23 / 87
第二章「そら豆」
3の2
しおりを挟む
「それで、その娘の取調べは?」
正親は、源太郎に訊いた。
「はっ、申し訳ございません。遅々として進んでおりません」
「なぜじゃ?」
「はあ、それが……、昨日から何も喋りませんので」
「大番屋に連れてこられて、萎縮したのではないか?」
久太郎は、片方の眉を上げて訊く。
「それはないと思います。自身番でも、まるで喋らないということでしたので」
「得意の拷問にかければ良いではないか?」
久太郎のその言葉に、源太郎がむっとした。
「澤田様、我らは火付改のように、むやみやたらと拷問はいたしませぬ。拷問は、あくまで強情な相手のみであります。その際も、必ず御奉行から許可をいただいております」
「その娘、何かあるのか?」
再び、正親が二人の間に割って入った。
「それは分かりませぬが、何も喋らないということは、何かを隠しているのではないかと考えております。下にも、そのつもりで探索を続けさせておりますので」
「うむ、なるほど、相分かった。お七の件は、神谷、お前に任せる。十分に吟味をいたせ」
「あい」
源太郎は平伏した。
「ところで、現場は誰が?」
久太郎が訊いた。
「三番組同心の秋山小次郎でありますが、何か?」
「大丈夫なのか? 火付改の同心と揉めたのもその男であろう?」
久太郎は眉を顰める。
対して源太郎は、憮然として言った。
「秋山は信頼できる男です」
「しかし、これ以上、火付改と揉めるようなことになればだな……」
「なに、そのときは澤田、お前が火付改まで行って謝ってくれば良かろう?」
正親の言葉に、久太郎は慌てた。
「冗談ではありません、殿」
正親は、それを無視するかのように源太郎に訊いた。
「秋山は、本日も出張っておるのか?」
「はい、本日は市左衛門のところに事情を聴きに行っております」
「左様か」
正親は角ばった顎を摩った。
源十郎と源太郎は、仕事があるからと早々に下がった。
久太郎はまだ何か言いたそうだったが、
「何かあれば呼ぶから」
と下がらせた。
正親は、源太郎に訊いた。
「はっ、申し訳ございません。遅々として進んでおりません」
「なぜじゃ?」
「はあ、それが……、昨日から何も喋りませんので」
「大番屋に連れてこられて、萎縮したのではないか?」
久太郎は、片方の眉を上げて訊く。
「それはないと思います。自身番でも、まるで喋らないということでしたので」
「得意の拷問にかければ良いではないか?」
久太郎のその言葉に、源太郎がむっとした。
「澤田様、我らは火付改のように、むやみやたらと拷問はいたしませぬ。拷問は、あくまで強情な相手のみであります。その際も、必ず御奉行から許可をいただいております」
「その娘、何かあるのか?」
再び、正親が二人の間に割って入った。
「それは分かりませぬが、何も喋らないということは、何かを隠しているのではないかと考えております。下にも、そのつもりで探索を続けさせておりますので」
「うむ、なるほど、相分かった。お七の件は、神谷、お前に任せる。十分に吟味をいたせ」
「あい」
源太郎は平伏した。
「ところで、現場は誰が?」
久太郎が訊いた。
「三番組同心の秋山小次郎でありますが、何か?」
「大丈夫なのか? 火付改の同心と揉めたのもその男であろう?」
久太郎は眉を顰める。
対して源太郎は、憮然として言った。
「秋山は信頼できる男です」
「しかし、これ以上、火付改と揉めるようなことになればだな……」
「なに、そのときは澤田、お前が火付改まで行って謝ってくれば良かろう?」
正親の言葉に、久太郎は慌てた。
「冗談ではありません、殿」
正親は、それを無視するかのように源太郎に訊いた。
「秋山は、本日も出張っておるのか?」
「はい、本日は市左衛門のところに事情を聴きに行っております」
「左様か」
正親は角ばった顎を摩った。
源十郎と源太郎は、仕事があるからと早々に下がった。
久太郎はまだ何か言いたそうだったが、
「何かあれば呼ぶから」
と下がらせた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す
矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。
はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき……
メイドと主の織りなす官能の世界です。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜
佐倉 蘭
歴史・時代
★第9回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
「近頃、吉原にて次々と遊女の美髪を根元より切りたる『髪切り』現れり。狐か……はたまた、物の怪〈もののけ〉或いは、妖〈あやかし〉の仕業か——」
江戸の人々が行き交う天下の往来で、声高らかに触れ回る讀賣(瓦版)を、平生は鳶の火消しでありながら岡っ引きだった亡き祖父に憧れて、奉行所の「手先」の修行もしている与太は、我慢ならぬ顔で見ていた。
「是っ非とも、おいらがそいつの正体暴いてよ——お縄にしてやるぜ」
※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」に関連したお話でネタバレを含みます。
東洲斎写楽の懊悩
橋本洋一
歴史・時代
時は寛政五年。長崎奉行に呼ばれ出島までやってきた江戸の版元、蔦屋重三郎は囚われの身の異国人、シャーロック・カーライルと出会う。奉行からシャーロックを江戸で世話をするように脅されて、渋々従う重三郎。その道中、シャーロックは非凡な絵の才能を明らかにしていく。そして江戸の手前、箱根の関所で詮議を受けることになった彼ら。シャーロックの名を訊ねられ、咄嗟に出たのは『写楽』という名だった――江戸を熱狂した写楽の絵。描かれた理由とは? そして金髪碧眼の写楽が江戸にやってきた目的とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる