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第五章「生命燃えて」 中編
第12話
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甲板にあがった黒万呂の目の前には、船を出迎える多くの人々の姿 ―― 夫を待ち侘びた妻や子どもたち、友を見送った男たち、泣く泣く恋人と別れた女たち、子どもを送り出した年老いた親たち、百済の民を歓迎する渡来人たちの姿があった。
遠くには、紅葉に滲む山々が見える。
有り触れた………………黒万呂には、黒万呂だけでなく倭の兵士たちには、有り触れた風景である。
それでなくとも、半島で数か月に渡って山の中で過ごしたこともある。
が、故郷の山は違った。
優しく、包み込んでくれる。
大地を踏んだ瞬間、兵士の中には、
「帰ってきたぞ!」
と、叫ぶ者や、
「土や、倭の土や!」
と、土を口に運ぶ者もいた。
黒万呂も、そっと大地を撫でたあと、ひとつまみ口に放り込んだ。
じゃりっと音がした。
しょっぱい!
海が近いからだろうか?
まだ斑鳩には程遠いが、かなり遠いが、ようやく帰ってこれたのだと、黒万呂は涙が溢れた。
他の兵士たちは、涙を流して喜んでいる。
珍しく、大津も顔が紅潮している。
俺も嬉しい……と黒万呂は思う。
が、素直に喜べないのは、ここに弟成がいないせいだろう、馬手たちがいないせいだろう。
―― できれば、この喜びをともにしたかった………………
もはや叶わぬ夢なのだろうと、諦めるしかない。
―― 俺は生きて帰ってきた。
それはそれで、意味があるのだろう。
馬手の代わりに、彼らの最期を家族たちに知らせなくてはならない ―― はじめて、馬手の辛さが分かった気がした。
遠くには、紅葉に滲む山々が見える。
有り触れた………………黒万呂には、黒万呂だけでなく倭の兵士たちには、有り触れた風景である。
それでなくとも、半島で数か月に渡って山の中で過ごしたこともある。
が、故郷の山は違った。
優しく、包み込んでくれる。
大地を踏んだ瞬間、兵士の中には、
「帰ってきたぞ!」
と、叫ぶ者や、
「土や、倭の土や!」
と、土を口に運ぶ者もいた。
黒万呂も、そっと大地を撫でたあと、ひとつまみ口に放り込んだ。
じゃりっと音がした。
しょっぱい!
海が近いからだろうか?
まだ斑鳩には程遠いが、かなり遠いが、ようやく帰ってこれたのだと、黒万呂は涙が溢れた。
他の兵士たちは、涙を流して喜んでいる。
珍しく、大津も顔が紅潮している。
俺も嬉しい……と黒万呂は思う。
が、素直に喜べないのは、ここに弟成がいないせいだろう、馬手たちがいないせいだろう。
―― できれば、この喜びをともにしたかった………………
もはや叶わぬ夢なのだろうと、諦めるしかない。
―― 俺は生きて帰ってきた。
それはそれで、意味があるのだろう。
馬手の代わりに、彼らの最期を家族たちに知らせなくてはならない ―― はじめて、馬手の辛さが分かった気がした。
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