法隆寺燃ゆ

hiro75

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第四章「白村江は朱に染まる」 後編

第28話

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 翌朝は、強い風が吹き付けていた。

 このまま外洋に出れば、揺れが激しくなるだろう。

 それも、大船だと船酔いが酷くなるかもしれない。

 ―― だがその前に、唐軍の封鎖を突破するのが先か………………

 船上で、弟成はこんなことを考えていた。

 彼は、黒万呂とともに平底箱型船に乗り込んでいた。

 倭軍は、昨日の作戦を変更し、自力で封鎖を解き、南下する作戦に出た。

 護衛軍の役目は、百済の旧臣と民を護衛することである。

 そのため護衛軍は、殆どが大船の編成となった ―― これは、船に弱い弟成にとっては少々厳しいものがある。

 が、船酔い如きで弱音を吐いてはいられない。

 いまは、目の前に迫り来る敵と対峙しなければならない。

 彼は、ぐっと奥歯を噛みしめた。

 護衛軍が河口付近に到着した時には、唐船は北岸近くで前軍と交戦中であった。

「大国様、大船から脱出命令が出ました」

「よし、護衛軍の殿に付け!」

 護衛軍は、狭井檳榔の船を先頭にして南岸を抜けて行く。

「このまま行けば、無事に帰れそうだな」

 安堵の顔の黒万呂………………弟成も、これで大丈夫だと思った。

 が、それもつかの間だった。

「大国様、左舷に船群です!」

「なに?」

 大伴朴本大国が、左舷に乗り出す。

「くそ、第二陣か! このままでは進路を塞がれるぞ。櫂入れ、止め!」

 船の行き足を止める ―― 前の船とは寸前のところで止まった。

 だが、前方の何隻かは第二陣と衝突したようだ。

「大伴様、後方から後軍が迫って来ます!」

 高尾深草が叫ぶ。

「櫂用意! 左前へ、右後へ!」

 大国が右回頭を指示する。

 それを見た後軍は、次々に船の行き足を止めていく。

 弟成は焦った ―― 何で、あと少しなのに………………
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