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第三章「寵愛の帳」
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「あとは、豊川さんとか」
三河の豊川に、妙厳寺という曹洞宗の寺がある。
禅宗の寺であるが、茶枳尼天を祀る。
そのむかし、寒厳義尹という禅僧が、留学先の宋より帰国の折り、茶枳尼天のご加護を受け、無事に海を渡ることができたとか。
その縁で、寒厳は茶枳尼天を信奉し、その後六代目である東海義易が妙厳寺を創建、茶枳尼天を護法神として祀ったらしい。
霊験あらたかで、よくよく助けてくれるらしく、今川氏、徳川氏の庇護を受け、信長もたびたび寄進をしているようだ。
「拙者も、茶枳尼様の仏像を持っておりますぞ」
又左衛門は、懐からそれを出し、見せてくれた。
侍というのは、よくよくこういった仏像やお守りを持っている。
物の怪など信じぬなどと強がっている武将でも、己が信仰する仏や神はあるようだ。
いつ命を落とすか分からぬ不安な世の中 ―― 神仏に縋りたくなるのも分からんでもない。
本朝には、八百万の神といって、上は国を造った神様から、下は厠の神様まで、あらゆるところにたくさんの神様がいる。
そこに、唐天竺より入ってきた仏様を含めると、幾万の神仏がいるか………………
その中で、この茶枳尼天は、武将に人気が高い。
天竺では、人の血肉を食う魔女であったとか。
それが調伏され、仏に帰依して、護法の神となる。
密教の伝来とともに本朝に入ってくると、恐ろしい魔物から美しい天女の姿となり、もともと死肉を漁る習慣のある狐と合わさり、白い狐に乗る姿で描かれるようになる。
狐が眷属である稲荷と融合し、豊穣の神へと昇華する。
この神様、どんな願い事も叶えてくれるので、武将の間でも人気があるようだ。
その一方、拝むのを途中でやめると、酷い祟りをなすとか。
扱いが難しい仏様だとも言われている。
「巷では、この茶枳尼天様の前に、髑髏を祀って拝むと良いという話も聞きます、それは如何であろうや?」
太若丸も聞いたことがある、そのような怪しげな儀式をする者がいることを。
「御山の一派と聞きましたが……」
まあ、御山だけでも何十という流派があるので、その一部が巷に流れ、色々と格好をつけて立ち上がった信仰であろう。
そういうのは詳しくないのでと断ろうとすると、
「ならば、明智殿に訊いてみてくだされ」
と、お願いしてくる。
「明智殿は方々を放浪しておられて、色んな知識がおありでしょうから。頼みます」
頭を下げてくるので、無碍に断ることもできず、まあ、あまり期待はなさりませぬようにと断って席を立った。
早速書状を認め、十兵衛に送ってみた。
久しぶりの書状であるので、妙に興奮してしまい、少々字が躍ってしまったが……………
三河の豊川に、妙厳寺という曹洞宗の寺がある。
禅宗の寺であるが、茶枳尼天を祀る。
そのむかし、寒厳義尹という禅僧が、留学先の宋より帰国の折り、茶枳尼天のご加護を受け、無事に海を渡ることができたとか。
その縁で、寒厳は茶枳尼天を信奉し、その後六代目である東海義易が妙厳寺を創建、茶枳尼天を護法神として祀ったらしい。
霊験あらたかで、よくよく助けてくれるらしく、今川氏、徳川氏の庇護を受け、信長もたびたび寄進をしているようだ。
「拙者も、茶枳尼様の仏像を持っておりますぞ」
又左衛門は、懐からそれを出し、見せてくれた。
侍というのは、よくよくこういった仏像やお守りを持っている。
物の怪など信じぬなどと強がっている武将でも、己が信仰する仏や神はあるようだ。
いつ命を落とすか分からぬ不安な世の中 ―― 神仏に縋りたくなるのも分からんでもない。
本朝には、八百万の神といって、上は国を造った神様から、下は厠の神様まで、あらゆるところにたくさんの神様がいる。
そこに、唐天竺より入ってきた仏様を含めると、幾万の神仏がいるか………………
その中で、この茶枳尼天は、武将に人気が高い。
天竺では、人の血肉を食う魔女であったとか。
それが調伏され、仏に帰依して、護法の神となる。
密教の伝来とともに本朝に入ってくると、恐ろしい魔物から美しい天女の姿となり、もともと死肉を漁る習慣のある狐と合わさり、白い狐に乗る姿で描かれるようになる。
狐が眷属である稲荷と融合し、豊穣の神へと昇華する。
この神様、どんな願い事も叶えてくれるので、武将の間でも人気があるようだ。
その一方、拝むのを途中でやめると、酷い祟りをなすとか。
扱いが難しい仏様だとも言われている。
「巷では、この茶枳尼天様の前に、髑髏を祀って拝むと良いという話も聞きます、それは如何であろうや?」
太若丸も聞いたことがある、そのような怪しげな儀式をする者がいることを。
「御山の一派と聞きましたが……」
まあ、御山だけでも何十という流派があるので、その一部が巷に流れ、色々と格好をつけて立ち上がった信仰であろう。
そういうのは詳しくないのでと断ろうとすると、
「ならば、明智殿に訊いてみてくだされ」
と、お願いしてくる。
「明智殿は方々を放浪しておられて、色んな知識がおありでしょうから。頼みます」
頭を下げてくるので、無碍に断ることもできず、まあ、あまり期待はなさりませぬようにと断って席を立った。
早速書状を認め、十兵衛に送ってみた。
久しぶりの書状であるので、妙に興奮してしまい、少々字が躍ってしまったが……………
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