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第一章「純愛の村」
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「それで、越前の今後は? 織田は、越前まで攻めてくるのでしょうか? 朝倉様はなんと?」
これ以上権太を惑わすような話をされては適わないと思ったのか、源太郎は話を元に戻した。
源太郎にとっては、誰が将軍になろうと、誰が天下を取ろうと関係ない………………自分の村の存亡が、村が属している越前が、越前を治めている朝倉氏が重要なのだ。
ただ、村が安泰であれば、例え朝倉が滅び、織田氏に代わられても、または隣国の本願寺門徒衆の配下に入ろうとも、はたまた遠くの毛利とか、北条とかに支配されても、全く構わないのである。
同じようなことを義景からも聞かれたらしい。
織田は越前に攻め込んでくるや否や ―― 評定では攻め込んでくるという前提で話し合われたらしい。
一門衆筆頭格の景鏡は、『信長は、あの今川義元を破ったとはいえ、数年前に尾張を平定したばかり、一族や家臣のなかには奴を〝うつけ〟と呼び、反抗心を持つものもいると聞く、美濃の斎藤氏から娘を貰って同盟を結んでいたが、その嫁の実家を襲ったのだから良く思わぬ家臣もいよう。それに、斎藤との戦いで兵も疲れているはず。攻め込まれる前に、こちらから攻めれば容易に破れよう、そうなれば美濃のみならず、尾張まで我が領土としようぞ』と、意気をあげたらしい。
対して家臣団筆頭の山崎吉家は、『確かに織田は脅威になるでしょうが、こちらから責めるのは得策ではございません、〝うつけ〟と呼ばれたのも昔のことで、桶狭間山は勢いに任せて勝ち取ったような戦でしたが、今回の美濃攻めは十分備えをしてから臨んでおります、また織田の兵力も十分で、下手に攻め入ると足元を掬われかねません、ここは慎重に越後や加賀、近江や甲斐などと足並みを合わせ、織田を封じ込めていくのが得策かと』と、他国と密に連携していくことを提案した。
この後は、攻める、攻めないと意見が割れた
黙って聞いていた義景は、判断に迷っていたようだ。
最後は義景に差配が任されたが、しばらく考えて、いま気がついたように、
『明智……とか申したか? そなたは如何思う?』
と、不意に尋ねられた。
突然だったので、十兵衛は、拙者ですかと、戸惑ってしまった。
『うむ、聞けばそなた、方々を歩き、色々と見てきたとか? 信長という男、如何に見る?』
義景の問いに、十兵衛は腕を組んで天井を見上げた。
家臣たちの視線が、十兵衛に集中する。
明らかに、彼を軽蔑の目で、ただの素浪人あがりの、百姓あがりの男が何を言うかというような見下したような目で見ているものもいた。
十兵衛は、もったいぶったように、『う~ん、そうですな』と、頭を右へ左へと動かし、しばし考えているふりをして、徐に口を開いた。
『信長という男……やはり〝うつけ〟かと』
『信長は、やはり〝うつけ〟か?』
義景の問いに、十兵衛は断言した。
『はい、天下を狙う〝大うつけ〟でございます』
家臣たちは驚き、騒めく。
吉延も驚いた様子で振り返る。
一番驚嘆しているのは景鏡のようだ、彼はその大きな目をさらに大きく見開き、十兵衛を凝視していた。
肝心の義景はさほど驚いていない、彼は端然と座っている。
『天下とな? 信長は天下を狙っておるのか?』
『左様です』
『ほう……、その根拠は?』
『勘です』
どっと笑いが起きた。
景鏡は、それ見たことかというように、大口を開けて笑っていた。
吉延は顔を顰め、『明智殿、きちんと話を』と囁いた。
『色々見てきたうえでの勘なんですがね』
と、頭を掻き、咳払いをひとつしてから話をしたらしい。
これ以上権太を惑わすような話をされては適わないと思ったのか、源太郎は話を元に戻した。
源太郎にとっては、誰が将軍になろうと、誰が天下を取ろうと関係ない………………自分の村の存亡が、村が属している越前が、越前を治めている朝倉氏が重要なのだ。
ただ、村が安泰であれば、例え朝倉が滅び、織田氏に代わられても、または隣国の本願寺門徒衆の配下に入ろうとも、はたまた遠くの毛利とか、北条とかに支配されても、全く構わないのである。
同じようなことを義景からも聞かれたらしい。
織田は越前に攻め込んでくるや否や ―― 評定では攻め込んでくるという前提で話し合われたらしい。
一門衆筆頭格の景鏡は、『信長は、あの今川義元を破ったとはいえ、数年前に尾張を平定したばかり、一族や家臣のなかには奴を〝うつけ〟と呼び、反抗心を持つものもいると聞く、美濃の斎藤氏から娘を貰って同盟を結んでいたが、その嫁の実家を襲ったのだから良く思わぬ家臣もいよう。それに、斎藤との戦いで兵も疲れているはず。攻め込まれる前に、こちらから攻めれば容易に破れよう、そうなれば美濃のみならず、尾張まで我が領土としようぞ』と、意気をあげたらしい。
対して家臣団筆頭の山崎吉家は、『確かに織田は脅威になるでしょうが、こちらから責めるのは得策ではございません、〝うつけ〟と呼ばれたのも昔のことで、桶狭間山は勢いに任せて勝ち取ったような戦でしたが、今回の美濃攻めは十分備えをしてから臨んでおります、また織田の兵力も十分で、下手に攻め入ると足元を掬われかねません、ここは慎重に越後や加賀、近江や甲斐などと足並みを合わせ、織田を封じ込めていくのが得策かと』と、他国と密に連携していくことを提案した。
この後は、攻める、攻めないと意見が割れた
黙って聞いていた義景は、判断に迷っていたようだ。
最後は義景に差配が任されたが、しばらく考えて、いま気がついたように、
『明智……とか申したか? そなたは如何思う?』
と、不意に尋ねられた。
突然だったので、十兵衛は、拙者ですかと、戸惑ってしまった。
『うむ、聞けばそなた、方々を歩き、色々と見てきたとか? 信長という男、如何に見る?』
義景の問いに、十兵衛は腕を組んで天井を見上げた。
家臣たちの視線が、十兵衛に集中する。
明らかに、彼を軽蔑の目で、ただの素浪人あがりの、百姓あがりの男が何を言うかというような見下したような目で見ているものもいた。
十兵衛は、もったいぶったように、『う~ん、そうですな』と、頭を右へ左へと動かし、しばし考えているふりをして、徐に口を開いた。
『信長という男……やはり〝うつけ〟かと』
『信長は、やはり〝うつけ〟か?』
義景の問いに、十兵衛は断言した。
『はい、天下を狙う〝大うつけ〟でございます』
家臣たちは驚き、騒めく。
吉延も驚いた様子で振り返る。
一番驚嘆しているのは景鏡のようだ、彼はその大きな目をさらに大きく見開き、十兵衛を凝視していた。
肝心の義景はさほど驚いていない、彼は端然と座っている。
『天下とな? 信長は天下を狙っておるのか?』
『左様です』
『ほう……、その根拠は?』
『勘です』
どっと笑いが起きた。
景鏡は、それ見たことかというように、大口を開けて笑っていた。
吉延は顔を顰め、『明智殿、きちんと話を』と囁いた。
『色々見てきたうえでの勘なんですがね』
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