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第二章 月曜日は普通(裏)

2-5話 作り物のバラの香りが、ほんの少しだけするね

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 春休み何してたー、とか、今日は寒いねー、みたいなゆるいガールズトークをしている三絡克真(みつがねかつま)さんと妹のあとを、みーちゃんをもふもふしたいなあ、と考えながら、おれはコートの襟を立てて歩いていた。

 校門前にはさり気なく、旧制女子高校時代からの通しナンバーで「第○回入学式」という看板がかかげられ、吹奏楽部が下手くそな(個人の感想です)歓迎の音楽を鳴らしていた。

 中学校の入学式ではないので親子で来ている人は少なく、中学が同じ人たち同士の記念写真も、各人がクラスに入って、式が終わってからみんな撮るつもりなんだろう。

 こういうイベントには、新入生勧誘のための各クラブのパフォーマンスが普通はあるもんかと思ってたんだけど、有力な体育会系のクラブメンバーは高校合格が決まった時点で強制スカウトされ、文化系のクラブは全国大会も普通はないし、パフォーマンスも見ていて面白そうなところはないのでわざわざやったりしないんだな。吹奏楽部は体育会系クラブの皮をかぶって闇を濃くしたブラッククラブ(略してブラ部)だし、やれば一応目立つ。囲碁将棋部は全国大会あるんだろうけど、そんなのの練習試合を見ていても、普通の高校生にはあまり面白くないだろう。

 その代わり、靴箱に20枚ぐらいクラブ勧誘のフライヤーがあった。どのクラブもハガキくらいの大きさのいろいろな色の紙で、紹介文とちょっとした絵と小さい字が印刷されていて(というか手書きのコピーですね)、裏は白地で、靴箱の脇にはそっけなく「チラシ回収箱」というのが設けられていた。フライヤーの隅のところには「生徒会」の印と、おれの左手の甲に封印されたと同じファンシーな絵の印が押されていた。ただし絵はたぬき・きつね・ねこ・こぶただった。

 玄関のところで三絡さんは今どきの女子高生が着ているようなコートを脱いだら、その下には謎の高校の制服を着ていた。

「…どうかな。これは私の飼い主のお祖母ちゃんが現役時代に着ていたものなのだ。この高校の制服がなくなる以前の、オールドファッションだ」

 確かに、襟とか袖の形とか全体のフォルムも含めて少し、わざと狙ったように今の時代の服じゃない。おれは鼻を近づけて服の匂いをかいでみた。

「ああ、作り物のバラの香りが、ほんの少しだけするね。でも、そんなにかび臭いとか、防虫剤っぽい匂いはしない」

「今の飼い主もときどきは着ていたからな」

「そう言えば、三絡さんって本当はどういう家に住んでるの? 飼い主さんも少し小さめの人?」

「そこらへんは秘密だ。飼い主は春からこの高校の3年生。大きさは普通で、この制服が私にちょうどいい大きさなのは、かっ、神の力…ごめん、やっぱ恥ずかしいので今のなしね、そこらへんは話の都合かな」

 そう言って三絡さんは特別サービスに、くるっと一回転してくれたのでスカートの裾がひらひらと、ギャルゲアニメのヒロインのように舞い上がった。とはいえパンツとかしっぽとかが見えるほどには上がらなかった。ああ、こういうのは桜の花が舞い散る下で、ギャルゲアニメのOPみたいな感じで見たいなあ。

 教室に三絡さんと一緒に入ったらもうすでに仲間の2神は着席していて、龍神様の流奇奈紘季(るきなひろき)には、「よう、どうしたのよ曽根地敏行ちゃん、しけたつらしちゃって」と、昭和の日本映画みたいな挨拶をされた。しけたつらというよりは、やっぱ同じクラスなんだよなあ、と、顔にダークな縦筋入った感じである。

 おれの席は窓際の一番後ろで、その前は流奇奈、ななめ前が狐神の田部良紅羅架(たぶらくらか)さん、横が三絡さん。要するに竜・銀・金に囲まれた擬似穴熊状態だと思ってもらえればいい。1三のあたりにいる歩、というのは失礼だな、モブ子、はもっと失礼か、とにかくどこのクラスでもいるような、美人だか不美人だかはっきりしないけど、なんとなくモブっぽい子が、ちょっと緊張して後ろのほうをチラ見している。

 彼女の名前は志摩根雪歩さんで、超南中学出身、生年月日は12月24日、きょうだいは兄がひとりで、その兄のことはおれが映画館のあるショッピングモールのフードコートですれ違ったときコップの水をかけてしまったので覚えている。

 覚えているというのは嘘で、ご神木の神様である真那木沙振(まなきさぶれ)さんに強制装着させられたゴッズ・アイ(神の目)の高度情報収集機能を使ったからだが、いきなりおれのことを知らないだろう緊張している女子に「やあ志摩根雪歩さん」とか挨拶するわけにもいかない。

 それにこのモード、1日に10分ぐらいしか使えないんだよね。バッテリー(に当たるものの何か)の消費量が大きいらしい。

 ところで、入学式の新入生代表挨拶(答辞)は、当然だか何だかしらないけど、流奇奈がやった。
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