61 / 68
其の伍拾伍
天界の鼎談
しおりを挟む
「もともとこちらが前であったはずであるがはて」
最初に言葉を発したのはサルタヒコであった。
「確かに世界の雛型になっておるのがその証」
とそれを受けてホムタワケが続けた後、
「なかなかその時の癖が抜けなくて困りますな」
とコトシロヌシが言葉を発した。
同じ世界にある存在には議論が起こらない。
それゆえに現世と呼ばれている仕組みを作ったうえで、
そこに意見の相違を起こす環境を
様々な手を下して生み出して、
新しい発想が生まれるようにしている。
だが、現世独特の物理法則ゆえに不確定要素も多く、
その結果として人間は不安や恐怖に囚われてしまって、
せっかくの現世において様々な試みに挑むことなく、
常世に恋い焦がれるばかりで一生を終える者が多い。
「天竺で起こった法の解明は実に上手いな。
これを取り入れて元に戻すのが良いだろう」
とホムタワケが呟くと、それを受けてサルタヒコが
「まだ期は訪れておらん」と応えた。
それを聞いたホムタワケは可笑しく思うところがあって、
「海で溺れて無事に帰れなかった者が、
期の訪れをあれこれ言えるのかしらん」
とサルタヒコを揶揄った。
サルタヒコはこれを聞いて失笑しながら、
「なるほど。一理あるな。だが、そちらは
海を渡って無事に帰って来たとはいえ、
母の胎内に居ただけではないか」と遣り返す。
「それはそれで徳の成せる業よ」とホムタワケは
涼し気にこれを受け流した。
「お二人とも、話が進みませぬ。大海人を
如何なさいなすか。見過ごしますか」と二人の
遣り取りに収束が見えないことを案じた
コトシロヌシが問いかけると、
「伊勢については今は鈴鹿が拠り所であるから、
こちらで導くことにする」とサルタヒコが言ったので、
それを受けてホムタワケは
「それならば、こちらは天竺から支那を通じて
伝わっている法を取り入れて、
元の政を復興するための手続きを進める」と言った。
それらの話を聞いてコトシロヌシは
「はて、それでは今現在の大海人の状況を
手助けするのは」と問いかけると、
サルタヒコとホムタワケの両名が
声を揃えて「そなたじゃ」と言った。
その提案を受けてコトシロヌシは驚き慌てて
「私はそもそもがそのようなことの
出来る者ではありませぬ。両名のいずれかが
お身内を送るのが筋ではありませぬか」と意見すると、
ホムタワケは破顔一笑して「徳による政と言うものは、
身分や筋など関係ないのだ。建内宿禰という
前例がある以上問題がない」と答えてから続けて
「そのための仕込みのためにそなたが
国譲りのことに擬えて、大海人を
不破まで送り届けよ」と指示を出した。
コトシロヌシはややしっくりとこない気がしたが、
ホムタワケの言うことに問題はないだろう
と思ってこれに従うことにした。
そのように心を決めてから、ふっとサルタヒコの方へ
視線を遣ると、サルタヒコはせっせと
蛙の置物を拵えて遊んでいる。
「愛を仕込んでおかんとなあ。ええわい。
でも愛のうちだろうがなあ」と一人呟くサルタヒコ。
ホムタワケも次の仕込みのために何処かへ去って、
コトシロヌシだけがちょいとした力業が
必要になる今回の働きを進めるため、
静かに自らの考えを反省しながら
間違いなく慎重にこれを進めるための
手順を練り始めた。
最初に言葉を発したのはサルタヒコであった。
「確かに世界の雛型になっておるのがその証」
とそれを受けてホムタワケが続けた後、
「なかなかその時の癖が抜けなくて困りますな」
とコトシロヌシが言葉を発した。
同じ世界にある存在には議論が起こらない。
それゆえに現世と呼ばれている仕組みを作ったうえで、
そこに意見の相違を起こす環境を
様々な手を下して生み出して、
新しい発想が生まれるようにしている。
だが、現世独特の物理法則ゆえに不確定要素も多く、
その結果として人間は不安や恐怖に囚われてしまって、
せっかくの現世において様々な試みに挑むことなく、
常世に恋い焦がれるばかりで一生を終える者が多い。
「天竺で起こった法の解明は実に上手いな。
これを取り入れて元に戻すのが良いだろう」
とホムタワケが呟くと、それを受けてサルタヒコが
「まだ期は訪れておらん」と応えた。
それを聞いたホムタワケは可笑しく思うところがあって、
「海で溺れて無事に帰れなかった者が、
期の訪れをあれこれ言えるのかしらん」
とサルタヒコを揶揄った。
サルタヒコはこれを聞いて失笑しながら、
「なるほど。一理あるな。だが、そちらは
海を渡って無事に帰って来たとはいえ、
母の胎内に居ただけではないか」と遣り返す。
「それはそれで徳の成せる業よ」とホムタワケは
涼し気にこれを受け流した。
「お二人とも、話が進みませぬ。大海人を
如何なさいなすか。見過ごしますか」と二人の
遣り取りに収束が見えないことを案じた
コトシロヌシが問いかけると、
「伊勢については今は鈴鹿が拠り所であるから、
こちらで導くことにする」とサルタヒコが言ったので、
それを受けてホムタワケは
「それならば、こちらは天竺から支那を通じて
伝わっている法を取り入れて、
元の政を復興するための手続きを進める」と言った。
それらの話を聞いてコトシロヌシは
「はて、それでは今現在の大海人の状況を
手助けするのは」と問いかけると、
サルタヒコとホムタワケの両名が
声を揃えて「そなたじゃ」と言った。
その提案を受けてコトシロヌシは驚き慌てて
「私はそもそもがそのようなことの
出来る者ではありませぬ。両名のいずれかが
お身内を送るのが筋ではありませぬか」と意見すると、
ホムタワケは破顔一笑して「徳による政と言うものは、
身分や筋など関係ないのだ。建内宿禰という
前例がある以上問題がない」と答えてから続けて
「そのための仕込みのためにそなたが
国譲りのことに擬えて、大海人を
不破まで送り届けよ」と指示を出した。
コトシロヌシはややしっくりとこない気がしたが、
ホムタワケの言うことに問題はないだろう
と思ってこれに従うことにした。
そのように心を決めてから、ふっとサルタヒコの方へ
視線を遣ると、サルタヒコはせっせと
蛙の置物を拵えて遊んでいる。
「愛を仕込んでおかんとなあ。ええわい。
でも愛のうちだろうがなあ」と一人呟くサルタヒコ。
ホムタワケも次の仕込みのために何処かへ去って、
コトシロヌシだけがちょいとした力業が
必要になる今回の働きを進めるため、
静かに自らの考えを反省しながら
間違いなく慎重にこれを進めるための
手順を練り始めた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる