大兇の妻

hiro75

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第3話

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 昨晩、夫が前触れもなくやってきた。

 従者も連れていなかった。

 突然の来訪に驚き、慌てふためいた。

 構わなくてもよい,急にそなたの顔が見たくなったものだからと、入鹿は笑ったが、強張ったような笑顔だった。

 顔も青白かった。

 女が羨むような真っ白な肌なのだが、その夜は血の気が引いたように真っ青だった。

 唇は紫色に変色していた。

『いかがなさいました? お加減でも悪いのですか?』

 明日は大切な儀式があるが、あまり乗り気がしないと入鹿は愚痴を零した。

 宇音美は驚いた。

 夫が弱音を吐くなど珍しい。

 どんなに体調が悪くても、どんなに仕事の進捗状況が芳しくなくても、妻の前では絶対に不満を漏らさない人だ。

 夫は、国をまとめるという大切な仕事をしている。

 民の暮らしを守るという大きな仕事をしている。

 ときどき息抜きをなされてはどうですかと心配するのだが、その度に、私が休めば、それだけ多くの民が嘆くことになるのですと叱られた。

 昨夜は、

『お疲れなのですよ。明日はお休みになられては?』

 と誘うと、素直に従った。

 いつもと違う入鹿の様子に、宇音美は戸惑いながらも、夜具の中に引きずり込まれ、夫の指先に身を委ねた。

 愛撫も、いつもと様子が異なっていた。

 普段は須恵器でも触るように優しく撫で回すのだが、昨夜に限っては宇音美の存在を確かめるように荒々しく求めた。

 愛撫の途中で、私がいなくなったら、そなたはどうするかと、入鹿が唐突に訊いてきた。

 宇音美は、不安げに入鹿を見た。

『どうして、そんなことを訊くのです? いやです、考えたくもありません』

 宇音美は駄々っ子のように首を振った。

『嫌です、嫌です。大郎さまがいなくなるなんて、想像しただけでも恐ろしい。はぁぁ……、そんなことおっしゃらないで。あなたは、こうしていらっしゃるではないですか、私の中に』

 宇音美の中に、入鹿の勃起した一物があった。

 硬く、大きなそれは、どくどくと脈打っている。

 夫はいる。

 確かに宇音美の中にいる。

 彼がいなくなるなど、考えられなかった。

 宇音美は、夫の不吉な質問を打ち消すように激しく求めた。

 入鹿も、いつも以上に燃えていた。

 お互いの舌を噛み切るほど口付けを交わし、互いの陰部が引き裂けるほど腰を動かした。

 全身の肉が蕩け、夫の肉と溶けあうほど愛し合った。

 下腹部から湧き上がってきた甘い痺れは、やがて燃え滾る快感へと変わり、宇音美の体を悦びで満たした。
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