悪女カメリア

西楓

文字の大きさ
上 下
2 / 2

ネモフィラ

しおりを挟む
「おはよう、カメリア。そんな格好してどこへ行くんだい?」
「おはようございます、ルビーお姉さん。お掃除も終わったので、町へ買い物にいこうかと思ってるの」
「もう終わったのかい。今日は早いね。危ないところには寄るんじゃないよ」

穏やかそうな丸顔のルビーの言葉は優しい。
カメリアはその言葉に口角をあげる。ぶっきらぼうながらも、言葉の端々に隠れる思いやりが嬉しかった。

(ユリアンナの時もこういった気さくなお客さんと接してたなぁ)

夫と娼館の管理人をしているルビーがカメリアと出会ったのはカメリアが生まれですぐのことだった。
いずれ使用人とするために娼婦の母親として引き取られたのだが、年月が経つにつれ情が生まれ妹のように接するようになった。

(彼女を虐げる者などいないのに、何故カメリアはここを離れようと思ったのかしら)




大通りを抜け2つ目の細道に入った角に赤白黄色に彩られた花屋が存在しているはずであった。

(やはりまだないか。でも、お父さんとお母さんは確か小さい頃から育った町に店を建てたと言っていた。この町のどこかにきっといるはず。また来よう)

胸の中で何度も自分に言い聞かせる。
例え私のことがわからなくても、父と母と接することでユリアンナであるということを認識できるはず。

このままカメリアの身体に意識が吸収され、ユリアンナとしての自我が消えてしまうことが怖かった。震える自分を両手で強く抱きしめた。


「お姉ちゃん、泣いているの?」
足元を見ると茶色髪にグリーンのきらきらとした瞳をした小さな女の子がいた。

「いいえ、泣いてないわ。心配してくれてありがとう」
「よかった。お姉ちゃん綺麗なブルーの瞳をしているのね。ネモフィラみたいで素敵」
「お嬢ちゃんはお花詳しいのね。私のお母さんみたい……

(あっ…このオリーブの瞳は…もしかして…でも、こんな偶然ある?でも…)

お姉ちゃんの名前はカメリアと言うの。オリーブの瞳が素敵なお嬢ちゃんのお名前はなんて言うのかな?」

小さく息を吸い込んで、前のめりになる気持ちを抑え、ニコリと微笑む。

「アリアっていうのよ。お姉ちゃんもお花詳しいのね。アリアはお花屋さんになりたいの。お母さんきたから、バイバイ」
「あら、お姉ちゃんもお花屋さんを目指しているの。毎週この時間にここによく来るから、またお話ししてね」

手招く母に向かって駆け出すアリアへ、慌てて声をかけた。

(よかった。お母さんが存在しているということは、ユリアンナの存在も架空のものではない)

変わらない母の温かさに触れ、安堵の涙が溢れてきた。





私は確かにユリアンナだった。
夢の中でカメリアと目があって、カメリアと入れ替わっていた。
私はどうしたら元に戻れるの?

わからない。

カメリアは私を見て「みつけた」と君が悪い笑みを浮かべていた。

カメリアがこの世界にいない私を探しているはずがない。もしかして、憎しみを抱き探している人物がこの時代にいて、その人物と私を間違えたのかもしれない。

カメリアが探している人物をみつけなければ…
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

【完結】冷遇された翡翠の令嬢は二度と貴方と婚約致しません!

ユユ
恋愛
酷い人生だった。 神様なんていないと思った。 死にゆく中、今まで必死に祈っていた自分が愚かに感じた。 苦しみながら意識を失ったはずが、起きたら婚約前だった。 絶対にあの男とは婚約しないと決めた。 そして未来に起きることに向けて対策をすることにした。 * 完結保証あり。 * 作り話です。 * 巻き戻りの話です。 * 処刑描写あり。 * R18は保険程度。 暇つぶしにどうぞ。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

愛しの貴方にサヨナラのキスを

百川凛
恋愛
王立学園に通う伯爵令嬢シャロンは、王太子の側近候補で騎士を目指すラルストン侯爵家の次男、テオドールと婚約している。 良い関係を築いてきた2人だが、ある1人の男爵令嬢によりその関係は崩れてしまう。王太子やその側近候補たちが、その男爵令嬢に心惹かれてしまったのだ。 愛する婚約者から婚約破棄を告げられる日。想いを断ち切るため最後に一度だけテオドールの唇にキスをする──と、彼はバタリと倒れてしまった。 後に、王太子をはじめ数人の男子生徒に魅了魔法がかけられている事が判明する。 テオドールは魅了にかかってしまった自分を悔い、必死にシャロンの愛と信用を取り戻そうとするが……。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

処理中です...