスレンダー気味な美人で、千鳥格子のおしゃれで春っぽいワンピースを着て、手には帽子を持っていた。

「どうもどうも、柄模様の大道芸人、物語部新部長の千登利門(ちどりもん)です」と、その子は右側を向いて挨拶した。

 そして、顔の向きを向かって左側にして、ムーンウォークでこう言った。

「今日は、宴会芸の締め、ラスト・ショーをやらしてもらうぜ」

 そして正面を向いて、帽子を前に投げると、両手で前を指差した。

 服の白黒の千鳥格子は、右半分と左半分とでは白黒のパターンが逆になっていて、右手と左手には白と黒の手袋をしていた。

「この私、白と黒の王がな!」

 ちなみに千登利先輩は三絡さんの飼い主で、女王ではなく王なのは、実は女装を趣味としている男子だから。胸もつけ胸である。

 そして世界は白と黒だけの色になった。
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