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第三章「焼き味噌団子」
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南町奉行所の近くにある一膳飯屋のお運び娘おかつは、秋山小次郎に大番屋まで連れて来られた。
娘といっても、当に三十路は過ぎている。
もうじき、四十だ。
おかつは、お七が入っている仮牢に押し込められた。
「あいたた、ちょっとは優しくしろってんだい!」
小次郎に啖呵を切った。
「うるさいぞ、女掏児。今日はここに留めるが、明日には小伝馬町送りだ。覚悟していろ」
そう言うと小次郎は、どたどたと激しい足音を立てて出て行った。
「へん、てやんでい、小伝馬町が怖くて、掏りなんかできっかよ」
おかつは悪びれることなく、小次郎の背中に真っ赤な舌を出してみせた。
「へええ~、まったく」
どかりとその場に胡坐を掻く。
真っ白な太ももが露になる。
「おや、こんなところに似つかわしくない娘がいるね。あんた、何やったんだい?」
おかつは、仮牢の片隅で項垂れているお七を見つけて訊いた。
「あたしは、これさ。これでも、なかなか名の知れ渡った女掏児なんだよ。ちょちょいの、ちょいってね」
右の人差し指を鉤形にしてみせた。
「もう少しで大店の旦那の懐のものをと思ったんだけど、あたしも焼きが回ったかね。とうとうお縄になっちまった」
おかつは、ひとりでけたけたと笑った。
「で、あんたは?」
一頻り笑ったところで訊いてみるが、お七はじっと床を見つめたままだ。
「あんた、喋れないの?」
訊いても答えない。
おかつは、ふっと息を吐いて、
「そうですか、だんまりですか」
その場にごろりと横になった。
「でもさ、あんた、黙ってたんじゃ、皆あんたのせいにされちゃうんだよ。何があったかは知らないけど、やってないなら、やってないって言わなくちゃ。誰かに脅かされたのなら、そいつの名を言わないと」
おかつが話している間に、お七も壁に向って横になってしまった。
「そうですか、黙ってろですか」
おかつも、口を閉じるしかなかった。
(やれやれ、こりゃ、相当の強情者だね。秋山の旦那には悪いけど、あたしじゃ落せそうにないよ)
娘といっても、当に三十路は過ぎている。
もうじき、四十だ。
おかつは、お七が入っている仮牢に押し込められた。
「あいたた、ちょっとは優しくしろってんだい!」
小次郎に啖呵を切った。
「うるさいぞ、女掏児。今日はここに留めるが、明日には小伝馬町送りだ。覚悟していろ」
そう言うと小次郎は、どたどたと激しい足音を立てて出て行った。
「へん、てやんでい、小伝馬町が怖くて、掏りなんかできっかよ」
おかつは悪びれることなく、小次郎の背中に真っ赤な舌を出してみせた。
「へええ~、まったく」
どかりとその場に胡坐を掻く。
真っ白な太ももが露になる。
「おや、こんなところに似つかわしくない娘がいるね。あんた、何やったんだい?」
おかつは、仮牢の片隅で項垂れているお七を見つけて訊いた。
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右の人差し指を鉤形にしてみせた。
「もう少しで大店の旦那の懐のものをと思ったんだけど、あたしも焼きが回ったかね。とうとうお縄になっちまった」
おかつは、ひとりでけたけたと笑った。
「で、あんたは?」
一頻り笑ったところで訊いてみるが、お七はじっと床を見つめたままだ。
「あんた、喋れないの?」
訊いても答えない。
おかつは、ふっと息を吐いて、
「そうですか、だんまりですか」
その場にごろりと横になった。
「でもさ、あんた、黙ってたんじゃ、皆あんたのせいにされちゃうんだよ。何があったかは知らないけど、やってないなら、やってないって言わなくちゃ。誰かに脅かされたのなら、そいつの名を言わないと」
おかつが話している間に、お七も壁に向って横になってしまった。
「そうですか、黙ってろですか」
おかつも、口を閉じるしかなかった。
(やれやれ、こりゃ、相当の強情者だね。秋山の旦那には悪いけど、あたしじゃ落せそうにないよ)
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