本能寺燃ゆ

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第三章「寵愛の帳」

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 北近江だけでなく、越前も支配下に置いた信長は、次の狙いを長島に定める。

 長島は、尾張と伊勢の国境、木曽川・長良川・揖斐川の通称木曽三川とも、尾濃三川とも云われる、三つの川が流れ込む河口域に浮かぶ湊町である。

 七つの洲があるので、七島………………長島になったとか。

 伊勢桑名郡とも、尾張河内郡とも云われる微妙な場所にある。

 この一帯には、一向宗の寺が多い ―― 本願寺第八世宗主#蓮如__れんにょ__の息子蓮淳れんじゅんが願証寺を創建したのがはじまりで、その周辺に多くの寺や道場が立てられた。

 領民のほとんどが一向門徒で、尾張の支配にも、伊勢の支配にも属さない、いわゆる一向門徒で持つ都市である。

 信長も、尾張・伊勢と支配下に置きながら、この長島だけは手を出せない状態であった。

 そのせいで、痛い目に合う。

 元亀元(一五七〇)年、信長が三好三人衆や石山本願寺らとやり合っている最中に、本願寺第十一世宗主の顕如けんにょに焚きつけられた一向門徒が立ち上がる。

 長島一向一揆である。

 このとき信長は、浅井・朝倉氏、六角氏、三好三人衆、石山本願寺とまさに四面楚歌。

 とても長島に構っている余力もなく、小木江城を守っていた弟信興のぶおきは自刃、滝川一益は敗走するという惨状であった。

 元亀二(一五七一)年二月、信興の弔い合戦として、長島に五万の兵を送る。

 信長の本隊に、佐久間信盛、柴田勝家の二軍で長島一帯を焼き払った。

 だが、一向門徒の勢力は衰えず、仕方なくいったん撤退することに。

 その帰路、狭い街道に潜伏していた一向衆が弓矢や鉄砲を仕掛けてきた。

 信長と信盛は逃げることができたが、殿しんがりの勝家が捕まり、複数の戦死者を出すだけでなく、勝家自身も深手を負ってしまうという散々な戦況であった。

 彼の地を熟知している分、一向門徒は強い。

 しかも、武将同士が真正面からぶつかり合う野戦とは違い、要所要所に隠れ攻撃を仕掛けてくる。

 撃っては隠れ、また別の場所から撃っては逃げる。

 おそらく、一向宗だけではないようだ。

 そういった戦術に長ける伊賀・甲賀の国人衆も参加しているようだ。

 さらに、湊を使って雑賀衆から支援を受け入れているようだ。

 籠城戦にも強い。

 海を抑えるのも重要だと、此度は北畠具豊きたばたけともとよ(信長の次男信雄のぶかつ)に、伊勢大湊の船を使わせるよう会合衆と折衝を命じた。

 だが、会合衆は首を縦には振らない。

 有徳者 ―― 有力商人の集まりであり、独立意識が強い集団である。

 一方についてしまうと、商売ができないというのが彼らの頭にある。

 当然ではあるが、それでも信長は長島の海域を抑えて、戦いを有利に進めたい。

 もともと会合衆との関係も深い、具豊の養父である具房ともふさやその父の具教とものりにも折衝を頼むが、これもなかなか上手くいかない。

 時ばかり取られて、信長も苛立ち、ついに出陣となったのである。

 今回は八万の兵である。
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