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バレンタインえっちは、まぁまぁうまくいった方。
朝起きて、体の具合を見て思う。お尻に多少の違和感はあるものの、痛いって言うほどじゃないし。
一緒に、って難しいんだなぁ・・・。
あの後、風呂で眠いながらも試してみたけれど、やっぱり二度目は立たなくて。孝利の方は、まだし足りないみたいで。
それが、愛情のバロメーターなわけじゃないけれど、やっぱり少しは気になる。
二回目・・・。うーん・・・。
ドリンク剤とか試してみたら違うかな?
でも、そんなのはちょっと、違う気がして・・・。
孝利はまだ寝ている。今日は土曜だけど、バレンタインムードから、ホワイトデー商戦に向けて展示替えがあるとかで、仕事に出るのだ。カレンダーの都合、そういう日もあるらしい。日曜には、ホワイトデーの様相に様変わりするであろう店頭。月日の流れるのは早い。
期限・・・なんてあっという間だよ。
とりあえずは、半年たったらお互いの両親に報告に行くことになったけれど。うちは大丈夫だとして、問題は孝利さんの家、北倉家だった。お兄さんが後を継いでくれるらしいけれど、今の仕事自体反対のようで。先が思いやられる。
三月には、ランプシェードの個展がある。大小さまざまだが、孝利は一つでも多く作りたいようで、暇さえあればアトリエに籠っていた。普段はアトリエで飲み食いしないのだが、インスタントコーヒーを置くようになり、三時になったら、ポットとケーキを携えて、おやつにするようになった。アトリエで食べるケーキの味は、なんだか特別感があって、いつもよりおいしい気がする。それは孝利も同じようだった。同じものを共有できる幸せ。それが二人にはあった。
自分はと言えば、空いた時間は、クッキーづくりにあてていた。今はもっぱら型抜きクッキーにはまっている。孝利が、張り切って、猫の形の型を何個も取り寄せたからだ。ネコの顔の形をしたものや、ジャンプしている姿のもの、伸びをしている姿のもの、尻尾だけのもの、それぞれ可愛い。味は、いまのところ、まぁまぁなので、ホワイトデー当日には「美味しい」と言ってもらえるように研究中だ。甘いものが好きだから、アイシングにも挑戦したい。
そんな感じで、暇つぶしをしつつ、掃除をしたり、ご飯を作ったりしていた。
買い物に出ると、佐川に会った。駅地下のケーキ屋の前だ。
「なんですかーもー。待ち伏せですか?」
「こんにちは。環君。待ち伏せとは失礼な。今日あたりここかなと思っただけだよ。北倉さんは?」
「アトリエです。来月個展があるから。」
「いいなぁ。行ってみたいなぁ。」
「駄目ですよ。」
無下に断る。すると、佐川が食い下がった。
「ほんとに。お客として。聞いてみてよ。本人にさ。」
「えー・・・。」
お客として、と言われると、聞くだけ聞かなくてはならない気もする。でも絶対機嫌が悪くなるのは明白で。
「佐川さんがタチなのは、孝利さん気付いてますよ。」
「嫌がられてる?淋しいなぁ。環君とったりしないのに。」
ほら、と、左手を差し出された。
え?あれ?
「指輪?」
「ぴんぽーん。前からアタックかけてた子と、結ばれました!」
へー・・・。
「それって、その人にアタックかけながら、僕にも優しくしてたんですか?」
「優しくはしてたけど、口説いてはいなかったでしょ?」
それはそうだが。
「まあ。とにかく。おめでとうございます。」
「ありがとうございます。気の強い子だから、大事にしないとねー。」
そういうのって、どこで知り合うんだろう?
「そういう出会いって、どこにあるんですか?」
孝利は、自分のこと後をつけたと、なんとも不穏なことを言っていたが・・・。
「あぁ。五つ先の駅に、噴水があるの知ってる?」
知ってるも何も。
「そこ、実家の最寄です。」
「じゃぁ、話しが早いや。裏通りに、アウルっていうバーがあって。女人禁制なの。ゲイだけじゃなくて、男だけの方が楽、くらいの人も結構いて、話してると楽しいんだよ。
そこでね。オーナーに振られた子がいて、面白いからずっとからかってて・・・。だんだん可愛くなっちゃってね。」
で、バレンタインに告ったの!と、佐川は楽しそうだ。
「で、うまくいったわけですか。」
そういえば、孝利もそんなバーがあるって言ってたような。
同じところだろうか。よく今まで鉢合わせなかったものだ。
「可愛い子でね。噴水のジンクス知ってる?あんなのただのうわさなのに、告るんだったらそこでしてって。」
「男同士で、うまくいくんでしたっけ。長続きするといいですね。」
「うんうん。初えっちまだだし、次はホワイトデーを狙う。」
カップルには、イベントの多い季節だった。
冬は温め合いたいし。
自分も狙ってるし?
