上 下
17 / 38
じれったいのなんとかしてほしい 〜ワタル〜

02

しおりを挟む

 ケンタも準備を済ませ、山へ向かった。

 オータムフェスティバルは1週間後、それまでに戻らなければならないのだが、森に入り目的エリアに着くまで出来るだけ今日中には済ませておきたい。
 移動中に頭の中でプランを考えていると、何やらケンタからの視線を感じる。

「なんだ? 何か不安でもあるのか?」
「いや、武器や防具を身につけてるの初めて見たなと思って」

 そういえば見せたことなかったな。防具には貫通しづらいと評判のドラゴン皮で出来た上衣に、あらゆる魔法を無効化にするマント、そして武器は長剣を装備していた。

「思ったより身軽なんだな」
「そりゃ森の中に入るし、あの森の状況や魔物は把握している。ある程度身軽でないとむしろやられてしまう」
「ちゃんと考えてるんだな…」
「当然。でなきゃ護衛の仕事してない。環境に合ったのを装備してるよ。回復薬や解毒薬もきちんとあるから、何かあれば俺に言ってくれよな」

 護衛している以上傷一つすら付けないように守ってやる——と思ったのに、森に入ってからずんずんと向こう見ずに進んでいくケンタに、気が気でない。

「待て! そこは魔物がいるかもしれなっ……」
「うわー! ワタルー!!」
「だから言っただろうが!」

 目的先に着くのに先が思いやられるほどケンタが大雑把すぎて、魔物と遭遇したのは今までの中で一番多かったんではないかと思うほどだった。





「あー……とりあえず目的エリアに入っただけ良かったな…」
 
 無事、目的エリアに着いたころにはもう真っ暗だった。
 そこらへんに落ちていた乾いた木をいくつか拾い、焚き火にして周囲を灯る。そのなかに、いつもより動きまくったからかぐっすり寝ているケンタがいる。
 ぐっすり寝ているのも、おそらく何が起きても守ってくれる安心感からだろう。
 その様子を見て、こちらも安心する。

 魔物が入らないように一時的にバリアが張れる道具を使ってはいるが、万が一のことを考えて夜が明けるまで寝ないつもりでいた。

「本日は性欲スイッチなし…っと」

 忘れずに持参した【ケンタ性欲スイッチノート】に記録を残す。

 順調にいけば性欲スイッチが入る前に戻れるかもしれないが、今回はいつもの日常とは違うだけに用心しておきたいな…と色々考えていると、ケンタがモゾモゾ動いて起きてきた。

「まだ夜は明けてない。寝ていいぞ?」
「いや、なんか目が覚めたから起きるわ。それよりワタル寝てないだろう。仮眠ぐらいとったらどうだ?」
「もう少し明るくなってからにするよ。ありがとうな」

 焚き火を間に、向かい合わせで座ると、ケンタが申し訳なさそうに話しかけた。

「いや、こちらこそ色々と助けてもらって……まさかあんなに魔物が出るとは思わなかった」
「あぁ、そこは想定内だから問題はない。ただ突っ走るのはもう少し抑えてもらうと助かるぞ」
「……分かった。気をつける…」

 昨日まで顔合わせず話すこともなかったのが嘘のように会話が出来ていた。今なら聞けるかな……このごろ避けていた理由を。

「なぁ、ケンタ。今こんなことを聞くべきじゃないかもしれないけど、聞いておきたい。ここしばらく俺から避けていただろう?やはり嫌になってきたか…?」

 ビクンと肩が震えたのが見えた。やはり嫌だったかもしれないな。

「嫌になってきたのなら、申し訳ない。早いこと呪いが解けるように調べとくから、性欲スイッチが入ったときだけは頼ってくれよな。それ以外は無理しなくていい」

 ケンタはずっと黙っていた。焚き火の明るさで顔がオレンジ色に染まっていて、ゆらめく影で見え隠れする左目の下にあるホクロがより色っぽくて、つい見とれてしまう。

 どのくらい時間がたったのだろうと、しばらくはお互い沈黙だったが、ケンタが先に口を開いた。

 きっと「そうだ。嫌だったんだ」って返ってくるだろうと覚悟を決めて、ケンタのほうを見ると——。

「性欲スイッチ……入っちまった…」

 まさかの性欲スイッチ、発動。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

処理中です...