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第十二章 木曜日はわがまま
12-6話 こんな話で成仏できるかっ!
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今日の妹とはこれで最後か、と思いながら、おれたちはオムライスと卵入り中華スープと普通のご飯を食べた。
食後、妹は、何か甘いものでもコンビニに買いに行くから一緒に来て、とお願い(というより命令)したので、おれはあまり自信ない感じで霊具を持って外に出た。
桜はどんどん葉桜になり、月はどんどん欠けている。妹は歩きながらスイーツのどら焼きを食べて言った。
「今日は「…という話なんだ」というのはいいから」
「え…そうなの?」
「エリーや神様たちもいないし、もう4日目だろ。さっさと何かくれ」
どうも話の展開が早いな。まあ前の日までに起きたことは、妹の記憶が続いていても不思議ではない。続いていないのは、別の妹がいる別の世界の時空を生きた美登里その他ヒトたちだ。
おれは、桜貝のような貝殻が複雑に組み合わされている小さなウミガメの置物を渡して言った。
「あなたはわがままなお姫様。宮廷で兄の王子に愛されて育ったが、村の若者と恋をした。時代が変わり、王政を打倒するための革命軍の先頭に立った若者は、王子を殺そうとしたが、姫は兄を守って殺された…」
話を黙って聞いていた妹は、体が、明らかに怒りで震えだした。
「こ…こ…こんな…」
妹は霊具を握りつぶし、桜色の光の粒子が散らばると地面に広がって、半径5メートルほどの円形の、ふかふかのマットになった。
「こんな話で成仏できるかっ!」
妹のバックドロップが見事に決まり、おれは意識を失った。
*
脳内カフェは架空列車が走る架空線の脳内駅を降りて数分、脳内横丁に入る路地の角にあり、おれが気がついたのは路地の角のところで、昔っぽい、自動ドアじゃなくて入るとベルの音がする店に入ると、6人の妹が待ち構えていた。
「やっぱりねえ、勝てないんじゃないかと思ってたよ」と、ピンクの髪の妹はがっかりしながら言った。
「まったく不甲斐ない。それでも私の兄なのか」と、赤い髪の妹は怒りながら言った。
「同情はしますけど、わたくしの話と同じようなものを作ってはいけないのです」と、緑の髪の妹は同情しながら言った。
「で、どうするのよ、兄上」と、青い髪の妹はにやにやしながら言った。
「緊急回避モードでの再起動が必要ですか?」と、黄色い髪の妹は真顔で言った。
「だいたい、その物語に桜貝とウミガメ、関係ねーじゃん」と、今日の妹である紫の髪の妹は不機嫌に言って、テーブルを叩いたので、6人が注文した飲み物の器と、中の液体が揺れた。
この店はおれも多分ときどき来てはいるんだけど、出たらすぐに来たことを忘れてしまうことを思い出した。
「ごめん、じゃあもうしばらく考えさせて。あ、おれはカフェラテで」
さあどうしよう、と、痛い頭を片手で押さえながら考えていると、店の奥、窓際の席に座っていた、三つ編みで地味な眼鏡をかけた地味な女の子が近づいてきておれに声をかけた。
「だいぶ困っているようね、曽根地敏行(そねじとしゆき)くん」と、彼女はふふふ、と笑いながら言った。
この人は、髪型と眼鏡は違うけど…。
「席夜さん!」
「言われてみればこりゃそうだ」「確かにあなたは新学期」「友の美登里の縁あって」「顔を知ったる同級の」「図書委員でもある助っ人の」「まさしく席夜晴香(せきやはるか)さん」と、6人の妹は渡り台詞で言った。
席夜さんによると、この脳内カフェには何度も来ているんだけど、おれの妹たちに関しては、うるさい6つ子だな、ぐらいにしか認識できてなかったらしい。
もしこれがリレー小説だったとしたら、次の作者は苦労するだろうな、とおれは思った。
食後、妹は、何か甘いものでもコンビニに買いに行くから一緒に来て、とお願い(というより命令)したので、おれはあまり自信ない感じで霊具を持って外に出た。
桜はどんどん葉桜になり、月はどんどん欠けている。妹は歩きながらスイーツのどら焼きを食べて言った。
「今日は「…という話なんだ」というのはいいから」
「え…そうなの?」
「エリーや神様たちもいないし、もう4日目だろ。さっさと何かくれ」
どうも話の展開が早いな。まあ前の日までに起きたことは、妹の記憶が続いていても不思議ではない。続いていないのは、別の妹がいる別の世界の時空を生きた美登里その他ヒトたちだ。
おれは、桜貝のような貝殻が複雑に組み合わされている小さなウミガメの置物を渡して言った。
「あなたはわがままなお姫様。宮廷で兄の王子に愛されて育ったが、村の若者と恋をした。時代が変わり、王政を打倒するための革命軍の先頭に立った若者は、王子を殺そうとしたが、姫は兄を守って殺された…」
話を黙って聞いていた妹は、体が、明らかに怒りで震えだした。
「こ…こ…こんな…」
妹は霊具を握りつぶし、桜色の光の粒子が散らばると地面に広がって、半径5メートルほどの円形の、ふかふかのマットになった。
「こんな話で成仏できるかっ!」
妹のバックドロップが見事に決まり、おれは意識を失った。
*
脳内カフェは架空列車が走る架空線の脳内駅を降りて数分、脳内横丁に入る路地の角にあり、おれが気がついたのは路地の角のところで、昔っぽい、自動ドアじゃなくて入るとベルの音がする店に入ると、6人の妹が待ち構えていた。
「やっぱりねえ、勝てないんじゃないかと思ってたよ」と、ピンクの髪の妹はがっかりしながら言った。
「まったく不甲斐ない。それでも私の兄なのか」と、赤い髪の妹は怒りながら言った。
「同情はしますけど、わたくしの話と同じようなものを作ってはいけないのです」と、緑の髪の妹は同情しながら言った。
「で、どうするのよ、兄上」と、青い髪の妹はにやにやしながら言った。
「緊急回避モードでの再起動が必要ですか?」と、黄色い髪の妹は真顔で言った。
「だいたい、その物語に桜貝とウミガメ、関係ねーじゃん」と、今日の妹である紫の髪の妹は不機嫌に言って、テーブルを叩いたので、6人が注文した飲み物の器と、中の液体が揺れた。
この店はおれも多分ときどき来てはいるんだけど、出たらすぐに来たことを忘れてしまうことを思い出した。
「ごめん、じゃあもうしばらく考えさせて。あ、おれはカフェラテで」
さあどうしよう、と、痛い頭を片手で押さえながら考えていると、店の奥、窓際の席に座っていた、三つ編みで地味な眼鏡をかけた地味な女の子が近づいてきておれに声をかけた。
「だいぶ困っているようね、曽根地敏行(そねじとしゆき)くん」と、彼女はふふふ、と笑いながら言った。
この人は、髪型と眼鏡は違うけど…。
「席夜さん!」
「言われてみればこりゃそうだ」「確かにあなたは新学期」「友の美登里の縁あって」「顔を知ったる同級の」「図書委員でもある助っ人の」「まさしく席夜晴香(せきやはるか)さん」と、6人の妹は渡り台詞で言った。
席夜さんによると、この脳内カフェには何度も来ているんだけど、おれの妹たちに関しては、うるさい6つ子だな、ぐらいにしか認識できてなかったらしい。
もしこれがリレー小説だったとしたら、次の作者は苦労するだろうな、とおれは思った。
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