丁度一か月。それくらいのペースで、深く抱き合っている。
「惚気かぁ・・・。」
「他に話せる人がいなくて。たまにはオレの話も聞いてよ。」
「ご馳走さまです。・・・あ、ケーキ買って帰らなきゃ。」
アトリエで孝利が待っている。
「じゃぁ、急ぐので。」
佐川を駅地下に置いて、早足で家へと向かう。今日はモンブラン。同じものを二つ買って、孝利の元へ向かった。
二月の終わりから、孝利は個展の詰め作業をしていて、葛井のギャラリーによく赴くようになっていた。当然のように、自分も一緒に行っていた。打ち合わせ中は、実家に戻ることも多かった。
「ただいまー。」
「あら、健斗、また来たの?アンは?」
「アンはお留守番。」
出迎えてくれた母にそう言って、居間に上がる。ラブキャットは三階建てで、一階が店舗兼診察室、手術室。二階が、LDK、三階が寝室になっていた。
自分の部屋もいいのだが、日中居間には誰もいないしと、のんびりテレビを見ていた。
「北村さんは?」
手が空いているのか、母親が上ってきて、お茶を淹れてくれる。
「今、個展の準備で忙しくてさ。邪魔になるから。」
「暇なんだったら、ケージの猫ちゃんブラッシングと爪切りしてあげてくれない?」
「ん。いいよ。」
と答えたが。
「臭いつくと、アンに嫌がられるかなぁ。」
「あー・・・その可能性はあるわ。お風呂入って着替えて帰ったら?」
「そこまでして爪切りさせたいの?」
暇そうだからよ。と母は階下に降りて行った。
お茶を一啜り。最近、仕事はあんまり生かせてないからなぁ。と思う。トリマーとしての資格は、もっぱらアンが占有している。贅沢な話だ。もともと、アンの世話係として、借り上げられたのを忘れそうになる。今は、どちらかと言うと、孝利の食事の世話が多いからだ。
二時半。そろそろメールが来る頃。思っていると、案の定、スマホが鳴った。
『家にいるの?』
「そうですよ。打ち合わせ終わりました?」
『今日のところは』
今日は確か、ポスターのデザインを考えるとか言っていたような。それはそのまま、カードのデザインにもなる。
「では、おやつ食べて帰りましょうか?」
『パフェが美味しいお店があってね』
ぱふぇ?男二人で?
まぁ、食べたいなら仕方ない。
「どこで待ち合わせます?」
『家まで迎えにいくよ』
「お待ちしてます。」
こういう時、了解しました、が使えないのは痛い。言葉を選ぶ。
ややあって、玄関先に、フォレスターがついた。
「お母さん、お茶ご馳走様。迎えが来たから帰るね。」
「はーい。たまには北村さんも上がってもらってね。」
「・・・うん。」
歯切れ悪く返すと、外に出た。風が冷たい。孝利は、コートに、プレゼントしたマフラーを巻いて、車を降りて迎えてくれた。
「やぁ。待たせたね。今日はデザイナーの人が来てたから遅くなっちゃって。」
「大丈夫です。いい感じになりそうですか?」
「うん。仕上がってるシェードの写真撮影したりしたよ。なかなか幻想的な雰囲気になりそう。」
楽しみだな。
「あ、そういえば、佐川さんが、お客で見てみたいって言ってましたよ。」
「だから、きみたちいつ会ってるの?」
「駅地下のケーキ屋さんで、偶然。」
ふーんと鼻を鳴らすと、孝利は車を出した。
「なんか、前に孝利さんが言ってたバー?によく行くみたいで、そこのお客さんを口説き落としたみたいです。パートナーができたんなら、僕とはただのお友達ですよ。」
「アウル?」
「って、言ってたかな。」
「ふーん。・・・君も一度飲みに行ってみる?葛井さんは今個展の方で忙しいから、夜遅くならないと店には立たないけど。」
「オーナーなんでしたっけ?」
うんそう。と応えながら右折する。孝利の運転は危なげない。
仕事掛け持ちって大変そう。あまあまゆるゆるの自分の仕事とは大違いだ。寝る時間あるのかな。
「夜はね、ケンゴさん、ていうの。」
「あ、その佐川さんの相手、オーナーに振られたって。ケンゴさん?のことだったんだ。」
「あれ?じゃぁ相手はミキト君かな。可愛いんだけど、気が強いの。俺は、タマくらいがちょうどいいな。」
好きだよ、と囁かれて、居心地悪くなる。僕も、と応えるのが精いっぱいだからだ。
「さぁついた。」
駐車スペースは三台分ほどある。今は三台分とも空いていた。
余裕をもって駐車して、車を降りる。アイビーに壁面を占領された、なんとも怪しげなお店だった。
カランとドアベルが鳴る。先に入ってゆく孝利についていきながら、ふわりと漂う甘い香りに、お腹がきゅうと鳴いた。
窓際の席に通されて、外を見たが、葉っぱに覆いつくされていて、なるほどここなら男二人でパフェを食べていても大丈夫だと思えた。
「プリンのパフェが美味しいけど、ベリー系もイケるよ!」
メニューブックを手に、孝利はウキウキだ。
「あ、じゃぁ僕はプリンで。お茶はアッサムがいいかな。」
「じゃぁ、俺は苺パフェ。」
それぞれオーダーすると、二十分ほどして、パフェが出てきた。手の込んだパフェだ。
「美味しそう。カステラが入ってる。」
てっぺんのホイップに、カラメルソースがたらしてある。その香ばしい香りに、一口。甘さは程よく、中に入った濃厚なバニラアイスとも相性が良かった。
「一口食べさせて。」
孝利がロングスプーンを手に、プリンを掬う。
「美味しい。自家製なんだよ。このプリン。」
「苺の、食べていいですか?」
もちろん、と差し出されたので、真っ赤なイチゴのシャーベット部分を一口した。じゅわっと広がる苺の香りと甘酸っぱさ。
「んー!次は絶対こっちにする。」
いちゃいちゃしているところに、紅茶が届く。
見られてた?よね?
