56 / 95
第九章 水曜日は乙女脳でチョロい
9-4話 このソファ、ほんの少しだけど飼い主の匂いがする!
しおりを挟む
放課後、おれたちはまた部活訪問をすることにした。メンバーは例によって神様チーム3神とおれ、結婚できるほうの妹(真部岡恵留(まぶおかえる)さんと今日の妹だ。
すでに映画研究会とアニメ研究会とSF研究会と音楽研究会(音楽部とか軽音楽部とか吹奏楽部とは違うものだったらしい)は合併して映像音響部になっているので、さらに他の部と合併したり廃部になったりするということはないし、そのようなものとどう戦えばいいのかわからない。
「うーん、楽器か。私も何かできるといいんだけどな」と、三絡克真 (みつがねかつま)さんは言った。
「え、猫さんって三味線とか弾けるんじゃないの?」とおれが聞いたら、それはない、とものすごく怒られた。
「こう、見た目とかはごまかせるんだけど、よく触ってみな。指先が丸くて、いっぱいに広げてもヒトの手ほどには広がらないんだ。弦楽器や鍵盤楽器は無理。打楽器とか小さな吹奏楽器ならなんとかなるかもしれないけど、そういうのは狸神や狐神にはかなわない」
なるほど。
「自分はどんな楽器でもだいたい演奏できるんだけど、それをヒトに見せるというのは恥ずかしくて…」と、田部良紅羅架(たぶらくらか)さんは言った。
「映画のことならぼくにまかせて。リュミエール兄弟の撮影助手もやったことがあるんだ」と、どうもうさん臭い流奇奈紘季(るきなひろき)は言った。
…ぼく? まあいいや。
映像音響部は新校舎という名前の古い校舎(もっぱら特別教室などがある)2階の音楽室の隣にあって、「第二音楽準備室」とかつては書かれていた札の「第二」の部分が消されている現在の音楽準備室(という名前の楽器置き場)と、音楽室の間にある。
音楽室の防音はしっかりしているけど、ときどき吹奏楽部の音が漏れて聞こえる。ときどきというのはパート練習は吹奏楽部はバラバラにやってるからで、多分彼女たち(男子もいないことはないがだいたい女子)も人の音はうるさいんだろうと思う。
かつては第一音楽準備室だっただろう映像音響部の隅には古いアップライト・ピアノが置いてあり、おれが入ったときは先輩のひとりで、どちらかというとタヌキに似ている和風美人の女子がバッハの曲をバート・バカラック風に、バート・バカラックと最初に出会ったときのジョージ・ロイ・ヒル監督みたいな感じで弾いていた。ジョージ・ロイ・ヒルは師匠筋ではバート・バカラックの師匠の弟弟子、つまりふたりは叔父弟子・甥弟子の関係にある。
おれたちが入ったのに気がつくとその先輩は、ジャズピアノっぽい感じで「荒城の月」をかっこ良く弾いていた。右手は一本指使いの超絶技法だ。しかしここらへん、もしこの話がアニメだったとしても、そんなのは映像化は無理である。実写にしても、たいていの役者のピアノ演奏は適当にごまかしていて、ちゃんとやってるのはマルクス兄弟ぐらいなものだ。
昔の校長室に置いてあったような、古くさくてがっちりしていて高そうなソファにはなんか、ツチブタみたいな女子の先輩が横になって、上腕筋の運動みたいな感じでヒッチコック&トリュフォーの『映画術』を読んでいた。
ひどい言いかたではあるが、別にふたりともブサイクとかじゃなくて、どちらかというと美人のほうである。
「いらっしゃい。新入生だね」と、ソファのほうの先輩が声をかけてくれた。
「ボンジュール・モン・メドマゼル・エ・メシュー。私の名前は山田さくらって言います」
どうやらフランス帰りの帰国子女らしい。ミーとは言わないんだな。
「で、こちらでピアノ演奏してるのは、小林美咲。ふたりとも新二年生だよ。新三年生の部長はだいたいいつもいないからお気楽に」
小林先輩は、おれたちを見てほほえんだ。笑うと片えくぼができる人である。しかし今のところヒトなのか神なのかは不明なのだった。
