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第十三章 金曜日の妹はいない

13-1話 はじめて「みーちゃん」って言ってくれた!

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 目覚ましを止めて顔を洗いに洗面所に行くと、ああこれはエリー(真部岡恵留(まぶおかえる)さん)の匂いだな、と思えるようなコロンがあって、エリーは普通に食卓で和食の朝食を食べていた。※ここらへんの文章がひどいのは仕様です

「あれ、なんで妹いなくてエリーがいるの?」と、自分は聞いた。

「え…ワタシ以外に妹なんていませんよ?」と、エリーは言った。

 目が覚めた世界では、自分が兄上になっていて、自分、つまり妹がいない。正確には、結婚できる妹はいる。

 脳内カフェでぼんやり言われたことを思い出してみると、とりあえず今日はお前にまかせた、だっけ。夕飯までには何とかするから、だっけ。

 まかせた、じゃねーだろ。

 トイレは男子トイレと女子トイレを間違えなければ、最近は個室でする男子もいるみたいだからいいんだけど、入浴は堪忍してください。この話がアニメだったとしても、そんな視聴者サービスは望まれていないと思う。

     *

 通学路と電車の中は普段より少しだけ高い視線が新鮮で、エリーと美登里(冴野美登里(さやみどり))とみーちゃん(三絡克真 (みつがねかつま)さん)は同じ電車でガールズトークをしていて、自分はそれを少し見おろす形になってるが、話には混ざれない。

 昼食は屋上で、妹がいないだけのいつものメンバーだった。

 エリーが作ったおにぎりは4つあってさすがに多いので、おかかの奴をひとつ、みーちゃんにあげて聞いてみた。

「ところで、この世界でもみーちゃんって猫神様なの?」

 するとなぜか、猫神様の目がうるうるしはじめた。そんなにおにぎりが嬉しかったのか。

「は…は…はじめて「みーちゃん」って言ってくれた! いつも「三絡さん」なのに! …ところで猫神様って何?」

「え? ごめん、ちょっとなんか今朝から、脳の調子がおかしくって…自分、じゃなくておれたちってどうやって知り合いになったんだっけ」

「そんなことも忘れてるなんて、ひどい!」と、みーちゃんは怒り泣きした。

「今日のお兄様は少し変なのです」と、エリーは言った。

「ぼくたち3人は同じ神山田中学出身で、この高校へ願書を出したあと、昔からある神社へ合格祈願に行って、三絡だけ迷子になっちゃってさ」と、ヒロくん(流奇奈紘季(るきなひろき)くん)はていねいに説明してくれた。

 3人はコンビニで寄り道して、みーちゃんはスマホの入ったバッグごと置き忘れてしまったのに気がついて、取りに戻ろうとしたんだけど、もうコンビニも神社の場所もわからなくなって、ふたりとも連絡が取れなくなって、半泣きで歩いているところを、自分、つまり兄上が助けてあげたらしい。

「コンビニの場所を教えてくれて、鶏の空揚げとお茶までおごってくれて、一緒に神社まで来てくれたじゃん!」

「えーと…ご神木はどうだったっけ」

「ああ、あれは立派な大樹だったなあ」と、くらさん(田部良紅羅架(たぶらくらか)さん)は言った。

「雷が落ちたあとなんて、別になかったよ。それに、ぼくたちの中学は、昔は狐とか狸も人間のふりして通ってた、なんて昔話みたいなことも伝わってるくらいの田舎にあるけど、いくらなんでも今の時代に神様って」

 これでわかったことはふたつある。

 この世界には神様はいない。

 この世界のくらさんとみーちゃんは「友だち」で、くらさんとヒロくんは「恋人」だ。

 男子ひとりに女子ふたりのグループではありがちなことである。

     *

 日差しは暖かく、化学茶道部の茶室には4本の煙突が立って豚のバルーンが浮かんでいる。

 みーちゃんは自分の膝を枕に眠ってしまう。自分はみーちゃんの頭をなでてあげる。

「えー、みっちゃんだけずるいです!」と、エリーは反対側の肩に寄っかかる。

「モテモテだねぇ、敏行」と、美登里は自分の首をしめる。

 脳内カフェにあやうく行きそうになった。

 しかしこんなにモテモテだったのか、兄上は。なんかどうもおかしい。

 早く何とかしてください、兄上。放課後の生徒会の宴会までには何とか。

 それに、席夜晴香(せきやはるか)さんにもお願いします。
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