いいか。今後もこういう機会は増えていくはず。できるだけそれを幸せな時間にしたくて、多少の視線は気にしないこととした。
期限まで、あと少し。思い出をたくさん作りたい。
もし、孝利の実家の両親が許してくれなくても、その時は駆け落ちだ、くらいの気持ちにはなっている。
強くあろう。
きっと大丈夫。
自分に言い聞かせて、残りのパフェを無心で食べた。
個展の半ば。ホワイトデーの土曜に、クッキーを大量生産して、ギャラリーに差し入れた。スタッフも喜んでくれ、もちろん、孝利にも評判は良かった。このほかに、レシピに乗っていたカップケーキも、家に寝かせてある。綺麗にラッピングして、家でお留守番だ。
ランプシェードの売れ行きも上々で、シリーズ化して量産したいという会社も来たようだった。
本当に、名前の力というのはすごい。
小早川に感謝しつつ、でも、孝利の実力あってこそ、と思う。
どれも、素敵な作品ばかりだった。
手のひらほどの、アロマランプが気に入って、売れ残ったらねだるつもりでいた。星座の模様がスワロフスキーで書いてあり、すばる、と名前がついていた。フォレスターに乗っていることからも思ったが、スバルが好きなんだろうなと伺えた。
ギャラリーには場違いなので、差し入れだけして、自宅に寄った。
「おかえりなさい。」
母が出迎えてくれる。病院の休診時間。どうやら今日も、手のかかる患畜はいないようだった。最近凝ってるの。とバナナスムージーを出してくれる。
「ありがと。いただきまーす。」
最近、お店以外で飲み物や食べ物を出してもらうのが稀だったので、ちょっと嬉しい。バナナなのに、緑色なのが何だったが。
「これ何が入ってるの?」
「バナナと小松菜とレモンとヨーグルト。」
「・・・体によさそう。」
作ってあげたら?とキッチンの方から声がする。
「いいかも。苺とか好きだし。」
「さすが、リッチな人は、この時期でもイチゴ食べるのね。」
「ハウスのは今が旬だよ。」
クリスマスあたりのと比べても、少し値は下がっている。
「ミキサーはあったから、ヨーグルトと果物買って帰ればできるよね。」
そうねー、とキッチンから返される。忙しいのかな。
「何か作ってるの?」
「お父さん、今日は夜、会合で出かけるから、カレー作ってるの。圧力鍋なら簡単よ。お肉トロトロ。」
カレーは前にも作ったことがあったが・・・。
「圧力鍋あったと思う。レシピ見れば角煮とか作れるかな?お酒のつまみに。」
「あら、いいんじゃない?」
なら、一足先に、電車で帰ろうか。孝利はまだかかるだろうし。ギャラリーは七時までだ。帰る頃に夕ご飯ができていた方が喜ぶだろう。
「先に帰りますね。夕ご飯作って待ってます。」
と、メールして、帰り支度を始める。
「あ、そうだ。これ、みんなで食べて。」
バッグから、ジップロックに入れた、少々不格好なクッキーを手渡す。
「やだ。クッキー焼いたの?すごいじゃない。」
家では何にもしなかったのに、と褒められる。
「ちょっと作りすぎちゃって。」
「どれくらいかかったの?」
「アイスボックスだから、冷凍にしておいて、三日。でも頑張った。出来がいいのは、ギャラリーに持っていったんだ。」
「そう。自分にできることしてるのね。偉いわ。」
そう言って、母は頭をポンポンと撫でた。
気恥ずかしくて、早々に立ち去る。
「じゃぁ。また近々来るよ。」
「スムージー、美味しい組み合わせあったら教えてね。」
「はぁい。」
母に手を振って、ラブキャットを後にした。
角煮は難しいかと、とりあえずカレーを作ることにして、駅地下で材料を買う。今日はビーフカレーにしようと思っていた。家に帰って、圧力鍋を取り出す。鍋はパントリーの奥の方にあるのを見て知っていた。
「良かった。取説あるじゃん。」
見ながら、材料を切っていく。参考にしたのは、コケコのビーフシチューの、サイズ感だった。ゴロゴロに切っていく。
ルーを入れる段階で、迷った。
もしかしたら、今夜あたり誘われるかも。
カレーより、シチューの方がいいかな?
「カレーと、シチューどっちがいいですか?ビーフです。」
迷った挙句、メールしてみた。
『カレーで。』
簡素に答えが返ってくる。あ、もしかして、今夜これから仕事、とか?なら、体が温まりそうな、カレーの方がいいかもしれない。
ホワイトデーは今日で終わり。明日からの日常に合わせて、いったんショーウィンドウを通常モードに切り替えて、その後はイースターの飾りつけになると言っていた。
お誘いどころじゃないじゃんね。
がっかりしつつ、カレーを仕込む。圧力鍋なら、三十分もあれば仕上がった。
八時前、孝利が帰ってくる。
「ごめんタマ。仕事だって言いそびれてた。食べたら仮眠して出かけるね。」
孝利の仕事は、二十二時の閉店に合わせて始まる。仮眠、一時間も取れるだろうか。
「大丈夫ですか?お疲れですよね。」
「うん。でも、どっちもおろそかにできないし・・・。今日は未明には終わるはずだから大丈夫。帰ったら寝るよ。」
スムージーじゃなくて、ドリンク剤だな・・・。
また、怪我なんてしなきゃいいけど・・・。
「タマ?」
「また、怪我しなきゃいいなって。」
「あれはほんとにドジ踏んだだけ。普段は平気だよ。」
おどけて笑って見せるが・・・。
「普段より疲れてるでしょう?」
「・・・まぁ多少ね。」
でも大丈夫だよ、とダイニングテーブルにつく。
「ほら、カレーでしょ?楽しみだな。」
「うん。待ってて、用意する。」
カレー皿にご飯とカレー。辛口のそれをよそって、テーブルに置いた。二人分並べ終わるのを待って、孝利がいただきますと食べ始める。それに続いて、食べ始める。
「うわぁ。ほんとにお肉トロトロ。」
「圧力鍋?」
「うん。お母さんに聞いて。実家も今日はカレーですって。」
「理解があるっていいね。」
孝利はうらやましそうに、目を細めた。
「スムージー飲んでる余裕あります?」
「うん。なんの?」
「苺です。」
答えると、嬉しそうに、スプーンを進めた。
「眠かったら、これ飲むんですよ?」
と、強めのドリンク剤を渡して、仕事に送り出す。今日は、お風呂も一人だし、寝るのも一人。寝室をどっちにしようか悩んでいた。
疲れて帰ってきて、どっちに僕がいたら嬉しいのかな。
孝利の・・・寝室?
