47 / 52
言葉の攻撃力
しおりを挟む
お互いの生活リズムも食習慣にも慣れてきて、順調な同棲生活が送られていたある日。高校の友人である彩乃からみんなで飲みに行かない?そんな連絡が来たのは11月のことだった。
今までずっとみんなとは休みがあえば、ランチに行っておしゃべりをする機会はあった。その時は相手が彩乃だったり、みずきだったりひなただったりとバラバラに会うことが多かった。
夜の飲み会もいつもの友達メンバーを全員集めたのも、ハルカの調子が良くなったのを慎重に見極めてくれた彩乃からの提案だった。
お酒を飲むから原付には乗れない。飲み会の帰りはタクシーで帰ろうかと思ったが、そのことを勇太に話すと飲み会の帰りに迎えに来ると言ってくれた。ハルカはいつもいつもそうだけど勇太の優しさに甘えることにした。
ハルカは飲み会を楽しみにしていた。引っ越しの準備などタイミングが重なって忙しくなかなか会えなかった友達がいる。彩乃は引っ越し前にランチに行っていて、ひなたとはこの間、美容院に行って会えていたが、みずきと会うのは久しぶりだった。
みんなに会える。お酒も入って楽しい会話をするのだろうか?勇太と付き合ったことはすでにみんなに報告済みだが、きっと勇太との話題はフラれるだろう。勇太との同棲生活をあれこれ質問されるのは少し恥ずかしい気もする。でもほんの少しぐらい……うふふ。ハルカは惚気たい気分だった。でも勇太と付き合うことになった経緯などは……話すことは出来ないな……などと思いつつ迎えた飲み会当日の日。
彩乃が席だけを予約してくれた居酒屋で、みんなでメニュー表を見ながら食べたいものを注文して、飲みたいお酒を飲み、それぞれの近況報告などをしながら楽しい飲み会が始まった。
彩乃は4月から入った新人におばさん呼ばわりされて珍しく憤慨していた。「2歳しか変わらないのに!おばさんって!どういうことなの?!」って怒っていてみんなで慰めた。
ひなたは美容院で最近、ひなたの固定のお客さんがどんどん増えてきていて(ハルカもそのうちのひとりだが)、嬉しい反面、プレッシャーを感じてるようだった。みずきは市外の旅行代理店に勤めていて冬の旅行シーズンに向けてお店が忙しく、「私が旅行に行ってリフレッシュしたい!」と愚痴っていた。
ハルカは勇太と同棲してることなどを話しみんなから祝福されて幸せな気分になった。
楽しい飲み会だった。
しかしそれは前半までとなってしまった。
段々とお酒が回り始め、みんなで陽気な気分が高まってくるとみずきがハルカに執拗に勇太との話を聞き始めてから、雲行きが怪しくなってきた。
「だーかーらーなんで勇太と付き合うことになったのよ?好きだったのぉぉぉ?勇太のことぉぉぉぉ?」とみずきは完全に悪酔いしていた。
ハルカも少しお酒が進んでいたのでシラフではなかったがそこまで酔いは回っていない。みずきの質問責めも適当な言葉を繋げてスルーを試みるがなかなか「付き合った経緯」の質問責めから逃してくれなかった。みずきは仕事が忙しすぎてストレスを溜めていたのかもしれない。
彩乃が「ちょっとみずき!飲みすぎたんじゃない?もうそろそろ帰ろうか?あんた明日も仕事でしょ?」とみずきをたしなめて、ひなたが「烏龍茶飲もう!注文するね!」と連携プレイを見せる。
ハルカは「勇太とは成り行きでね……付き合うことになったの。これ以上は言えなくて……ごめんね。みずき」と仕方なく答える。成り行きで付き合ったなんてハルカはこれっぽっちも思っていない。ハルカにとって幼なじみの勇太は何度もピンチを救ってくれた救世主だ。今のハルカを全身全霊で愛してくれるただ1人の存在。それが勇太だった。
そう言えば良かったのだろうか。適当に「成り行きで」などと誤魔化すことなどせずに、集団レイプされた女性でも好きになってくれた。受け止めてくれた存在だと……いや、そんなこと言えるはずもないのだ。
