上 下
26 / 40

25.お見舞い

しおりを挟む
目を覚ますとベッドの上だった。
大人が3人くらい横になれそうな広いベッドだ。
暖炉の部屋からは移動したみたいだけど、ほんわりと温かい空気が漂っている。

部屋が暗いから今は夜だろうか。頭痛や眩暈もないし、もう寝なくても良さそう。
手を広げたけど端に届かなかったから、なんとなく転がってみた。

「ミノリ?起きたの?」

端まで転がると、頭上からノルックの声がした。
恐る恐る顔を上げると、ノルックと、少し離れた位置に4人くらいの人影がある。

誰もいないと思ったのに!めちゃめちゃ恥ずかしい…
内心動揺しまくりだったけど、平静を装って前髪を直しながら体を起こした。

「うん。今目が覚めたよ。」

声を聞いたら安心したのか、躊躇いなくノルックの手が伸びてきて頬を撫でられた。
なんだか心臓のあたりがくすぐったい。

「部屋を明るくいたします。」

離れた位置から声がして思わずノルックを押しやる。
不満気な顔をされたけど許して欲しい。

部屋を明るくしてくれたのはハンさんだった。ハンさんの近くにミィミとピナさんもいた。ミィミがベッドに来たそうなのをピナさんが押さえている。

その隣に、見たことのない女性がいた。
ロングの髪を一つにまとめて、無地の生地で作ったシンプルで動きやすそうな服装をしている。

誰なんだろう。…新しい友達候補の方とか?

「あの…。」

発した声は耳触りがよく、スッと通る声だった。声をかけながらチラリとノルックの方を見ている。
ノルックも、女の人の視線を感知して何か目で合図している。無表情だったけど。
思わず顔を120℃動かして視界に入らないようにした。

「ミノリ、少し席を外す。すぐ戻るから。」

背中からノルックの気配が消えた。
あわてて振り返ると部屋の扉が閉まるのが見えた。人影が5人から3人に減っている。
ノルックがいた位置にさっきの女性が移動していた。

「ミノリ様、はじめまして。カメル・ミラ・マルセルと申します。
私は治療者ヒーラーです。ミノリ様の体に異常がないか確認させていただきますね。」

ワンブレスで言うと、布団を剥ぎ取って腕を触り出した。遠慮がない力で細かくさすってくる。

「あ、あの、くすぐったい…」

「感覚はある。ということはこれが通常状態?意識があっても魔力を全く感じないなんて…」

ぶつぶつ呟きながら手がだんだん上に移動して、顔をペタペタ触ってきた。
目の前にある顔に息をかけてしまいそうで思いっきり吸い込んで止めた。く、苦しい…

「マルセル先生、ミノリ様が怯えていますわ。」

ピナさんが撫で回していたカメルさんの腕をそっと離してくれた。その隙に息を吐く。

「ミノリサマ!ダイジョーブですか?気を失ったって聞いて、さすがのウチもめっちゃ心配したんすよ?」

ピナさんの横からミィミが泣きそうな顔で湯気の出たタオルを差し出してきた。

「一応、モンバード様が清浄の魔法をかけてるっぽいけど、ミノリサマはオシボリ?っていうのが必要ってモンバード様が言ってたんで、作りました!」

「あ、ありがとう。」

ミィミから受け取ったタオルをそのまま顔に被せる。緊張が湯気と一緒に浮上していくようで、ほぅ、と息を吐いた。

前世でホットタオル気に入ってたから、森でも疲れた時によく作ってたんだよね。

ホットタオルで癒されながら、ふとノルックと一緒に退室されたのはハンさんだったことに気付く。
女性だけになるから気を遣ってくれたのかな。…いや、気を失う前にノルックからいろいろ言われてたし、仕事があるからか。