ただ寝てるだけだけど、寝顔見れたら嬉みたいなこと言ってたし・・・。
孝利の匂いに包まれて、眠りたいし・・・。
何とも乙女な発想に、一人で照れて、鼻の頭をかいた。
恥ずかしい・・・。けど本音だし。
淋しい夜の過ごし方は、誰も教えてくれない。
今夜は、お風呂にゆっくり使って、孝利の好きなラベンダーのオイルを垂らして、ボディーソープで体を洗って・・・それで、孝利のベッドで寝よう。
そう決めて、お風呂の支度に向かった。
ドアが開いた、気配にむにゃ、と目を覚ます。
「おかえりなさーい。今何時ですか?」
「ただいま。三時半かな。寝てていいよ。お風呂入ってくる。」
春先とはいえ、夜はまだ冷える。お風呂にゆっくりつかれるように、使った後掃除はしておいた。お湯を張ればすぐに入れる。お言葉に甘えて、また、毛布に潜った。
しばらくして、濡れ髪の孝利がやってきて、隣に潜った。
「髪、ちゃんと拭かないと・・・。」
起きて、タオルを取りに行く。戻って、頭をわしゃわしゃ拭いて、濡れたタオルをランドリールームに投げに行く。
「ありがと。」
「もー。わざとでしょう?甘えんぼさんですねぇ。」
言うと、孝利は、ふふふと笑って、布団を直した。
「あったかい。タマ温もりー。」
すぐ寝付けそう。と嬉しそうに肌を寄せてくる。しっとりした肌に、パジャマを着ていないのだと、今更気がついた。
「孝利さんパジャマは?」
「洗濯ー。」
歯磨きしてて、水かけちゃったの、と苦笑する。
「洗っておきますね。」
乾燥機付きの洗濯機は、入れておけばふわふわに仕上げてくれる。何とも楽だ。
「下着くらい着たらどうです?」
「パンツは履いてるでしょう?」
すりすりしたいの、と肌を寄せてくる。
「ちょっと待って・・・まって!」
「タマ?」
うー・・・。
「今、立っちゃってるから・・・。」
「あ、朝立ち?」
コクコク頷く。
「ふーん?」
孝利の手が股間に伸びてくる。
「ほんとだ。固くなってる。舐めてあげようか?」
「いいから寝ましょう?」
お疲れですよね?と言うと、ホワイトデー何にもしなかったからなぁ、とニヤニヤされる。
「いいです。少し寝て・・・。朝しましょうよ。」
妥協案を提示するが、寝たら昼まで起きません、と断言された。
「こ、心の準備が・・・。」
「舐めるだけ。ね?」
直した布団を剥がされて、パジャマとパンツを取り去られる。
「た、タオル・・・。」
「飲むから平気。」
ぺろ、と先端を舐められる。
「嫌がってる割に、濡れてるじゃない。」
「AVみたいなこと言わないでください!」
「ふーん・・・。そういうの、見たことあるんだ?凌辱もの?」
わー・・・。
孝利は、言いながら、先を咥えて、れろれろと舌を動かし、美味しそうに蜜を吸った。
やば・・・気持ちいい・・・。
深く咥えられ、茎と先端を何度も往復される。射精感が募る。
堪らなくなって、ぐ、と孝利の、まだ水気のある髪に指を差し入れた。
「ん・・・んぁ・・・気持ちいい・・・。」
もっとしてほしい。すると、思いが伝わったのか、唇は先端を扱きながら、舌先は裏の筋にそって動かされる。
「あ、だめ。イキそう。」
そんな風にされたらたまらない。
「イク・・・イク・・・。あ・・・んんんっ!」
とぷとぷ、と孝利の口に、吐精した。それを、すべて飲み込んで、さらに尿道にたまった分まで、しごき上げ、吸われる。
「あっ!」
ぴくん、とペニスがふるえる。放埓の余韻に、どっと眠気がやってくる。
「孝利さん眠い・・・。」
「いいよ。寝な・・・。俺も寝る。」
「口すすいでください。」
「いいよ。平気。」
「じゃなくて、キスしたいんです。」
孝利は、あぁ、と頷くと、素直に口をすすぎに行った。
戻ってきた孝利と口づけを交わす。ちゅちゅと唇を合わせて、舌を絡め合った。
この口で、さっき・・・。
自分の、一番卑猥なところを舐めてくれた。それが嬉しくて、何度もキスを求めた。
朝起きて、体の具合を見て思う。お尻に多少の違和感はあるものの、痛いって言うほどじゃないし。
一緒に、って難しいんだなぁ・・・。
あの後、風呂で眠いながらも試してみたけれど、やっぱり二度目は立たなくて。孝利の方は、まだし足りないみたいで。
それが、愛情のバロメーターなわけじゃないけれど、やっぱり少しは気になる。
二回目・・・。うーん・・・。
ドリンク剤とか試してみたら違うかな?
でも、そんなのはちょっと、違う気がして・・・。
孝利はまだ寝ている。今日は土曜だけど、バレンタインムードから、ホワイトデー商戦に向けて展示替えがあるとかで、仕事に出るのだ。カレンダーの都合、そういう日もあるらしい。日曜には、ホワイトデーの様相に様変わりするであろう店頭。月日の流れるのは早い。
期限・・・なんてあっという間だよ。
とりあえずは、半年たったらお互いの両親に報告に行くことになったけれど。うちは大丈夫だとして、問題は孝利さんの家、北倉家だった。お兄さんが後を継いでくれるらしいけれど、今の仕事自体反対のようで。先が思いやられる。
三月には、ランプシェードの個展がある。大小さまざまだが、孝利は一つでも多く作りたいようで、暇さえあればアトリエに籠っていた。普段はアトリエで飲み食いしないのだが、インスタントコーヒーを置くようになり、三時になったら、ポットとケーキを携えて、おやつにするようになった。アトリエで食べるケーキの味は、なんだか特別感があって、いつもよりおいしい気がする。それは孝利も同じようだった。同じものを共有できる幸せ。それが二人にはあった。
自分はと言えば、空いた時間は、クッキーづくりにあてていた。今はもっぱら型抜きクッキーにはまっている。孝利が、張り切って、猫の形の型を何個も取り寄せたからだ。ネコの顔の形をしたものや、ジャンプしている姿のもの、伸びをしている姿のもの、尻尾だけのもの、それぞれ可愛い。味は、いまのところ、まぁまぁなので、ホワイトデー当日には「美味しい」と言ってもらえるように研究中だ。甘いものが好きだから、アイシングにも挑戦したい。
そんな感じで、暇つぶしをしつつ、掃除をしたり、ご飯を作ったりしていた。
買い物に出ると、佐川に会った。駅地下のケーキ屋の前だ。
「なんですかーもー。待ち伏せですか?」
「こんにちは。環君。待ち伏せとは失礼な。今日あたりここかなと思っただけだよ。北倉さんは?」
「アトリエです。来月個展があるから。」
「いいなぁ。行ってみたいなぁ。」
「駄目ですよ。」
無下に断る。すると、佐川が食い下がった。
「ほんとに。お客として。聞いてみてよ。本人にさ。」
「えー・・・。」
お客として、と言われると、聞くだけ聞かなくてはならない気もする。でも絶対機嫌が悪くなるのは明白で。
「佐川さんがタチなのは、孝利さん気付いてますよ。」
「嫌がられてる?淋しいなぁ。環君とったりしないのに。」
ほら、と、左手を差し出された。
え?あれ?
「指輪?」
「ぴんぽーん。前からアタックかけてた子と、結ばれました!」
へー・・・。
「それって、その人にアタックかけながら、僕にも優しくしてたんですか?」
「優しくはしてたけど、口説いてはいなかったでしょ?」
それはそうだが。
「まあ。とにかく。おめでとうございます。」
「ありがとうございます。気の強い子だから、大事にしないとねー。」
そういうのって、どこで知り合うんだろう?
「そういう出会いって、どこにあるんですか?」
孝利は、自分のこと後をつけたと、なんとも不穏なことを言っていたが・・・。
「あぁ。五つ先の駅に、噴水があるの知ってる?」
知ってるも何も。
「そこ、実家の最寄です。」
「じゃぁ、話しが早いや。裏通りに、アウルっていうバーがあって。女人禁制なの。ゲイだけじゃなくて、男だけの方が楽、くらいの人も結構いて、話してると楽しいんだよ。
そこでね。オーナーに振られた子がいて、面白いからずっとからかってて・・・。だんだん可愛くなっちゃってね。」
で、バレンタインに告ったの!と、佐川は楽しそうだ。
「で、うまくいったわけですか。」
そういえば、孝利もそんなバーがあるって言ってたような。
同じところだろうか。よく今まで鉢合わせなかったものだ。
「可愛い子でね。噴水のジンクス知ってる?あんなのただのうわさなのに、告るんだったらそこでしてって。」
「男同士で、うまくいくんでしたっけ。長続きするといいですね。」
「うんうん。初えっちまだだし、次はホワイトデーを狙う。」
カップルには、イベントの多い季節だった。
冬は温め合いたいし。
自分も狙ってるし?
