幽霊、笑った

hiro75

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 とてん!

 とてん!

 雨垂れは、まだ聞こえていた。

 枕は、ぐっしょりと濡れている。

 おみねは、隣で寝ている人に気付かれないように、そっと頬を拭った。

 あの若様が清太郎なのだろうか?

 いや、そんなはずはない……とおみねは思う。

 ―― だって、あの子は旗本の長男坊、お城に上がって、立派なお役目に就いてるはず。

    こんな小さな料理茶屋で、ひとり寂しくお酒を飲んでいるはずないよね。

    幽霊話は、若様がお城勤めの時にでも、清太郎から聞いたに違いないよ。

    それを若様が、おつたの気を惹こうと、その話をしたんだよ。

 きっと、そうに違いない。

 それにしても………………

 なぜ、今さら二十年近くも仕舞っていた鏡を持ち出したのか?

 その鏡を磨ごうと思ったのか?

 ―― あたしゃ、いったい何がしたいんだい?

    あの鏡を持ち出して、あたしがおっかさんだよって名乗り出たいのかい?

   今さらそんなことして、何の意味があるっていうんだい?

   ああ、本当にあたしゃ、馬鹿だよ………………

 おみねは、数度寝返りを打つ。

 雨は、夜半まで降り続いた。
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