法隆寺燃ゆ

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第一章「宿命の子どもたち」 前編

第15話

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「なんだい、この汚い子は!」

 弟成は、その声に我に返った。

 次の瞬間、彼は空を見ていた。

 お尻と後頭部が、じんじんと痛くなった。

「三嶋様、こんな汚い子供に近づいては、お体が穢れます。さあ、こちらへ。誰か、誰かおらぬのか!」

 声の女は弟成を突き飛ばすと、女の子を屋敷の方へと連れって行った。

 弟成は、理由わけが分からなかった。

 なぜ自分が突き飛ばされたのか?

 そして、なぜ汚い子と言われたのか?

 屋敷からは、数人の女が出てきて、の女の子を取り囲んだ。

「三嶋様、お捜ししました。どちらにおいでになられたのですか?」

「心配したのですよ」

 女の子を気遣う声が、弟成にも聞こえた。

「貴方たちが、しっかりと三島様をお守りしなくてどうするのですか! もう少しで、奴に犯されるところだったのですよ!」

 弟成を突き飛ばした女の鋭い声が聞こえた。

「申し訳ございませぬ、菟田うだ様」

「申し訳ございません……では済まされないのですよ!」

 弟成は仰向けに倒れたまま、その声を聞いていた。

 彼には、立ち上がる気力がなかった。

 空が霞んで見えた。

「何の騒ぎです?」

 今度は、屋敷の奥から凛とした声が聞こえてきた。

舂米つきしね様、お聞きください。この者たちが三嶋様から目を離したために、危うく奴に傷つけられるところでございましたのですよ。私めが、三嶋様をお守りいたしましたから事無きを得ましたが」

「奴がじゃと?」

 声の持ち主は、落ち着いていた。

 その声とは対照的に、慌てた声が屋敷に入って来た。

「何事ですか?」

 その声は、文屋だと分かった。

「三輪殿、あの奴が、三嶋様を犯そうとしたのですよ!」

「あの奴とは? あっ、弟成!」

「弟成、大丈夫?」

 彼の傍に駆け寄り、抱き起こしたのは佐倉刀自だった。

 彼の涙に霞んだ目に、縁側に立った文屋の姿が映った。

 隣の女は知らない。

 女の子は、数人の女たちに取り囲まれていた。

 その中に、弟成を突き飛ばした女の姿も見えた。 
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