丁度一か月。それくらいのペースで、深く抱き合っている。
「惚気かぁ・・・。」
「他に話せる人がいなくて。たまにはオレの話も聞いてよ。」
「ご馳走さまです。・・・あ、ケーキ買って帰らなきゃ。」
アトリエで孝利が待っている。
「じゃぁ、急ぐので。」
佐川を駅地下に置いて、早足で家へと向かう。今日はモンブラン。同じものを二つ買って、孝利の元へ向かった。
二月の終わりから、孝利は個展の詰め作業をしていて、葛井のギャラリーによく赴くようになっていた。当然のように、自分も一緒に行っていた。打ち合わせ中は、実家に戻ることも多かった。
「ただいまー。」
「あら、健斗、また来たの?アンは?」
「アンはお留守番。」
出迎えてくれた母にそう言って、居間に上がる。ラブキャットは三階建てで、一階が店舗兼診察室、手術室。二階が、LDK、三階が寝室になっていた。
自分の部屋もいいのだが、日中居間には誰もいないしと、のんびりテレビを見ていた。
「北村さんは?」
手が空いているのか、母親が上ってきて、お茶を淹れてくれる。
「今、個展の準備で忙しくてさ。邪魔になるから。」
「暇なんだったら、ケージの猫ちゃんブラッシングと爪切りしてあげてくれない?」
「ん。いいよ。」
と答えたが。
「臭いつくと、アンに嫌がられるかなぁ。」
「あー・・・その可能性はあるわ。お風呂入って着替えて帰ったら?」
「そこまでして爪切りさせたいの?」
暇そうだからよ。と母は階下に降りて行った。
お茶を一啜り。最近、仕事はあんまり生かせてないからなぁ。と思う。トリマーとしての資格は、もっぱらアンが占有している。贅沢な話だ。もともと、アンの世話係として、借り上げられたのを忘れそうになる。今は、どちらかと言うと、孝利の食事の世話が多いからだ。
二時半。そろそろメールが来る頃。思っていると、案の定、スマホが鳴った。
『家にいるの?』
「そうですよ。打ち合わせ終わりました?」
『今日のところは』
今日は確か、ポスターのデザインを考えるとか言っていたような。それはそのまま、カードのデザインにもなる。
「では、おやつ食べて帰りましょうか?」
『パフェが美味しいお店があってね』
ぱふぇ?男二人で?
まぁ、食べたいなら仕方ない。
「どこで待ち合わせます?」
『家まで迎えにいくよ』
「お待ちしてます。」
こういう時、了解しました、が使えないのは痛い。言葉を選ぶ。
ややあって、玄関先に、フォレスターがついた。
「お母さん、お茶ご馳走様。迎えが来たから帰るね。」
「はーい。たまには北村さんも上がってもらってね。」
「・・・うん。」
歯切れ悪く返すと、外に出た。風が冷たい。孝利は、コートに、プレゼントしたマフラーを巻いて、車を降りて迎えてくれた。
「やぁ。待たせたね。今日はデザイナーの人が来てたから遅くなっちゃって。」
「大丈夫です。いい感じになりそうですか?」
「うん。仕上がってるシェードの写真撮影したりしたよ。なかなか幻想的な雰囲気になりそう。」
楽しみだな。
「あ、そういえば、佐川さんが、お客で見てみたいって言ってましたよ。」
「だから、きみたちいつ会ってるの?」
「駅地下のケーキ屋さんで、偶然。」
ふーんと鼻を鳴らすと、孝利は車を出した。
「なんか、前に孝利さんが言ってたバー?によく行くみたいで、そこのお客さんを口説き落としたみたいです。パートナーができたんなら、僕とはただのお友達ですよ。」
「アウル?」
「って、言ってたかな。」
「ふーん。・・・君も一度飲みに行ってみる?葛井さんは今個展の方で忙しいから、夜遅くならないと店には立たないけど。」
「オーナーなんでしたっけ?」
うんそう。と応えながら右折する。孝利の運転は危なげない。
仕事掛け持ちって大変そう。あまあまゆるゆるの自分の仕事とは大違いだ。寝る時間あるのかな。
「夜はね、ケンゴさん、ていうの。」
「あ、その佐川さんの相手、オーナーに振られたって。ケンゴさん?のことだったんだ。」
「あれ?じゃぁ相手はミキト君かな。可愛いんだけど、気が強いの。俺は、タマくらいがちょうどいいな。」
好きだよ、と囁かれて、居心地悪くなる。僕も、と応えるのが精いっぱいだからだ。
「さぁついた。」
駐車スペースは三台分ほどある。今は三台分とも空いていた。
余裕をもって駐車して、車を降りる。アイビーに壁面を占領された、なんとも怪しげなお店だった。
カランとドアベルが鳴る。先に入ってゆく孝利についていきながら、ふわりと漂う甘い香りに、お腹がきゅうと鳴いた。
窓際の席に通されて、外を見たが、葉っぱに覆いつくされていて、なるほどここなら男二人でパフェを食べていても大丈夫だと思えた。
「プリンのパフェが美味しいけど、ベリー系もイケるよ!」
メニューブックを手に、孝利はウキウキだ。
「あ、じゃぁ僕はプリンで。お茶はアッサムがいいかな。」
「じゃぁ、俺は苺パフェ。」
それぞれオーダーすると、二十分ほどして、パフェが出てきた。手の込んだパフェだ。
「美味しそう。カステラが入ってる。」
てっぺんのホイップに、カラメルソースがたらしてある。その香ばしい香りに、一口。甘さは程よく、中に入った濃厚なバニラアイスとも相性が良かった。
「一口食べさせて。」
孝利がロングスプーンを手に、プリンを掬う。
「美味しい。自家製なんだよ。このプリン。」
「苺の、食べていいですか?」
もちろん、と差し出されたので、真っ赤なイチゴのシャーベット部分を一口した。じゅわっと広がる苺の香りと甘酸っぱさ。
「んー!次は絶対こっちにする。」
いちゃいちゃしているところに、紅茶が届く。
見られてた?よね?
