法隆寺燃ゆ

hiro75

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第四章「白村江は朱に染まる」 前編

第17話

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 蘇我赤兄の言を受けて西航することを決定した政府は、出発前に部隊の編成を行った。

 部隊は、前後軍の本隊と、豊璋王子護衛軍の三軍体制が組織された。

 護衛軍は、狭井檳榔と朴市秦田来津を将軍とする五千人で編成された ―― 実質、これが援軍の全てである。

 残りの前後軍は、あくまで本国に残る待機軍である。

 それでも、夫々将軍が任命される。

 前将軍まえのいくさのきみには阿曇比羅夫連あずみのひらふのむらじ河邊百枝臣かわべのももえのおみの二人、後将軍しりえのいくさのきみには阿倍引田比羅夫臣あへのひけたのひらふのおみ物部熊連もののべのくまのむらじ守大石君もりのおおいわのきみの三人が任命された。

 各軍の兵士については、西航に伴い、西国から徴収することとなった。

 因みに、守大石は有間皇子ありまのみこ事件の容疑で上毛野国かみつけののくにに配流となっていたが、早くも中央に復帰してきている………………これを考えただけでも、有間皇子事件というのが、仕組まれたものだったというのが分かる。

 しかし、部隊編成を終え、西に下った一団に待っていたのは、宝大王の死という非常事態であった。

 中臣鎌子は、宝大王が病に倒れたと聞いて、彼女の病気平癒を神仏に祈った。

 ―― まずい、ここで宝大王にもしものことがあれば、飛鳥派に政権が渡り、百済援軍が本格化するかもしれない。

    宝大王には、何とか持ち堪えてもらわなければ………………

 それが、鎌子の願いだ。

 そして飛鳥派を代表する赤兄も、事態の推移を不安な面持ちで見守っていた。

 彼も、宝大王が倒れたことは予想外だった。

 彼は、神宮じんぐう皇后の故事に倣い、百済復興成功後に難波に凱旋し、宝大王から中大兄へ譲位するという計画を思い描いていた。

 例え復興が失敗しても、それを理由に宝大王を退位に追い込むこともできる。

 しかし、遠征前に宝大王が亡くなってしまえば、中大兄の大王即位にケチがつくかもしれない。

 縦しんば即位したとしても、百済復興に失敗すれば、中大兄の大王としての資質が疑われる。

 ―― ここは、何としても持ち堪えてもらわなければ………………

 赤兄も、理由は違えど、宝大王の無事を願うのは鎌子と同じである。

 しかし、二人の願いも虚しく、宝大王は鬼籍の人となる。
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