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5.突然の終わり

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そんなこんなで
ノルックがうちに来た頃から、2年が過ぎた。

…。

いや、ノルック居すぎじゃない?!

この世界で過ごして気付いたけど、
1年が長い。前世の2倍近くある。
なので体感4年一緒にいることになる。
もはや家族のような気持ちだ。


成長期の男の子である。
2年の間でもすくすく伸びている。

ブカブカだったダイアさんの穿き物も普通に着られるようになっている。

…いいの?!


いくらノルックのいる生活が便利だからって、私も見て見ぬ振りして過ごしてきたわけじゃない。

でも事あるごとに帰ることを仄めかすとダンマリを決め込むのだ。
その上、何度もしつこく言うと「ミノリはいなくなってほしいの?」とか言ってくるし。

そんなのNOに決まってるじゃん!!!

決まってるけど、本当にここにずっといていいのだろうか。

以前少しだけ話をした限りでは、この世界にも学校はあるみたいだし、ノルックもここにくるまでは通っていたらしい。
今は良くても将来的に勉強しておいた方がいいと思うし。

あーでも会った時怪我だらけだったし、もし学校でいじめられてたりしたら逃げたいよね…

その辺りは何も教えてくれないから想像の域を出なくて、結局強く言えずにノルックに躱され続けている。

「ミノリ、ボアロ獲れた」

離れて獲物を追っていたノルックが戻ってきたので一旦思考を中断する。

「わ!おっきい!これだけあれば数日持つね。ありがとう。」

1年ほど前から、魔法を使って狩りをしてくれるようになったノルックは、魔法のおかげだと思うけど身長以上あるボアロを軽々と担いでいる。狩をするようになってからノルックの体格もしっかりしてきて、ふとした時に目線に困るようになってきた。

ほぼ冬に入りかけているこの季節に、ボアロが現れるのは珍しい。
暖かいうちに食べ物をたくさん蓄えたボアロは、寒いのが苦手で秋のうちから熊のように冬眠をするとダイアさんは言っていた。

空を見上げると、今日はよく鳥が飛んでいる。渡り鳥のシーズンだっけな、とぼんやり眺めてると、トラックが通ったみたいな細かい振動を感じた。

「地震…?」

日本人の性なのか、つい辺りを見渡して腰を低くする。倒木に気を取られていると草むらがガサガサと揺れ、小さい生き物たちが脇目もふらず通り過ぎていった。

「あたっ…っ、」

ぼんやり眺めていたら飛び出してくる生き物がどんどん大きくなって、びっくりしてそのうちの一頭にぶつかってしまったけど、鹿みたいなそれはすぐに体勢を立て直して私を気にせず走り去っていった。

「ねえ、なんか様子がおかしいね?今日はもう戻ろう…」

か、と振り向くと、目の前に金色の…岩石くらいの大きさでつるりとした見慣れないものがあった。
中心に真っ黒な楕円の線があって…猫の目みたい…で、と考えていると、太い丸太のようなもので胴部を払われ、背後の木に叩きつけられた!

「ぐっ…!ぁ…」

全身が痛い。動けない。
遠くでノルックに呼ばれる声がする気がするけど、あまりの衝撃に幻聴のような気がしてきた。

辛うじて首をもたげ上げると、見慣れなかったそれは大蛇の瞳だった。
“丸太”は大蛇の尻尾だったらしい。

動かなくなった私に興味を失ったように、大蛇は既に別の方角へ顔を向けていた。
束の間、狙いから外れたことに安心したけど、大蛇の視線の先を見て息を呑んだ。

「ミノリ!」
「ダメ!!!逃げてーーーー!!!!」

大蛇の視線の先にはノルックがいた。
ノルックがこちらに走ってくる。

ただでさえ全身が引きちぎれる痛みで、声を上げたことで、体の内部が悲鳴を上げる。ズルズルと、地面にへばりつく。

大蛇が動く気配がした。ぞわぞわとした震動に、身の毛がよだつ。

もう一歩も動けない。
森が揺れている。

「ミノリ!」

目の前で土を踏む音がして、目の強張りを解くと、ノルックが目の前まで来ていた。

「…ぁ………、」

大丈夫か、聞きたいけど、声が出ない。

意識があるのを確認したからか、手が差し込まれて抱き込まれた。
動かされた瞬間激痛が走り、抗議の声を上げようとしたけど、ノルックが飛び跳ねた瞬間に、それまで寄りかかっていた木が薙ぎ倒されて、何も考えられなくなる。

大蛇が追いかけてきたけど、
ノルックは私を抱えながら全ての攻撃を避けていた。
少しでも衝撃を受けないようにするために、体を硬くしてしがみつく。

「…ソニアさ…の結っカ…ィ…」

体を支える腕が、ピクリと反応した。
絞り出してそれだけしか口にできなかったけど、ノルックには届いたようで、目的地に向かって方向転換する。

走る後ろを、ぶつかったり木が倒れる音がして地響きがずっとしている。

もう少し、

もう少し…!

ログハウスの屋根が見えたところで
意識を失ってしまった。




気が付いたらベッドの上だった。
大蛇は去ったのか、窓の外は荒れていたけど静かだった。

特に鍛えたり体が丈夫なわけでもない私は、その夜高熱になり、体の痛みも引かず、何日もベッドから出られない状態が続いた。

意識を取り戻してすぐにノルックを確認したけど、ノルックは無傷で、そのことにほっとして回復のためにまた瞼を閉じた。

ビシャビシャに濡れた布を頭に乗せてくれたり、寒いと言ったら布団に潜り込んできたり、巻ければいいとばかりに傷口を布でぐるぐる巻きにしてくれたり、慣れないながらも一生懸命にしてくれる看病に、内心ツッコミを入れながらも誰かがいてくれることに安堵した。

不器用な看病だけど、洗浄と乾燥の魔法で常に寝床をキレイに保ってくれるのはありがたかった。

「ミノリ」
不安そうな顔で、私の手を頬にあてるから
返事の代わりに指で撫でる。

大丈夫。ありがとう。ノルックが無事でよかった。


そんな日を何日か過ごして

やっと体が起こせるようになった時
いつもより静かな家に違和感を覚える。



人の気配がない







「ノルック…?」












呼びかけた声はかき消え、
いつまで待っても返事はなかった。








窓の外は、霜が降り始めていた。
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