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第一章「純愛の村」
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村の田畑も酷いが、山も変わりはなかった。
食べる者もない村人たちは、山に入って山菜や茸を取ってくるのだが、今年は草も枯れていると、なかには木の皮を剥いでくる者までいた。
木の皮なんて食えるのか? と村人の多くは思ったが、
「鹿や猿も食うんやから、食えるやろう」
と、実際に食べる者がいた。
が、とても食えるものではなかった。
「外を食べるんやない、うちのを食べるんや」
村の長老が木の皮の内側だけを煮て、それをすり潰して餅のようなものを作った。
美味いとは言えなかったが、食えることは食えた。
「米のないときは、よく食ったものや。特に松の木が美味い。うらが若いときは……」
と、長い昔ばなしを始めた。
それは兎も角、木の皮が食えるということで、稗も、粟も切らした家は、山に入り、皮を剥いだ。
はじめは一軒だけが、そのうち二軒となり、三軒、四軒と増えて、いまは殆どの家が皮餅を食っている。
お蔭で、山の木は丸裸だ。
流石に庄屋が、勝手に山に入って木の皮を採ってくることを禁じたが、背に腹はかえられない村人が言うことを聞くはずもなく、庄屋も言うだけ言って、あとは見て見ぬふりをしていた。
その丸裸になった松の間を抜けていき、十兵衛はさらに奥へと入っていく。
村人たちは顔を見合わせる。
村人も、これ以上山に入ったことはない ―― ここから先は、獣やこの世に非ざる者の領域だ。
「このまま行けばまずいやろう」
十兵衛のあとに行く、庄屋の荘三郎は源太郎に小声で話す。
「う、うむ……」
源太郎もそう思う。
これ以上山に入って何をするのか?
山の奥に何かあるのか?
もしや食べるものがあるのか?
獣だけが知っているような草や茸があるのか?
いや、山の中程も、すでに草も枯れ、木の皮も採りつくしてしまった。
奥の方も現状は同じだろう。
これ以上山に入ったところで………………この人、信用していいのだろうか?
上の村と話し合いをしているかと思ったら、ただ時を潰すために山歩きをしていただけのようだが………………だが、何かしらないと、握り飯が無駄になってしまう。
「まあ、なるようになるやろう」
源太郎は、半信半疑のまま十兵衛に続いた。
そんな源太郎を見て、荘三郎は頭を振り、それでも付いていく。
村人も、庄屋たちだけを行かせることもできず、肩を竦めながら山の奥へと入っていた。
食べる者もない村人たちは、山に入って山菜や茸を取ってくるのだが、今年は草も枯れていると、なかには木の皮を剥いでくる者までいた。
木の皮なんて食えるのか? と村人の多くは思ったが、
「鹿や猿も食うんやから、食えるやろう」
と、実際に食べる者がいた。
が、とても食えるものではなかった。
「外を食べるんやない、うちのを食べるんや」
村の長老が木の皮の内側だけを煮て、それをすり潰して餅のようなものを作った。
美味いとは言えなかったが、食えることは食えた。
「米のないときは、よく食ったものや。特に松の木が美味い。うらが若いときは……」
と、長い昔ばなしを始めた。
それは兎も角、木の皮が食えるということで、稗も、粟も切らした家は、山に入り、皮を剥いだ。
はじめは一軒だけが、そのうち二軒となり、三軒、四軒と増えて、いまは殆どの家が皮餅を食っている。
お蔭で、山の木は丸裸だ。
流石に庄屋が、勝手に山に入って木の皮を採ってくることを禁じたが、背に腹はかえられない村人が言うことを聞くはずもなく、庄屋も言うだけ言って、あとは見て見ぬふりをしていた。
その丸裸になった松の間を抜けていき、十兵衛はさらに奥へと入っていく。
村人たちは顔を見合わせる。
村人も、これ以上山に入ったことはない ―― ここから先は、獣やこの世に非ざる者の領域だ。
「このまま行けばまずいやろう」
十兵衛のあとに行く、庄屋の荘三郎は源太郎に小声で話す。
「う、うむ……」
源太郎もそう思う。
これ以上山に入って何をするのか?
山の奥に何かあるのか?
もしや食べるものがあるのか?
獣だけが知っているような草や茸があるのか?
いや、山の中程も、すでに草も枯れ、木の皮も採りつくしてしまった。
奥の方も現状は同じだろう。
これ以上山に入ったところで………………この人、信用していいのだろうか?
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「まあ、なるようになるやろう」
源太郎は、半信半疑のまま十兵衛に続いた。
そんな源太郎を見て、荘三郎は頭を振り、それでも付いていく。
村人も、庄屋たちだけを行かせることもできず、肩を竦めながら山の奥へと入っていた。
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