上 下
6 / 10

エピローグ

しおりを挟む
「サミュエル、体調は問題ないだろうか?」
ベッドの横の椅子に座って公爵が覗き込んでくる。

「だ…旦那様っ!」
慌てて立ちあがろうとしたが、公爵が腕で制してきたため上半身だけ起こした。

「アマーリエが君に卑劣な行いをしてすまなかった。従者からこれまでも君を虐げていたと聞いた。
私は保護者でありながら娘の行いを止めることもせず、認識すらしていなかった。
本当に君には辛い思いをさせ申し訳なかった」
公爵が悲痛の表情を浮かべて頭を下げる。

「顔を上げてください、旦那様。旦那様にお伝えしなかった私が悪いのです」
公爵の両手をギュッと握り、公爵の目をじっと見つめる。

「私はあの子のことも、君のことも正面から受け止めていなかった。親としての役割を私が果たしていなかったから、アマーリエは身勝手な子供になってしまったのだろう。
アマーリエは修道院で教育し直すこととした。もう、君を苦しめることはない。
君のことは箝口令を敷いているが、公爵令嬢が媚薬を手に入れたという愚かな行いは貴族社会でも漏れ伝えてきているようだ。修道院で暮らす方があの子にとっても幸せであろう」

「アマーリエお嬢様は今はどうされているのですか?」

「アマーリエは今は監視の自室で大人しくしている。あの子もしでかした事の重大さにようやく気づいてくれた。
私も保護者の責任として、公爵家を退き家督を譲ろうと思う。君が成人するまでは従兄弟に代理を頼む予定だ」
公爵の目は真摯的で力があり、凛とした声には強い意志が感じられた。

(感情的に話す公爵は全然冷淡ではない。
むしろこんなに優しくて温かい人だったんだ。
公爵は決して感情がない人ではなかったんだ。
俺がゲームの知識があったから虐められるのは当然だと考えて、全てを諦めて嫌がらせを受け入れてしまったから…
自分から一歩引いて公爵ともアマーリエとも距離を置いていたから…
もし、俺の方から少しでも歩み寄っていたら、公爵ともアマーリエとも関係は変わっていたのかもしれない)

「旦那様、引退しないでください。公爵の公務は旦那様から教わりたいです。
旦那様に責任があるというのなら、私にもアマーリエお嬢様を止められなかった責任があります。
アマーリエお嬢様の言動が過激になったのは、私にも原因があると思います。
旦那様が責任を取るというのなら、私の側で一緒に公爵家を盛り立ててください」

「サミュエル…」
公爵が熱のこもった瞳で俺を見つめ、甘く囁いてくる。

(えっ?色っぽい…俺…何か間違えた?)

「だっ旦那様…」

激しく鼓動が脈打ち頬が赤くなる。

公爵は目をギュッと瞑ると首を軽く横に振り、深く呼吸をした。

「わっ…私は君に対し不埒な感情を抱いてしまった。
こんなにも歳の離れた君に対し好意を抱いてしまった。
君を愛する私は君を手放す事が出来ず、いずれ君を抱きたいと思ってしまうだろう。
このような私が君の側にいる資格はない。
大丈夫だよ、サミュエル。心配しなくても、従兄弟は私ほどではないが充分に優秀な人間。じっくりと公務を教わると良い」
目を細めて微笑む瞳は少し淋しそうだった。

(愛する?俺を?公爵が?この綺麗な人がっ?俺のことを?)
心臓が口から飛び出そうなくらいにドキドキと鼓動が激しくなる。

「愛というのは私にはまだよくわかりません。でも、私は旦那様の笑顔に胸が熱くなるし、旦那様の感情に触れると心が温かくなります。
私は旦那様と一緒にいたいです」

公爵の首に抱きつくと俺は公爵の頬にキスをした。




ゲーム開始前に悪役令嬢は退場してしまった。
ヒロインと攻略対象との恋愛がどうなるのかはわからない。
ただ、俺はヒロインには攻略される予定はない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

推しに転生した不幸な俺の願望

西楓
BL
気がついたら推しの姿になっていた。破滅への道しかない極悪非道な悪役令嬢の兄。 そんな中、妹の悪役令嬢が婚約者の王子に睡眠薬を盛り既成事実を作ろうとする。兄は最悪の事態を回避することができるのか?気持ちコメディのつもりです。 後半睡姦のばっちりRシーンがありますのでご注意ください。ガチムチの襲い受け(中身は平凡男子高校生)です。 Rシーンには※をつけています。

異世界転生したらαでした

西楓
BL
異世界転生した俺はこの世界に第二の性があると知る。優秀なαとして生まれた俺だが、より優れた兄が側にいるためエリート意識はあまりない。 いつか、女の子と仲良くと思ってたところ、可愛いΩの女性と出会い… ※オメガバースの世界ですが、詳しくないので設定が少し一般とは違うかもしれません。 最近オメガバースというものを知り、書いてみたくなりまして…すみません。 Rシーンには※を入れてます。

当て馬令息はフラグを回避したい

西楓
BL
病気で亡くなったと思ったら、乙女ゲームの世界に転生していた。 攻略対象の3人ではなく、攻略対象の弟として。そして、ヒロインを襲って結果キューピットとなる当て馬として。 0時と8時と16時に更新します。(当分不定期になります9/22) R18には※をつけています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役の弟に転生した僕はフラグをへし折る為に頑張ったけど監禁エンドにたどり着いた

霧乃ふー  短編
BL
「シーア兄さまぁ♡だいすきぃ♡ぎゅってして♡♡」 絶賛誘拐され、目隠しされながら無理矢理に誘拐犯にヤられている真っ最中の僕。 僕を唯一家族として扱ってくれる大好きなシーア兄様も助けに来てはくれないらしい。 だから、僕は思ったのだ。 僕を犯している誘拐犯をシーア兄様だと思いこめばいいと。

転生した俺が触手に襲われるなんてありえない

西楓
BL
異世界に転生した俺は前世の知識を活かし充実した人生を送っていた。ある時呼ばれた茶会で見目麗しい男性達と出会う。どこかで見かけたような…前世でプレイしたゲームの攻略対象? ※後半触手によるRシーンありますのでご注意ください。

媚薬盛られました。クラスメイトにやらしく介抱されました。

みき
BL
媚薬盛られた男子高校生が、クラスメイトにえっちなことされる話。 BL R-18 ほぼエロです。感想頂けるととても嬉しいです。 登場キャラクター名 桐島明×東郷廉

異世界転生したら、氷の騎士と闇の騎士に強姦されました

ラフレシア
BL
 氷の騎士と闇の騎士に強姦される……

処理中です...