でも今回はもう少し言葉を選べば良かったのかもしれないとハルカは思った。みずきは「成り行き」という言葉でスイッチが入ってしまったようだった。
「もうっ!ちょっとぐらい教えてくれてもいいのに!なんだよ!成り行きってさ!ハルカは秘密が多いよっ!ゾンビみたいにこっちに戻って来た時だって何も教えてくれないじゃん!!あんたに何があったのよぉぉぉ!あんだけ馬鹿にしていた田舎に帰ってくるなんて!都会に行く自分をさも勝ち組のように振る舞っていたのに!!1年足らずで帰ってくるなんてさ!よほどのことがあったんでしょうよ!!別に教えてくれなくてももーいいよ!もうハルカなんて知らん!田舎に戻って来た勇太との馴れ初めも教えてくれないし!成り行きって!!都会でどんだけ嫌な目にあったか知らないけど、『あってよかったんじゃない?その酷い目にさ!』勇太と付き合うことになって呑気にパートなんかできるのも都会から逃げて戻ってきたのが運命じゃん!!ハルカが羨ましいーーわ!!こちとら朝から晩まで働いてるのに1人で生きてるのが精一杯なのに!!私も何か酷い目にあって分かりやすく憔悴しょうすいしきったところを勇太みたいな実家の家業が安定してる彼氏作ってパートみたいな楽な生活したいわ!」
ハルカの記憶はここで途絶える。
酔いは完全に冷めてしまい意識は失わない状態の茫然自失の状態でハルカは無言でスッと立ち上がる。彩乃は何かを叫び、ハルカの腕を掴んだがハルカは無意識に彩乃の手を払い除ける。ひなたはみずきの口をふさいでいた。
「ちょっと!まだ話したりないわよ!ハルカ!逃げるの!」とひなたの手をどかしてハルカの背中に浴びせてくるみずきの声だけがなぜだかはっきりと聞こえていた。
11月の寒すぎる夜空の下でハルカは1人、店を後にした。
今までずっとみんなとは休みがあえば、ランチに行っておしゃべりをする機会はあった。その時は相手が彩乃だったり、みずきだったりひなただったりとバラバラに会うことが多かった。
夜の飲み会もいつもの友達メンバーを全員集めたのも、ハルカの調子が良くなったのを慎重に見極めてくれた彩乃からの提案だった。
お酒を飲むから原付には乗れない。飲み会の帰りはタクシーで帰ろうかと思ったが、そのことを勇太に話すと飲み会の帰りに迎えに来ると言ってくれた。ハルカはいつもいつもそうだけど勇太の優しさに甘えることにした。
ハルカは飲み会を楽しみにしていた。引っ越しの準備などタイミングが重なって忙しくなかなか会えなかった友達がいる。彩乃は引っ越し前にランチに行っていて、ひなたとはこの間、美容院に行って会えていたが、みずきと会うのは久しぶりだった。
みんなに会える。お酒も入って楽しい会話をするのだろうか?勇太と付き合ったことはすでにみんなに報告済みだが、きっと勇太との話題はフラれるだろう。勇太との同棲生活をあれこれ質問されるのは少し恥ずかしい気もする。でもほんの少しぐらい……うふふ。ハルカは惚気たい気分だった。でも勇太と付き合うことになった経緯などは……話すことは出来ないな……などと思いつつ迎えた飲み会当日の日。
彩乃が席だけを予約してくれた居酒屋で、みんなでメニュー表を見ながら食べたいものを注文して、飲みたいお酒を飲み、それぞれの近況報告などをしながら楽しい飲み会が始まった。
彩乃は4月から入った新人におばさん呼ばわりされて珍しく憤慨していた。「2歳しか変わらないのに!おばさんって!どういうことなの?!」って怒っていてみんなで慰めた。
ひなたは美容院で最近、ひなたの固定のお客さんがどんどん増えてきていて(ハルカもそのうちのひとりだが)、嬉しい反面、プレッシャーを感じてるようだった。みずきは市外の旅行代理店に勤めていて冬の旅行シーズンに向けてお店が忙しく、「私が旅行に行ってリフレッシュしたい!」と愚痴っていた。
