本能寺燃ゆ

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第三章「寵愛の帳」

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 舞い終り、頭を下げる。

 ぱちり、ぱちりと篝火が弾ける。

 家臣連中は、ちらちらと信長を見ている。

 殿が拍手や批評をしない以上、家臣がそれをするわけにもいかず、ただ奇妙だけぱちぱちと手を叩いたが、信長を見て、慌てて止めた。

 舞台袖の藤吉郎を見ると、これはやってしまった……というような顔をしている。

〝お叱り〟を覚悟して、舞台を降りようとすると、唐突に信長が立ち上がった。

 もしや、この場で手打ちか?

 信長が舞台に上がってくる。

 奇妙や家臣たちが、はらはらしながら状況を見ている。

 誰も助けてはくれないらしい。

 しからばと、太若丸はその場に畏まる。

 ばっさりといかれるかと待っていると、ぽんと再び乾いた音が鳴った。

 信長が鼓を打っている。

 儂の拍子で舞えということか?

 望むところと、太若丸は立ち上がり、再び舞った。

 ふと、舞いやすいと思った。

 二回目なので緊張が解けたのか、それとも信長の間合いがいいのか、無心で踊ることができた。

 終わると、信長は何も言わずに席に戻り、己の杯を太若丸に突き出す。

 飲めということだろう ―― これは認められたのか?

 ありがたくいただいた。

「太若丸と申したか? 今宵より儂の傍に仕えよ」

 太若丸は首を傾げる。

 傍に仕えるということは、小姓になれということか?

 しかし、太若丸は侍ではない ―― 侍の礼儀作法を知らない。

 また十兵衛の預かりでもある ―― 他の主に仕えるなら、現主人の許しがいるのでは………………まあ、信長が十兵衛預かりにしたので、その辺は問題ないのか?

 それを信長に問うと、

「十兵衛には、儂から申し伝える」

 有無を言わせないような冷たい口調で言い放った。

 何も言えずに、太若丸はそのまま下がった。

 すぐに藤吉郎が駆け寄ってきた。

「太若丸殿、ようござりましたな、殿に気に入られましたぞ」

 それは良かったが、傍に仕えよとは………………また十兵衛と離れ離れになるのか?

 困惑していると、

「なに、心配はござらんよ。殿はああ見えて、お優しいから」

 いや、心配しているのはそこではないと思った。

「ところで太若丸殿、なぜあの舞いを? 殿が、あの舞いを好まれるのをどこかでお聞きで?」

 太若丸は首を振る。

 ただ、思いついただけだ。

「左様ですか。しかし、あれは良かった。実はあの舞い、殿が今川治部大輔いまがわじぶのだいゆ義元よしもと)を討ちとったとき、あの舞いを踊られて出撃されたのですよ。それほど思い入れのある舞いなのですよ。恐らく、具足初めの奇妙殿にも、武人としての覚悟をお示しになることができたと、殿もお喜びですよ」

 なるほど、そういった経緯があったのか。

 それで、信長自ら鼓を打ったのだろう。

 それも、よほど好きで、思い入れがあったので、太若丸も舞いやすかったのだろう。

 太若丸も、踊っていて気持ちが良かったので、万事上手くいって良かったと思った。

 ただ、信長の傍に仕えよと命じられことだけは問題だが………………
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