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第5章「桜舞う中で」
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お七は、神田の筋違橋で晒しにされた。
うら若き乙女が晒しにされているということで、江戸中の人々が集り、涙を誘った。
晒しの後、引廻しが行われた。
このとき、正親の特別の計らいにより、晴れ着を着け、化粧をすることを許された。
お七は、近くの茶屋に入り、母の手によって最後の身支度をした。
父の市左衛門は意識を取り戻していたが、体が不自由になり、おさいや息子の吉左衛門、岡っ引きの栄助に抱えられるようにして茶屋まで来た。
茶屋の老婆の話では、お七に着物を着せている間、母のおさいは気丈に振舞っていたという。
むしろ市左衛門のほうが、泣き通しだったとか。
「身支度が整ったあとでしたか、旦那様と御新造様、お兄さんが、最後の別れの言葉を交わされて。そうそう、そのときご新造様は、『おっかさんは、お七を生んだことを後悔してませんよ。ひとりの殿方を想い続けることは、何と素晴らしいことでしょう。確かに火付けはいけないことだけど……。お七、お前は、本当に素直で、良い子だったよ。今度この世に生まれ変わってきても、おっかさんの娘として生まれてきておくれね』と、お七さんを抱き締められて。お兄さんも、ぽろぽろと涙を落とされてね。そりゃ、見てるこっちの着物の袂まで濡れちまって。えっ、旦那様ですか? 言葉もなく、ただただ泣き通しですよ」
店に来るお客がお七のことを尋ねると、老婆はいつも涙を流しながら語ったそうである。
なお、市左衛門とおさいについては、御奉行の計らいにより、お咎めなしで済んだ。
だが二人は、娘が世間様に迷惑をかけたとして、身代を息子の吉左衛門に譲り、自分たちは田舎に引っ込んでしまったそうだ。
おさいは、そこで体の不自由になった市左衛門の面倒を見ているそうである。
お七の世話をしていた下女のおゆきは、市左衛門たちの世話をするという名目で、そのまま田舎にくっ付いて行ったそうだ。
晴れ着姿に紅を塗ったお七は、裸馬に乗せられて、罪状を標した旗持ちと捨札持ちを先頭に、引き廻しが行われた。
艶やかな着物とは対照的な青白い顔は、白木の観音様のごとく美しく、それが岡っ引きの栄助をはじめ、江戸庶民の涙を誘った。
一膳飯屋のおやじとおかつも、その姿を見送った。
「まるで、お嫁入りに行くようだな」
おやじは大粒の涙を零しながら、お七を見送ってやった。
「ああ、お嫁に行くのさ。仏さんのところにね」
おかつは、お七のために念仏を唱えてやった。
うら若き乙女が晒しにされているということで、江戸中の人々が集り、涙を誘った。
晒しの後、引廻しが行われた。
このとき、正親の特別の計らいにより、晴れ着を着け、化粧をすることを許された。
お七は、近くの茶屋に入り、母の手によって最後の身支度をした。
父の市左衛門は意識を取り戻していたが、体が不自由になり、おさいや息子の吉左衛門、岡っ引きの栄助に抱えられるようにして茶屋まで来た。
茶屋の老婆の話では、お七に着物を着せている間、母のおさいは気丈に振舞っていたという。
むしろ市左衛門のほうが、泣き通しだったとか。
「身支度が整ったあとでしたか、旦那様と御新造様、お兄さんが、最後の別れの言葉を交わされて。そうそう、そのときご新造様は、『おっかさんは、お七を生んだことを後悔してませんよ。ひとりの殿方を想い続けることは、何と素晴らしいことでしょう。確かに火付けはいけないことだけど……。お七、お前は、本当に素直で、良い子だったよ。今度この世に生まれ変わってきても、おっかさんの娘として生まれてきておくれね』と、お七さんを抱き締められて。お兄さんも、ぽろぽろと涙を落とされてね。そりゃ、見てるこっちの着物の袂まで濡れちまって。えっ、旦那様ですか? 言葉もなく、ただただ泣き通しですよ」
店に来るお客がお七のことを尋ねると、老婆はいつも涙を流しながら語ったそうである。
なお、市左衛門とおさいについては、御奉行の計らいにより、お咎めなしで済んだ。
だが二人は、娘が世間様に迷惑をかけたとして、身代を息子の吉左衛門に譲り、自分たちは田舎に引っ込んでしまったそうだ。
おさいは、そこで体の不自由になった市左衛門の面倒を見ているそうである。
お七の世話をしていた下女のおゆきは、市左衛門たちの世話をするという名目で、そのまま田舎にくっ付いて行ったそうだ。
晴れ着姿に紅を塗ったお七は、裸馬に乗せられて、罪状を標した旗持ちと捨札持ちを先頭に、引き廻しが行われた。
艶やかな着物とは対照的な青白い顔は、白木の観音様のごとく美しく、それが岡っ引きの栄助をはじめ、江戸庶民の涙を誘った。
一膳飯屋のおやじとおかつも、その姿を見送った。
「まるで、お嫁入りに行くようだな」
おやじは大粒の涙を零しながら、お七を見送ってやった。
「ああ、お嫁に行くのさ。仏さんのところにね」
おかつは、お七のために念仏を唱えてやった。
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