いいか。今後もこういう機会は増えていくはず。できるだけそれを幸せな時間にしたくて、多少の視線は気にしないこととした。
期限まで、あと少し。思い出をたくさん作りたい。
もし、孝利の実家の両親が許してくれなくても、その時は駆け落ちだ、くらいの気持ちにはなっている。
強くあろう。
きっと大丈夫。
自分に言い聞かせて、残りのパフェを無心で食べた。
個展の半ば。ホワイトデーの土曜に、クッキーを大量生産して、ギャラリーに差し入れた。スタッフも喜んでくれ、もちろん、孝利にも評判は良かった。このほかに、レシピに乗っていたカップケーキも、家に寝かせてある。綺麗にラッピングして、家でお留守番だ。
ランプシェードの売れ行きも上々で、シリーズ化して量産したいという会社も来たようだった。
本当に、名前の力というのはすごい。
小早川に感謝しつつ、でも、孝利の実力あってこそ、と思う。
どれも、素敵な作品ばかりだった。
手のひらほどの、アロマランプが気に入って、売れ残ったらねだるつもりでいた。星座の模様がスワロフスキーで書いてあり、すばる、と名前がついていた。フォレスターに乗っていることからも思ったが、スバルが好きなんだろうなと伺えた。
ギャラリーには場違いなので、差し入れだけして、自宅に寄った。
「おかえりなさい。」
母が出迎えてくれる。病院の休診時間。どうやら今日も、手のかかる患畜はいないようだった。最近凝ってるの。とバナナスムージーを出してくれる。
「ありがと。いただきまーす。」
最近、お店以外で飲み物や食べ物を出してもらうのが稀だったので、ちょっと嬉しい。バナナなのに、緑色なのが何だったが。
「これ何が入ってるの?」
「バナナと小松菜とレモンとヨーグルト。」
「・・・体によさそう。」
作ってあげたら?とキッチンの方から声がする。
「いいかも。苺とか好きだし。」
「さすが、リッチな人は、この時期でもイチゴ食べるのね。」
「ハウスのは今が旬だよ。」
クリスマスあたりのと比べても、少し値は下がっている。
「ミキサーはあったから、ヨーグルトと果物買って帰ればできるよね。」
そうねー、とキッチンから返される。忙しいのかな。
「何か作ってるの?」
「お父さん、今日は夜、会合で出かけるから、カレー作ってるの。圧力鍋なら簡単よ。お肉トロトロ。」
カレーは前にも作ったことがあったが・・・。
「圧力鍋あったと思う。レシピ見れば角煮とか作れるかな?お酒のつまみに。」
「あら、いいんじゃない?」
なら、一足先に、電車で帰ろうか。孝利はまだかかるだろうし。ギャラリーは七時までだ。帰る頃に夕ご飯ができていた方が喜ぶだろう。
「先に帰りますね。夕ご飯作って待ってます。」
と、メールして、帰り支度を始める。
「あ、そうだ。これ、みんなで食べて。」
バッグから、ジップロックに入れた、少々不格好なクッキーを手渡す。
「やだ。クッキー焼いたの?すごいじゃない。」
家では何にもしなかったのに、と褒められる。
「ちょっと作りすぎちゃって。」
「どれくらいかかったの?」
「アイスボックスだから、冷凍にしておいて、三日。でも頑張った。出来がいいのは、ギャラリーに持っていったんだ。」
「そう。自分にできることしてるのね。偉いわ。」
そう言って、母は頭をポンポンと撫でた。
気恥ずかしくて、早々に立ち去る。
「じゃぁ。また近々来るよ。」
「スムージー、美味しい組み合わせあったら教えてね。」
「はぁい。」
母に手を振って、ラブキャットを後にした。
角煮は難しいかと、とりあえずカレーを作ることにして、駅地下で材料を買う。今日はビーフカレーにしようと思っていた。家に帰って、圧力鍋を取り出す。鍋はパントリーの奥の方にあるのを見て知っていた。
「良かった。取説あるじゃん。」
見ながら、材料を切っていく。参考にしたのは、コケコのビーフシチューの、サイズ感だった。ゴロゴロに切っていく。
ルーを入れる段階で、迷った。
もしかしたら、今夜あたり誘われるかも。
カレーより、シチューの方がいいかな?
「カレーと、シチューどっちがいいですか?ビーフです。」
迷った挙句、メールしてみた。
『カレーで。』
簡素に答えが返ってくる。あ、もしかして、今夜これから仕事、とか?なら、体が温まりそうな、カレーの方がいいかもしれない。
ホワイトデーは今日で終わり。明日からの日常に合わせて、いったんショーウィンドウを通常モードに切り替えて、その後はイースターの飾りつけになると言っていた。
お誘いどころじゃないじゃんね。
がっかりしつつ、カレーを仕込む。圧力鍋なら、三十分もあれば仕上がった。
八時前、孝利が帰ってくる。
「ごめんタマ。仕事だって言いそびれてた。食べたら仮眠して出かけるね。」
孝利の仕事は、二十二時の閉店に合わせて始まる。仮眠、一時間も取れるだろうか。
「大丈夫ですか?お疲れですよね。」
「うん。でも、どっちもおろそかにできないし・・・。今日は未明には終わるはずだから大丈夫。帰ったら寝るよ。」
スムージーじゃなくて、ドリンク剤だな・・・。
また、怪我なんてしなきゃいいけど・・・。
「タマ?」
「また、怪我しなきゃいいなって。」
「あれはほんとにドジ踏んだだけ。普段は平気だよ。」
おどけて笑って見せるが・・・。
「普段より疲れてるでしょう?」
「・・・まぁ多少ね。」
でも大丈夫だよ、とダイニングテーブルにつく。
「ほら、カレーでしょ?楽しみだな。」
「うん。待ってて、用意する。」
カレー皿にご飯とカレー。辛口のそれをよそって、テーブルに置いた。二人分並べ終わるのを待って、孝利がいただきますと食べ始める。それに続いて、食べ始める。
「うわぁ。ほんとにお肉トロトロ。」
「圧力鍋?」
「うん。お母さんに聞いて。実家も今日はカレーですって。」
「理解があるっていいね。」
孝利はうらやましそうに、目を細めた。
「スムージー飲んでる余裕あります?」
「うん。なんの?」
「苺です。」
答えると、嬉しそうに、スプーンを進めた。
「眠かったら、これ飲むんですよ?」
と、強めのドリンク剤を渡して、仕事に送り出す。今日は、お風呂も一人だし、寝るのも一人。寝室をどっちにしようか悩んでいた。
疲れて帰ってきて、どっちに僕がいたら嬉しいのかな。
孝利の・・・寝室?