ハルカは勇太と同棲してることなどを話しみんなから祝福されて幸せな気分になった。
楽しい飲み会だった。
しかしそれは前半までとなってしまった。
段々とお酒が回り始め、みんなで陽気な気分が高まってくるとみずきがハルカに執拗に勇太との話を聞き始めてから、雲行きが怪しくなってきた。
「だーかーらーなんで勇太と付き合うことになったのよ?好きだったのぉぉぉ?勇太のことぉぉぉぉ?」とみずきは完全に悪酔いしていた。
ハルカも少しお酒が進んでいたのでシラフではなかったがそこまで酔いは回っていない。みずきの質問責めも適当な言葉を繋げてスルーを試みるがなかなか「付き合った経緯」の質問責めから逃してくれなかった。みずきは仕事が忙しすぎてストレスを溜めていたのかもしれない。
彩乃が「ちょっとみずき!飲みすぎたんじゃない?もうそろそろ帰ろうか?あんた明日も仕事でしょ?」とみずきをたしなめて、ひなたが「烏龍茶飲もう!注文するね!」と連携プレイを見せる。
ハルカは「勇太とは成り行きでね……付き合うことになったの。これ以上は言えなくて……ごめんね。みずき」と仕方なく答える。成り行きで付き合ったなんてハルカはこれっぽっちも思っていない。ハルカにとって幼なじみの勇太は何度もピンチを救ってくれた救世主だ。今のハルカを全身全霊で愛してくれるただ1人の存在。それが勇太だった。
そう言えば良かったのだろうか。適当に「成り行きで」などと誤魔化すことなどせずに、集団レイプされた女性でも好きになってくれた。受け止めてくれた存在だと……いや、そんなこと言えるはずもないのだ。
でも今回はもう少し言葉を選べば良かったのかもしれないとハルカは思った。みずきは「成り行き」という言葉でスイッチが入ってしまったようだった。
「もうっ!ちょっとぐらい教えてくれてもいいのに!なんだよ!成り行きってさ!ハルカは秘密が多いよっ!ゾンビみたいにこっちに戻って来た時だって何も教えてくれないじゃん!!あんたに何があったのよぉぉぉ!あんだけ馬鹿にしていた田舎に帰ってくるなんて!都会に行く自分をさも勝ち組のように振る舞っていたのに!!1年足らずで帰ってくるなんてさ!よほどのことがあったんでしょうよ!!別に教えてくれなくてももーいいよ!もうハルカなんて知らん!田舎に戻って来た勇太との馴れ初めも教えてくれないし!成り行きって!!都会でどんだけ嫌な目にあったか知らないけど、『あってよかったんじゃない?その酷い目にさ!』勇太と付き合うことになって呑気にパートなんかできるのも都会から逃げて戻ってきたのが運命じゃん!!ハルカが羨ましいーーわ!!こちとら朝から晩まで働いてるのに1人で生きてるのが精一杯なのに!!私も何か酷い目にあって分かりやすく憔悴しょうすいしきったところを勇太みたいな実家の家業が安定してる彼氏作ってパートみたいな楽な生活したいわ!」
ハルカの記憶はここで途絶える。
酔いは完全に冷めてしまい意識は失わない状態の茫然自失の状態でハルカは無言でスッと立ち上がる。彩乃は何かを叫び、ハルカの腕を掴んだがハルカは無意識に彩乃の手を払い除ける。ひなたはみずきの口をふさいでいた。
「ちょっと!まだ話したりないわよ!ハルカ!逃げるの!」とひなたの手をどかしてハルカの背中に浴びせてくるみずきの声だけがなぜだかはっきりと聞こえていた。
11月の寒すぎる夜空の下でハルカは1人、店を後にした。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~
一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。
だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。
そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる