乞食専門店適当庵実録

降守鳳都

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静かに見守り続ける存在

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 貴龍院丑寅の言葉が終わったぐらいに、海の向こうに積乱雲が突如現れて、そこから大きな光の球が飛び出した。はじめ光の球はとても眩しいだけであったが、やがて眼が慣れて来たかのようにそれが観察出来るようになった。大きな一つの光の球だと思っていた光の球が、複数の小さな光の球の規則正しい回転によってあることが分かって、さらにそれが人物のような姿を取ったり、異形の姿を取ったりしながら、多分、現世と思われる方向に光の束を投げかけ始めた。

 「あのようにして、現世に気づきを投げかけているのだ。そうだな。投げかけられた光は、現世においてはインスピレーションと呼ばれて認知されている」と貴龍院丑寅は言ってから、
続けて「インスピレーションを受けることが出来る瞬間は稀であると思われているが、すべての人がこれを受けることが出来るようになっていて、ちょっとした閃きのような形で受け止める場合もあり、はっきりとした形に変換して受け止める場合もある。その違いはそれぞれの人の努力によって異なってくる」

 私がその言葉を受けて「すると、ちょっとしたよりも、はっきりとした形に変換出来たほうが嬉しいですね」と応えると、貴龍院丑寅は厳しい表情になって「いや。はっきりとした形に変換出来たとしても、例えそれでもって多くのことを成し遂げることが出来たとしても、ほとんどの人はそれが投げかけられた光によるものだとは思わずに、それを変換出来た人の才能だと思う。これを投げかけられた光によるものだと分かって貰えたならば、どれほど有難いことだろうか」と言ってから項垂れた。

 貴龍院丑寅が項垂れている姿は珍しく思えたが、彼ですらそうなのだから、ましてや私においてそのように思い、落胆しても無理はないのだろうと思えて来た。ここ最近の色々な出来事についても、私のインスピレーションによって進められた仕事に対して、私は神の力によるところが大きいと思っているのだが、周囲の人たちはそれが私個人の資質や能力によるものであると思い込んでいるがゆえに、どうしてもそれを軽んじて見られてしまうことが多い。私としては私を通じて神というものをアピールしているばかりなのであるが、神に視点が置かれることはほとんどない。神などいないと言うのが常識であり、神などファンタジーであると言うのが揺るぎない一般論となっているところから、私の出す結果が神から流れて来ているものであると言うことを説明しようにも、まず聴く耳すら持ってもらえないのが現実である。

 人類はどこで間違ったのだろうか?科学文明を進めたがゆえなのか?物理法則を探求することは神の業の精密さを再確認するうえで間違いではないと思うが、その精密さの極致まで辿り着けないでいる途中の状態を絶対であると思い込んで、そこを軸にしてさらに先へ進もうとしているところで躓いている。といった感じに私には思えてならないが、このような見解は多分主流とはなることは出来ない。当たり前のごとくに起こっている様々な事象、これまでの着想では皆目意味が分からない現象に対して、人類はされるがままそれを避けることしか思い浮かばなくなっている。視点を変える勇気のある人は少なく、今の自分を守ることに全力を投入する人の何と多いことか。それではいけないのだと言うことを私ははっきりと判ってはいるのだが、それを声高に主張しても個人の意見として排除されてしまっているのが虚しい。そうではない。個人の意見などではないのだ。もっと、客観的な見解なのだと言ったとしても響かない。さあ、どうしたものだろうか?もう滅ぶしかないのか?

 遥か昔に神々によって創られた世界は、今よくわからないルールによって歪められている。人々は積極的とか消極的以前にその選択肢の中に神への救いなど入れていない。だが、実際のところは神がいて、神々も存在しているし、その存在は何とか気づいてもらおうと必死である。永遠の片思いのような状態がずっと続いていて、何とかしたいと現世へ生まれたとしても、違和感に塗れながらそれでも少しずつ分かって貰おうと懸命に努力する形で表れて、それで意味を分かって貰えずに傷ついて、それでもまた気持ちを切り替えてやるべきことをやり続けるだけで、その現実を垣間見ている私は、人間とはかくも残酷なものなのか?と、どうしようもない悲しみが溢れるばかりで、それでいてどうすれば良いのかのアイデアもまったく浮かばなくて、この絶対の断絶は断絶以前にまるで無いことのようにされてしまっていて、気の迷いとか勘違いのレベルにおいても最底辺に置かれているような状態で、それが突然に変わることなどまったく期待できないと思うばかりで、ここまで述べて来て改めて、自分が同じことをぐるぐると繰り返し述べていることに気づく。

 だが、海は静かで、積乱雲もこころなしか柔らかく見えて、現世でも時折このような光景がある時もあるだろうが、それ以上に不安定さがまったくないこちらの世界は、本当に本当のようにしか見えないのである。
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