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第三章「寵愛の帳」
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花は、桜である。
今年も桜の季節がやってきた。
見上げると、薄桃色の花びらが咲き誇り、幾分冷たい風に吹かれてちらちらと舞っている。
村でもそうだが、ここも同じ ―― 毎年毎年忘れずに、よくも咲くものだ。
ほのかに色づいた枝の間から、山が見える。
山は、比叡山である。
御山にも、春が近づいているようだ。
この時期だと、花見と称して般若湯を持ち出し、楽しんでいる僧もいよう。
普段は厳格な僧も、雪解けの音に頬を緩め、僅かだが暖かくなった風に乗って広がる春の清々しい香りに、心を躍らせるだろう。
しかし、いまはそれもない。
永久と想われたお堂は焼け落ち、灰と化した。
そこに住まい、修行をする僧たち、その生活を支える従者や稚児、女たちも、一夜のうちに命を散らした。
桜は散っても、また次の年咲くであろう。
が、御山は二度と咲くことはない………………巷で、そう噂されるほど何もなくなった。
人とは………………、人の造りしものとは………………、如何に脆いものか?
太若丸は、御山を見上げながら思った。
今年も桜の季節がやってきた。
見上げると、薄桃色の花びらが咲き誇り、幾分冷たい風に吹かれてちらちらと舞っている。
村でもそうだが、ここも同じ ―― 毎年毎年忘れずに、よくも咲くものだ。
ほのかに色づいた枝の間から、山が見える。
山は、比叡山である。
御山にも、春が近づいているようだ。
この時期だと、花見と称して般若湯を持ち出し、楽しんでいる僧もいよう。
普段は厳格な僧も、雪解けの音に頬を緩め、僅かだが暖かくなった風に乗って広がる春の清々しい香りに、心を躍らせるだろう。
しかし、いまはそれもない。
永久と想われたお堂は焼け落ち、灰と化した。
そこに住まい、修行をする僧たち、その生活を支える従者や稚児、女たちも、一夜のうちに命を散らした。
桜は散っても、また次の年咲くであろう。
が、御山は二度と咲くことはない………………巷で、そう噂されるほど何もなくなった。
人とは………………、人の造りしものとは………………、如何に脆いものか?
太若丸は、御山を見上げながら思った。
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