魂を殺された女

悔しい涙

命は助かっても心の傷は致命傷だった。ハルカは当たり前にしてきた日常生活が、送れないほどのダメージを受けていた。

殴られたり、蹴られたりしたアザや平手打ちによる頬の腫れなどの体の外傷は治っても、心の傷はそのままハルカの脳へ影響し、まず日常生活での記憶がうまくいかなくなった。

思考力がゼロになり、ぼーっとした生活しかできなくなると、今がいつで何曜日で何時で今、自分が何をしてるのか？でさえ忘れてしまう。記憶が飛び飛びになることもあった。

そんな状態にも関わらず、夜になると体が覚えているのか、あの日の夜のことを思い出して全身が震えて仕方なかった。買い物へ外に出ることも出来ず、食欲もたいしてなかったがハルカは買い置きしてる食料と水だけを飲んで数日間を過ごしていた。

そんな絶望に近い生活の中で死を突発的に選んだハルカは、緊急搬送された総合病院で１日ばかり入院したあと、そのまま同じ病院の中の精神科の受診となった。

診断名は「うつ病」とのことだった。心と生活の安定を図るために精神科病棟に移され、そこで抗不安薬などの精神科薬の薬物療法による薬の調整のため、2週間の入院をした。

薬の影響かぼんやりとした思考が段々とクリアになっていき、ぼーっとすることは減ってきた。しかし、思考がクリアになればなるほど、ハルカを苦しめる。

集団レイプされた自分と対峙しなくてはいけない毎日がハルカにとって地獄であることには変わらなかった。

精神科での治療を経て、母親と自宅のアパートに戻り、田舎に帰るための荷造りをする。テキパキと母親は荷造りをしてくれてハルカもゆっくりとした動作でなんとか必要な荷物をまとめた。

職場は一身上の都合という名目で正式に退社した。地元の情報通信系の専門学校に通い都会に出てから企業からホームページ作成を請け負う職場に昨年、就職した。

1年と数ヶ月の短い社会人生活だった。

あの大変だけれどキラキラした生活はもう手に入らない、あの頃の自分には戻れることはないと思うと、暗闇の中にいるような感覚にハルカはなった。自殺未遂を図ったハルカをアパートの大家と一緒に発見した上司に、母はお礼の品を贈ったと話していた。

その話を母親からハルカに向けて離す時でさえ、ハルカはなんと答えていいのか分からなくなった。自分がこれまで歩んできた人生が他人の手によって奪われてしまった。これまでの生活が一変されたのに、あの男たちは今もこの世界でのうのうと生きていることに強い憤りを感じた。

どうして私がこんな目に遭うのか。遭ってしったのか。考えれば考えるほど辛かった。とにかくもう何もハルカは考えたくなかった。

家具や家電などはハルカが入院中に母親が売ったり、処分したりしたらしく、必要な荷物は宅急便でまとめて実家に送り、あとは電車と新幹線で田舎へ帰るだけとなった。

何もなくなった殺風景な部屋を見て、ハルカの目から涙がこぼれた。

こんなはずじゃなかった…こんなはずじゃなかった…私が都会に来たのはレイプされるためじゃなかったのに…あんな男たちに汚されるために…ここに来たんじゃないのに…と思うも悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて…涙が止まらなかった。

泣いてるハルカに近寄り、ハルカの母も一緒に泣いた。泣きながら母は「ゆっくり…ゆっくり…ね？…幸せになろうね…今は無理かもしれないけど…少しずつ…ゆっくりね」と声をかけるのだった。