法隆寺燃ゆ

hiro75

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第五章「生命燃えて」 中編

第7話

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「柱が折れるぞ! 縄を切れ!」

「水が入ってきた! 急いで掻き出せ!」

「大波がくるぞ!」

「漕ぎ手が何人か流された!」

 甲板上は、まるで戦場であった。

 男たちの怒号も、滝のような雨と激しい風に掻き消される。

 船の何倍もありそうな大波が、次から次へと襲ってくる。

 船乗りたちは、そんななかでも何とか船を維持しようと、必死で動きまわっている。

 中大兄の称制二(六六三)年九月二十五日、黒万呂たちには愛する祖国、百済の民には安住の地となる倭国へと出航した船団は、数日は快適に帆を進めていた。

 だが予四日目になり、空が暗澹と変わり、風が強くなり、五日目の夜には雨が降り始め、六日目にはとうとう嵐となった。

 黒万呂たち大伴の兵士が乗る大船でさえ、右へ、左へと激しく揺れるのに、馬手たち斑鳩の家人たちが乗る小舟は、右へ、左へ、前へ、後ろへ、挙句に上へ、下へと、まるでお椀のなかに投げ入れた賽のように、くるくると激しく揺れた。

 そして、七日目の夕刻には、大波に呑み込まれ、黒万呂の視界からすっかり消えてしまった。

「頭ぁ~! みんなぁ~!」

 有りっ丈の声で叫んだが、口から出た途端に反対側へと流されていく。

「みんな、船内へ下がれ! これ以上上にいては危ない」

 久米部大津くめべのおおつが叫ぶ。

「し、しかし、船は?」

「あとは、賽と同じ。無事に帰れるか、それともわにの餌になるか、出たとこ勝負だ!」

 大伴の兵士たちが、我さきへと船内に入っていく。

 黒万呂は、荒れ狂う天を睨みつけ、叫んだ。

「神さんは、ワシから弟成だけでなく、頭たちも奪っていくんか! ワシは信じんぞ! そんな残虐な神さんなんて、絶対に信じんぞ!」
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