法隆寺燃ゆ

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第一章「宿命の子どもたち」 後編

第15話

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 百済の使者が伝えた政変とは、以下のとおりである。

 六四一年三月に王が亡くなり、「海東の曽子」と呼ばれた長男、義慈ぎじ王が即位した。

 その翌年の正月に、国主の母が死去したが、その時に弟王子の子翹岐ぎょうきとその妹の女子四人、内佐平岐味ないさへいのきみの他、四十人余りが流島になったというものである。

 しかし、この政変については、朝鮮の歴史書『三国史記』には記載されていない。

『日本書紀』には、この後、翹岐は一族ともに倭国に来て、百済の大井(大阪府河内長野市太井、または南河内郡太子町大井か)に住んだとある。

 高句麗の政変とは、六四二年十月に大対盧だいたいろ泉蓋蘇文せんがいそぶんが、栄留えいりゅう王を忙殺し、王の弟の子供であるぞうを王に立て、自分は、莫離支まりき(首相のような地位)に就いたというものである。

 なお、この後、高句麗は蘇文の悪政に苦しみ、その国情不安に付け込まれ、唐に滅ぼされることになる。

 この二国の政変は、飛鳥にも大きな衝撃を与えた ―― 我が国でも、政変が起こるのではないかと………………

 その矢先、蘇我入鹿のもとに、「斑鳩動く」の急変の報が齎される。

「どういうことです?」

 入鹿は、報を齎した使者に詰め寄った。

「詳しくは分かりませんが、斑鳩の方々、武装を固められたという大鳥様からのご連絡です」

「武装ですと?」

「そう言えば、山背様は重臣会議の遅れに苛立たれておられましたからな。しかも、重臣の殆どが大后派と聞いては……」

 傍で聞いていた蘇我敏傍は言った。

「お前、重臣会議での話を山背様にお話したのか?」

「はい、訊かれましたから。いけませんでしたか?」

 敏傍に他意はない。

「敏傍!」

 入鹿の声は鋭かった。

 いままでにない声に、敏傍は驚いた。

「はい!」

「直ちに斑鳩に赴き、山背様に武装を解くように伝えなさい。これは、私たってのお願いであると。重臣会議は未だ継続中です。ここで動くのは得策ではありません。しかも、山背様が動くとなれば、国を二分する大乱となりましょうと。いましばらく、私めにお任せくださいと。よいな、急げ!」

 敏傍は、返事をするまもなく駆けて行った。

 入鹿は、それを不安な面持ちで見守るしかなかった。

 この後、この騒動は、山背大兄一行が椿井の離宮へ狩猟に行くための武装であり、明らかに飛鳥の重臣たちの誤解であったことが判明した。

 が、この出来事が、彼らの山背大兄への不信感をより募らせる結果となった。
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