法隆寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
上 下
296 / 378
第五章「生命燃えて」 前編

第21話

しおりを挟む
 大友皇子は、中大兄と伊賀宅子娘いがのやかこのいらつめの子で、幼名を母親から貰って伊賀皇子いがのみこと言った。

 伊賀宅子娘は、『日本書紀』に采女であると書かれているので、地方豪族の娘であり、恐らくは伊賀国造の伊賀臣の娘であったのだろう。

 伊賀皇子が、いつの頃から大友皇子と名乗るようになったかは分からないが、おそらくは養育に当たった氏族に由来するのであろう。

 大友と言うと、大伴氏と思われるかもしれないが、大友氏の方である。

 大友氏は、大友史おおとものふびと大友村主おおとものすぐりらの渡来一族で、その根拠地は近江国滋賀郡大友郷にあった。

懐風藻かいふうそう』によると、大友皇子は容姿に優れ、風采は広大深遠で、その目は澄み渡り、輝いていたらしい。

 手放しの礼讃はあまり信じられないのだが、渡来人の養育を受けているだけあって、文才には長けていたようだ。

『懐風藻』には、彼の漢詩が二首残されている。

 そして、大友皇子が大王候補として頭角を表してきたのが、この頃からである。

 間人皇女が亡くなった後、中大兄は全く仕事が手に付かない状態だった。

 確かに、大王になった彼女は中大兄にとって目の上のたんこぶであったし、関係を拒否されたことからも、彼の彼女に対する憎しみは増大していた。

 だが、愛憎は表裏一体である。

 彼女を愛する気持ちに変わりはない。

 その彼女を亡くしたいま、中大兄は虚無感に囚われていた。

 群臣からの報告も上の空で、そのため大友皇子が全ての報告を纏め、中大兄の代わりに指示を出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す

矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。 はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき…… メイドと主の織りなす官能の世界です。

信濃の大空

ypaaaaaaa
歴史・時代
空母信濃、それは大和型3番艦として建造されたものの戦術の変化により空母に改装され、一度も戦わず沈んだ巨艦である。 そんな信濃がもし、マリアナ沖海戦に間に合っていたらその後はどうなっていただろう。 この小説はそんな妄想を書き綴ったものです! 前作同じく、こんなことがあったらいいなと思いながら読んでいただけると幸いです!

三國志 on 世説新語

ヘツポツ斎
歴史・時代
三國志のオリジンと言えば「三国志演義」? あるいは正史の「三國志」? 確かに、その辺りが重要です。けど、他の所にもネタが転がっています。 それが「世説新語」。三國志のちょっと後の時代に書かれた人物エピソード集です。当作はそこに載る1130エピソードの中から、三國志に関わる人物(西晋の統一まで)をピックアップ。それらを原文と、その超訳とでお送りします! ※当作はカクヨムさんの「世説新語 on the Web」を起点に、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさん、エブリスタさんにも掲載しています。

処理中です...