「なんかきもちよさそ。ウチもあとでやってみよっかな。」

ミィミの声で我に返る。

「あ、気持ちいいよ。ぜひやってみて。」

顔を起こすとタオルが剥がれた。少しの時間でもさっきよりスッキリした気がする。

「ミノリ様、お加減はいかがですか?」

ミィミの後ろからピナさんが声をかけてくれた。

「あ、ご心配おかけしました。寒くもないし、もう大丈夫みたいです。」

眉を八の字にしながら微笑んで、念の為、と温かいお茶を用意してくれた。
不謹慎なのはわかってるんだけど心配されていることが伝わってきて心が浮き足立ちそうになる。

「自覚症状がない場合もあります。ミノリ様は本当に魔力がないようで、私の力では貴女の体を点検スキャンすることができませんでした。」

カメルさんは俯いて、ダラリと下げた両拳を強く握りしめた。

「えーっ、じゃあミノリサマ元気になったかわからないってこと?」

私が落としたオシボリを回収してから、ミィミがカメルさんに詰め寄った。

「ミノリ様がおやすみの間、恐れながら魔力の流れが確認できませんでしたので、衣服の上から見える範囲で目視させていただきました。
右の腕に鋭利なもので刺したような小さい跡を確認しています。新しい傷のようでしたのでそこから何かしらの薬剤を流し込まれている可能性があります。どんな薬剤かは今確認中ですので、少なくともわかるまではくれぐれも、くれぐれも安静になさってください。」

いつの間に鼻先近くまで接近されていた。
眉間の皺が深く刻まれている。

「ミノリサマになにあったらクビ飛んじゃうもんねー」

ケラケラと笑いながら言うミィミに、ノルックはそんなことしないと言いきれないところがつらい。

「そんなこと、させないようにノルックに言っておきます…」

言いながらさりげなく距離をとる。
一応保護者代わりのような身としては、申し訳なくて目を見れない。

「しかし、それとは別でミノリ様は大変興味深いです。人間は必ず大なり小なり魔力を保持しているという前提が覆されました。魔力がなくても生きられるというのはどういう仕組みなのか、解明すれば今までの常識が変わるかもしれない。
魔力がないから、あのモンバード氏が触れても何も感じないのですか?!」

さっき俯いてたの、悔しいのポーズじゃなくて、興奮を抑えてた方だったの…?
急に鼻息荒くなって怖い。キレイな顔なのに。

なんとなくだけど余計なことを言うとモルモットにされそうな予感がするから、カメルさんにはあまり話さないでおこう…

「え…と、皆さんはノルックの近くだと何か感じるんですか?」

逆質問してかわしたつもりが、これじゃあ“何も感じていません”と言ってるようなものだ。私のばか。

「モンバード氏に近付くと、普通の人は魔力の圧が強すぎて立っていられません。」

カメルさんが即座に答える。勢いが、怖い…

「あれ。でもミィミはノルックと仲良かったんだよね?まとわりついてたってノルック言ってたけど…」

まとわりついてたって、けっこう近くにいるイメージよね。

「いやいや、仲良いとか恐れ多すぎっすよ。ウチぶっちゃけ魔力はモンバード様の足元くらいかもしれないすけど、技量はそこそこあるんすよね。いちおーそれが認められてミノリ様の護衛を兼ねるってことで雇ってもらってるんで。
それでもモンバード様と接近するのは1mが限度です。まとわり…っていうか、最初の頃はモンバード様が気になって見に行ったりしたけど、離れたところから一方的に見てただけですよ。こないだモンバード様にミノリ様の惚気話聞かせてもらった時だってテーブル挟んででしたし、それでも肌はビリビリしてましたよ。」

「護衛…ビリビリ…」

初耳だ。護衛を兼ねていたという割にほとんど姿を見てなかったけど、隠密みたいなスタイルなのかな?ノルックは『喋るだけしか認めない』みたいなこと言ってた気がするけど。

それより、“一方的に見てた”って、やっぱりミィミはノルックのことが…

考えそうになったところを無理やり中断した。気を取り直して、ピナさんは?と聞くと

「私はミィミより魔力の面では劣りますので、先程の距離が限度です。
ハンさんはモンバード様に30cmまで近付けるみたいですが。」

なるほど。ということはハンさんってけっこうすごい人なんだね。

「モンバード氏がミノリ様を大事にするわけですね。人間なんだかんだ触れ合いは大事だと思いますから。」

この場では魔力での検査ができないので、代わりに前世でも受けたことがあるような、眼球に光をあてたり、体が動くかチェックされたり、気分が悪くないかという簡単な質問をしてカメルさんは退室していった。
くれぐれも安静に、と強く念押しして。

その後もノルックがなかなか戻って来ないから、ミィミとピナさんにお願いをして他愛もない話をしながら帰りを待つことにした。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄が媚薬を飲まされた弟に狙われる話

ْ
BL
弟×兄

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

処理中です...