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猫と夢遊病
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大学3年生の時、僕は慢性的な不眠症に悩まされていた。そして眠れない夜を過ごした後に、まるで夢遊病のように散歩に出かけていた。
ある日の朝、僕がいつものように川沿いの土手を歩いていると、ゴソゴソと川沿いにある草むらが動いた。少し見ていると、ある動物が顔を出した。その正体は猫だった。どこにでもいるような三毛猫だ。猫はあくびをして、背中を伸ばした。毛並みは太陽に照らされ、輝いて見えた。しばらくして、僕はその三毛猫と目が合った。その時、僕も猫になりたいと思った。すると、猫は僕から背を向け、また草の中に戻ってしまった。
その瞬間、僕は草むらに飛び込んで、草をかき分けながら猫を追いかけていた。
僕が走り続けていると突然、拓けた場所に来た。そこは周りが背の高い草に囲まれた半径3メートルほどの円状の空間だった。そこに5、6匹の猫が日向ぼっこをしていた。
しかし僕の目に、一番に飛び込んできたのは、セーラー服を着た少女だった。彼女は眼鏡をかけており、そばかすが白い肌の上に点々と目立っていた。どの中学校にもいる、教室の隅に一人で本を読んでいるか、自習をしているような女の子だった。
「お兄さんだれ?」と少女は猫を撫でながら僕に訊いた。警戒している様子はなかった。
「え、僕は……」僕は答えられなかった。自分が何者か急に分からなくなってしまった。
「まあいいや」と少女はあっさりと言った。そしてまた違う猫を撫で始めた。
「君は何をしているの?」と僕は言った。
「私はね、猫をキャッチしているの」と少女は言った。彼女は答える時、僕の方は見ずに、ひたすら猫を撫でていた。
「キャッチしている?」
「そう。毎朝ここに猫が降ってくるの。不思議でしょ?」と少女は無邪気に言った。
「はあ」僕は混乱していた。おそらく寝ていないから、何か幻覚紛いなものを見ているのかもしれない。そんな風に僕が考えていると
「ほら」と少女は突然空を指差した。
僕がその方向を見ると、猫が飛んできた。いや、正確に言うとムササビみたいに、ふわりと白い猫が僕の顔に飛び込んできた。
「うわ」と僕は声を出しながら、腰が抜けて倒れてしまった。
猫は僕の顔を上手く使い、着地した後に平然と歩いた。
「大丈夫?」と少女は笑いながら僕の顔を覗き込んだ。その顔は太陽が透けるほど純白だった。
「あはは……」と僕は横になりながらすこし笑った。もうこれが夢でも何でもいいと思ってきていた。
その時ニャアと猫が鳴いた。その猫は僕が追いかけていた三毛猫だった。僕がその猫を撫でると猫は喉をゴロゴロと鳴らし、眠ろうとした。それを見ていると、僕も眠たくなった。それは久しぶりの気分だった。いい気分だった。
ある日の朝、僕がいつものように川沿いの土手を歩いていると、ゴソゴソと川沿いにある草むらが動いた。少し見ていると、ある動物が顔を出した。その正体は猫だった。どこにでもいるような三毛猫だ。猫はあくびをして、背中を伸ばした。毛並みは太陽に照らされ、輝いて見えた。しばらくして、僕はその三毛猫と目が合った。その時、僕も猫になりたいと思った。すると、猫は僕から背を向け、また草の中に戻ってしまった。
その瞬間、僕は草むらに飛び込んで、草をかき分けながら猫を追いかけていた。
僕が走り続けていると突然、拓けた場所に来た。そこは周りが背の高い草に囲まれた半径3メートルほどの円状の空間だった。そこに5、6匹の猫が日向ぼっこをしていた。
しかし僕の目に、一番に飛び込んできたのは、セーラー服を着た少女だった。彼女は眼鏡をかけており、そばかすが白い肌の上に点々と目立っていた。どの中学校にもいる、教室の隅に一人で本を読んでいるか、自習をしているような女の子だった。
「お兄さんだれ?」と少女は猫を撫でながら僕に訊いた。警戒している様子はなかった。
「え、僕は……」僕は答えられなかった。自分が何者か急に分からなくなってしまった。
「まあいいや」と少女はあっさりと言った。そしてまた違う猫を撫で始めた。
「君は何をしているの?」と僕は言った。
「私はね、猫をキャッチしているの」と少女は言った。彼女は答える時、僕の方は見ずに、ひたすら猫を撫でていた。
「キャッチしている?」
「そう。毎朝ここに猫が降ってくるの。不思議でしょ?」と少女は無邪気に言った。
「はあ」僕は混乱していた。おそらく寝ていないから、何か幻覚紛いなものを見ているのかもしれない。そんな風に僕が考えていると
「ほら」と少女は突然空を指差した。
僕がその方向を見ると、猫が飛んできた。いや、正確に言うとムササビみたいに、ふわりと白い猫が僕の顔に飛び込んできた。
「うわ」と僕は声を出しながら、腰が抜けて倒れてしまった。
猫は僕の顔を上手く使い、着地した後に平然と歩いた。
「大丈夫?」と少女は笑いながら僕の顔を覗き込んだ。その顔は太陽が透けるほど純白だった。
「あはは……」と僕は横になりながらすこし笑った。もうこれが夢でも何でもいいと思ってきていた。
その時ニャアと猫が鳴いた。その猫は僕が追いかけていた三毛猫だった。僕がその猫を撫でると猫は喉をゴロゴロと鳴らし、眠ろうとした。それを見ていると、僕も眠たくなった。それは久しぶりの気分だった。いい気分だった。
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