本能寺燃ゆ

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第五章「盲愛の寺」

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 十兵衛が、八上城を落とした効き目がすぐに表れた。

 丹後の松田摂津守が、隼の雛を二羽を贈ってきた。

「これはまた、可愛らしい」

 籠の中を覗き込んだ信忠は、愛らしく首を傾げる雛に笑顔を向けた。

「もうじき、巣立とうて。よき獲物がとれるよう、よくよく躾けてやろうと、いまから楽しみじゃ」

 殿も、籠を覗き見ながら微笑んでいる。

 後ろから見ると、如何にも気の合う親子なのだが………………

「これも、十兵衛のお陰じゃな」

 その名が出ると、信忠は眉を顰める。

「日向(明智光秀)もよき働きをしておりまするが……、筑前(羽柴秀吉はしばひでよし)もよき働きをしていると思いますが」

 やはり、信忠は秀吉贔屓だ。

「そうか?」

「先も海蔵寺も落としておりまするし………………」

 安土が、浄土と法華で揉めている最中に、秀吉は播磨の海蔵寺(明要寺)に兵を忍ばせ、これを乗っ取り、隣の淡河城もこれに驚き、城を捨て逃げていった。

「うむ、そうか、あっぱれじゃ」

 と、殿は淡々と言った。

 十兵衛のときとは、えらい違いだ。

「褒美に、儂の鷹をやるかな……」

 それを聞いた信忠の顔が、ぱっと明るくなった。

「伊丹におる伊予(滝川一益たきがわかずます)や兵庫(蜂屋頼隆はちやよりたか)らに」

 秀吉にではないのかと、信忠はがっくりと肩を落とした………………何故、それほど秀吉の肩を持つのか?

 そんな信忠の様子を気に留めることもなく、信長はしきりに餌をあげている。

 振り向きもせず、

「で?」

 と、突然尋ねられ、信忠の方が戸惑っていた。

「子作りには励んでおるのか?」

 その話かと、信忠は聊か赤面しながら、「万事抜かりなく」と答えた。

「抜かねば、子が生まれぬではなか?」

「はぁ?」

 信忠は首を傾げる。

 殿の下の話についていけないようだ。

「一発も抜かりなく、抜けよ」

「はあ………………」

 まだ分らぬようだ。

「子は宝という、多ければ多い方が何かと良い」

「畏まり候」

 かくいう信長には、信忠を筆頭に、庶子を含めて息子が十二、娘は養女を含めると十以上………………子だくさんである。

 これが、各地の有力武家に養子に入ったり、嫁に行ったりで縁を結んでいる。

 武門の子とは、そういうものだ。

「武力も大事だが、こういった縁を結ぶことも、なお大事。おぬしも織田家の当主として、今後はさらなる縁を結んでいかねばならぬ、それを重々肝に銘じて子作りに励め」

「重々承知」

 信忠は、少々苦々しそうだ ―― そんなこと言われなくとも………………という顔をしている。

「承知しているわりに、まだ妻を娶ってはおらんではないか」

 妻とは、正室のこと。

「儂や佐渡守(林秀貞はやしひでさだ:織田家宿老)が、あれこれと斡旋するに、一向に首を縦に振らんではないか。なんぞ、不服があるか?」

「不服などは………………」

「家柄もいい、器量よしをあてがっておるのだぞ? それともおぬし、醜女しこめ好みか?」

「いや、そいうわけでは………………」

「別に醜女でも構わんぞ。たくさん子が産めればそれでよし。それとも、そなた………………、まだ武田の娘のことを思うておるのではなかろうな?」

 図星だったのか、信忠は目を反らした。

 殿は、ため息を吐いた。
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