本能寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
上 下
318 / 498
第四章「偏愛の城」

43

しおりを挟む
 平井城は、中野城の東にある平城 ―― 鈴木重秀が立て籠もる。

「鉄砲上手の雑賀孫一のこと、激しい戦になるであろう。今宵は深酒をすることなく、ゆっくりと休め」

 殿の言葉通り、平井攻めは熾烈を極めた。

 重秀は、得意の戦術で鉄砲を絶え間なく撃ってくる。

 城に近づく隙さえも与えない。

 これに対抗するため、こちら側は竹束で弾を防ぐ。

 長篠・志多羅の反対だ ―― 織田が鉄砲を撃ち続け、武田が竹束で防ぎながら攻め寄せていった、あれの反対だ。

 ばりばり、ばりばりと、雷のように絶え間なく鳴り響く音。

 あちこちであがる叫び声、呻き声。

 次々と倒れていく兵たち。

 太若丸は、後方の本陣にいるが、鉄砲を撃ちかけられる怖さが手に取るように分かる。

 武田勢の兵たちは、よほど恐ろしかったであろう。

 まさか、こちら側がその立場になろうとは………………

 ただ唯一の救いといえば、足元がしっかりとしていること。

 長篠・志多羅のときは、わざと水の張った田んぼの多い土地を戦場に選んだ。

 前日の雨のお陰もあって、足元がぬかるみ、攻める武田の兵を苦しめた。

 三月頭の、いまだ肌寒い時期 ―― 足場もしっかりとして、ゆっくりであるが、進みやすい。

 死者や負傷した兵もでているが、じわりじわりと押している。

 向こうが絶え間なく銃を撃ってくるなら、こちらは絶え間なく攻めろと、朝から夜遅くまで兵を繰り出していく。

「半刻ごとに、攻めている兵と休んでいる兵を交代させ、絶え間なく攻めよ! やつらに休む隙をつくらせるな! 攻めて攻めて、攻め続けろ!」

 こちらは六万近くの兵力 ―― 幾らでも兵はいる。

 撃たれても、撃たれても、次から次へと兵を出す。

 一方、守る平井側は二百ほどと思われる。

 こちらも兵を二つに分け、片方が撃っている間に、もう一方が弾込めの準備をして、敵に進み出る隙を与えない。

 だが、たかが二百の兵では、守る範囲が限られる。

 それを二つに分けているので、実際に使用されている鉄砲は百ほど。

 しかも、替わりの兵もいないので、朝から晩まで休むことなく攻め寄せてくる織田側に、平井の兵は相当疲れ切っているはずである。

 現に、しばらくすると銃の音が遠雷のようにか細くなり、間延びしてきた。

 このまま一気に押せば、平井も落ちよう。

 殿は、猛攻をかけるように指示を出した………………が、前線より十兵衛の使番が駆けてきた。

「申し上げます、我が主並びに長岡殿が申すには、鈴木孫一は無類の鉄砲上手、これを失うのはあまりのも惜しい。これを懐柔し、殿の配下に加えれば、必ずやお役に立つかとのこと」

 使番の言葉に、殿はなるほどと頷いた。

 腕組をして、しばし平井城を眺めた後、

「全軍に伝えよ、攻撃を止め、矢倉を建てさせよ。兵糧攻めとする」

 すぐさま母衣衆が前線に向けて馬を駆けていった。

「確かに十兵衛の言うとおり、鈴木を亡くすのは惜しい。あれを敵にまわせば面倒だが、味方に付ければ良い働きをしてくれるであろう。うむうむ、十兵衛め、徐々に武将としての勘を取り戻してきたな」

 やはり殿も、十兵衛の精気の乏しい様子が気になっていたようだ。

「十兵衛がもとのように戻れば、この戦も大丈夫だろうて」

 殿は、にんまりと笑われた。

 こんな嬉しそうな殿も、実に久しぶりに見た。

 平井城を兵糧攻めにする一方、殿は本陣を山手側と浜手側の真ん中 ―― 鳥取郷の若宮八幡宮に移した。

 さらに、堀秀政、不破光治ふわみつはる丸毛長照まるもながてる武藤舜秀むとうきよひで福富秀勝ふくずみひでかつ中条家忠ちゅうじょういえただ、山岡景隆、牧村利貞まきむらとしさだ福田三河守ふくだみかわのかみ丹羽氏勝にわうじかつ水野正長みずのまさなが生駒一吉いこまかずよし、甥の生駒一正かずまさらを根来口に陣取らせる。

 これにより、小雑賀川・紀ノ川を封鎖し、雑賀荘・十ヶ郷を完全に包囲した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...