ただ寝てるだけだけど、寝顔見れたら嬉みたいなこと言ってたし・・・。
孝利の匂いに包まれて、眠りたいし・・・。
何とも乙女な発想に、一人で照れて、鼻の頭をかいた。
恥ずかしい・・・。けど本音だし。
淋しい夜の過ごし方は、誰も教えてくれない。
今夜は、お風呂にゆっくり使って、孝利の好きなラベンダーのオイルを垂らして、ボディーソープで体を洗って・・・それで、孝利のベッドで寝よう。
そう決めて、お風呂の支度に向かった。
ドアが開いた、気配にむにゃ、と目を覚ます。
「おかえりなさーい。今何時ですか?」
「ただいま。三時半かな。寝てていいよ。お風呂入ってくる。」
春先とはいえ、夜はまだ冷える。お風呂にゆっくりつかれるように、使った後掃除はしておいた。お湯を張ればすぐに入れる。お言葉に甘えて、また、毛布に潜った。
しばらくして、濡れ髪の孝利がやってきて、隣に潜った。
「髪、ちゃんと拭かないと・・・。」
起きて、タオルを取りに行く。戻って、頭をわしゃわしゃ拭いて、濡れたタオルをランドリールームに投げに行く。
「ありがと。」
「もー。わざとでしょう?甘えんぼさんですねぇ。」
言うと、孝利は、ふふふと笑って、布団を直した。
「あったかい。タマ温もりー。」
すぐ寝付けそう。と嬉しそうに肌を寄せてくる。しっとりした肌に、パジャマを着ていないのだと、今更気がついた。
「孝利さんパジャマは?」
「洗濯ー。」
歯磨きしてて、水かけちゃったの、と苦笑する。
「洗っておきますね。」
乾燥機付きの洗濯機は、入れておけばふわふわに仕上げてくれる。何とも楽だ。
「下着くらい着たらどうです?」
「パンツは履いてるでしょう?」
すりすりしたいの、と肌を寄せてくる。
「ちょっと待って・・・まって!」
「タマ?」
うー・・・。
「今、立っちゃってるから・・・。」
「あ、朝立ち?」
コクコク頷く。
「ふーん?」
孝利の手が股間に伸びてくる。
「ほんとだ。固くなってる。舐めてあげようか?」
「いいから寝ましょう?」
お疲れですよね?と言うと、ホワイトデー何にもしなかったからなぁ、とニヤニヤされる。
「いいです。少し寝て・・・。朝しましょうよ。」
妥協案を提示するが、寝たら昼まで起きません、と断言された。
「こ、心の準備が・・・。」
「舐めるだけ。ね?」
直した布団を剥がされて、パジャマとパンツを取り去られる。
「た、タオル・・・。」
「飲むから平気。」
ぺろ、と先端を舐められる。
「嫌がってる割に、濡れてるじゃない。」
「AVみたいなこと言わないでください!」
「ふーん・・・。そういうの、見たことあるんだ?凌辱もの?」
わー・・・。
孝利は、言いながら、先を咥えて、れろれろと舌を動かし、美味しそうに蜜を吸った。
やば・・・気持ちいい・・・。
深く咥えられ、茎と先端を何度も往復される。射精感が募る。
堪らなくなって、ぐ、と孝利の、まだ水気のある髪に指を差し入れた。
「ん・・・んぁ・・・気持ちいい・・・。」
もっとしてほしい。すると、思いが伝わったのか、唇は先端を扱きながら、舌先は裏の筋にそって動かされる。
「あ、だめ。イキそう。」
そんな風にされたらたまらない。
「イク・・・イク・・・。あ・・・んんんっ!」
とぷとぷ、と孝利の口に、吐精した。それを、すべて飲み込んで、さらに尿道にたまった分まで、しごき上げ、吸われる。
「あっ!」
ぴくん、とペニスがふるえる。放埓の余韻に、どっと眠気がやってくる。
「孝利さん眠い・・・。」
「いいよ。寝な・・・。俺も寝る。」
「口すすいでください。」
「いいよ。平気。」
「じゃなくて、キスしたいんです。」
孝利は、あぁ、と頷くと、素直に口をすすぎに行った。
戻ってきた孝利と口づけを交わす。ちゅちゅと唇を合わせて、舌を絡め合った。
この口で、さっき・・・。
自分の、一番卑猥なところを舐めてくれた。それが嬉しくて、何度もキスを求めた。
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