「あーっ、このソファ、ほんの少しだけど飼い主の匂いがする!」と、三絡さんはソファの肘掛け部分の匂いを嗅ぎながら言った。
すでに映画研究会とアニメ研究会とSF研究会と音楽研究会(音楽部とか軽音楽部とか吹奏楽部とは違うものだったらしい)は合併して映像音響部になっているので、さらに他の部と合併したり廃部になったりするということはないし、そのようなものとどう戦えばいいのかわからない。
「うーん、楽器か。私も何かできるといいんだけどな」と、三絡克真 (みつがねかつま)さんは言った。
「え、猫さんって三味線とか弾けるんじゃないの?」とおれが聞いたら、それはない、とものすごく怒られた。
「こう、見た目とかはごまかせるんだけど、よく触ってみな。指先が丸くて、いっぱいに広げてもヒトの手ほどには広がらないんだ。弦楽器や鍵盤楽器は無理。打楽器とか小さな吹奏楽器ならなんとかなるかもしれないけど、そういうのは狸神や狐神にはかなわない」
なるほど。
「自分はどんな楽器でもだいたい演奏できるんだけど、それをヒトに見せるというのは恥ずかしくて…」と、田部良紅羅架(たぶらくらか)さんは言った。
「映画のことならぼくにまかせて。リュミエール兄弟の撮影助手もやったことがあるんだ」と、どうもうさん臭い流奇奈紘季(るきなひろき)は言った。
…ぼく? まあいいや。
映像音響部は新校舎という名前の古い校舎(もっぱら特別教室などがある)2階の音楽室の隣にあって、「第二音楽準備室」とかつては書かれていた札の「第二」の部分が消されている現在の音楽準備室(という名前の楽器置き場)と、音楽室の間にある。
音楽室の防音はしっかりしているけど、ときどき吹奏楽部の音が漏れて聞こえる。ときどきというのはパート練習は吹奏楽部はバラバラにやってるからで、多分彼女たち(男子もいないことはないがだいたい女子)も人の音はうるさいんだろうと思う。
かつては第一音楽準備室だっただろう映像音響部の隅には古いアップライト・ピアノが置いてあり、おれが入ったときは先輩のひとりで、どちらかというとタヌキに似ている和風美人の女子がバッハの曲をバート・バカラック風に、バート・バカラックと最初に出会ったときのジョージ・ロイ・ヒル監督みたいな感じで弾いていた。ジョージ・ロイ・ヒルは師匠筋ではバート・バカラックの師匠の弟弟子、つまりふたりは叔父弟子・甥弟子の関係にある。
おれたちが入ったのに気がつくとその先輩は、ジャズピアノっぽい感じで「荒城の月」をかっこ良く弾いていた。右手は一本指使いの超絶技法だ。しかしここらへん、もしこの話がアニメだったとしても、そんなのは映像化は無理である。実写にしても、たいていの役者のピアノ演奏は適当にごまかしていて、ちゃんとやってるのはマルクス兄弟ぐらいなものだ。
昔の校長室に置いてあったような、古くさくてがっちりしていて高そうなソファにはなんか、ツチブタみたいな女子の先輩が横になって、上腕筋の運動みたいな感じでヒッチコック&トリュフォーの『映画術』を読んでいた。
ひどい言いかたではあるが、別にふたりともブサイクとかじゃなくて、どちらかというと美人のほうである。
「いらっしゃい。新入生だね」と、ソファのほうの先輩が声をかけてくれた。
「ボンジュール・モン・メドマゼル・エ・メシュー。私の名前は山田さくらって言います」
どうやらフランス帰りの帰国子女らしい。ミーとは言わないんだな。
「で、こちらでピアノ演奏してるのは、小林美咲。ふたりとも新二年生だよ。新三年生の部長はだいたいいつもいないからお気楽に」
小林先輩は、おれたちを見てほほえんだ。笑うと片えくぼができる人である。しかし今のところヒトなのか神なのかは不明なのだった。
「あーっ、このソファ、ほんの少しだけど飼い主の匂いがする!」と、三絡さんはソファの肘掛け部分の匂いを嗅ぎながら言った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる