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第六章 火曜日はサディスト

6-7話 道場破りですね!

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 放課後、「今日は剣道部の部活を見学したい」と今日の妹が言ったので、おれと神様チームの3人、それに真部岡恵留(まぶおかえる)さんも一緒に行くことにした。席夜晴香(せきやはるか)さんは、ちょっと整理しておきたい資料があるから、と図書室のほうに行って、冴野美登里(さやみどり)はボランティアの奉仕部の活動があるから、と一緒に来なかった。

 武人であるときの妹は割と強い気がするのだけど、公式大会などにその妹が当番であるとは限らないため、本番の成績は非常に不安定だった。要するに、違う妹の場合は別に剣士だったりはしない。

 旧校舎の東南、旧講堂の裏に、「練習場」と書いてある看板が書いてあって、中からは剣道の稽古をしているらしい声がする。

 しかしなんであんなに剣道やってる人は怪鳥のような声をあげながら戦うのか。歌いながら戦う戦士みたいなものか。そんなスポーツは他にはカバティぐらいしか知らない。

 廊下を歩くうちに先頭を歩いていた妹は流奇奈紘季(るきなひろき)に追い越された。

 稽古をしていた建物はけっこう古い。しかし中はそれなりの広さで(150畳敷きぐらい?)、正面には「至誠」と書かれた額、長さ3メートルほどの木の目が見える木刀、何も置かれていない神棚などがあった。

 至誠というのは「至誠にして動かざるものは未だこれあらざるなり」という、吉田松陰が引用した孟子の中に出てくる語で、同じ山口県出身の安倍晋三氏も座右の銘として揮毫していた例の奴だ。

 一段高くなった畳の席には、ごつい感じの達人っぽい先輩と、ダルマを抱えて座っている、ハツカネズミっぽい女子の先輩がいた。女子の人はマネージャーかマスコットなのか、この時点では不明だった。

「お前らの中で一番強いのは誰だ。わたしと勝負して、その者が負けたらこの額はいただき、クラブは廃部とする」と、流奇奈はまた勝手なことを言い始めた。

「兄の友だちの、あの青いのは剣道もできるのか?」と、今日の赤い髪の妹は小声で聞いた。

「さあ?」とおれはとぼけた。

 多分日本一の剣士でも、神である流奇奈には勝てないだろう。達人っぽい先輩は県大会上位常連ぐらいのレベルか、と、おれは左目に装着された神の目を使っていろいろ情報を集めた。高度情報収集機能を使うと個人情報がとことんわからないことはないのだけど、ずっと使っていると頭が痛くなるんだよな。

「道場破りですね!」と、真部岡さんは瞳をキラキラさせながら言った。

 部活荒らしというか、そんなもんだ。

「お前の話は聞いているぞ、流奇奈紘季」と、その先輩は言った。

「ずいぶん昼休みには暴れたそうだな。おれが相手をしてやろう。竹刀と防具はあるのか」

「ふん」と流奇奈は周りを取り囲む部員を睨みつけ、何本か持っていた竹刀を手にして元の持ち主に戻し、妹のものに目をつけると、それをつまようじみたいに振り回して(という表現もちょっと変だな)、足で踏みつけてバキバキに折ったので妹の顔は真っ赤になった。

 これは恋、ではなくて、怒りに基づくどす赤黒さだな。その証拠に妹は小声で「…殺す」ってつぶやいた。

「今夜23時、極北橋で会おう」と、妹は流奇奈に言った。

「ふーん、ここでの試合を見たあとでは、それは惚れなおしたわたしへの、デートの誘いにしかならなくなっちゃうかもだな、かわい子ちゃん」と、流奇奈は言った。

 流奇奈のセリフの昭和っぽいムードは、地なのか演出なのかわからなくなる。
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