桜はまだか?

hiro75

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終章「春の夢」

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 内与力澤田久太郎は、出仕前に二体の位牌に手を合わせる。

 一体は妻理恵のもので、もう一体は娘波江のものである。

 この日も、彼の儀式は変わることなく実行された。

 ただ、いつもより幾ばくか手を合わせる時間が長かった。

 手を下ろして、すっと小さな位牌に目をやる。

「波江、お七というお姉ちゃんがそっち行ったから、仲良く遊んでもらいなさい……、波江……」

 久太郎の肩が、小さく震えていた。
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