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『特別』の確認

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side 親慶ちかよし



「…」

「……」

満開の桜の下、無言で歩く俺の後ろから同じく無言で俯きながらついてくる義経よしつね
この前のリフト騒動からずっとこれだ。
幸い、俺は肩を打撲しただけで大事にはいたらなかったんだけど、あの日から義経は俺が目の前にいても目も合わせようとしない。
理由を聞いても逃げられるし、近くに寄るだけで逃げられるし…挙げ句に周りのみんなには俺が義経イジめてるとか言われるし…。

そんな怖い思いさせちまったかな…。

責任は感じてるし申し訳ないとも思ってる。
だけど、謝る機会くらいくれてもいいだろ。

いい加減シビれを切らして今日はこうして外に連れ出した訳だが…振り向くともうお葬式帰りよ、こいつ。

「悪かったよ。この前はほんと、怖い思いさせて…」

俺が声をかけると義経は足を止めるが視線は相変わらず足元から動くことはない。

「いい加減機嫌直してくれねぇと寂しいんだけど、俺…」

「…ちがう」

「ん?」

「オレ…怒ってるわけじゃない…」

何日かぶりに聞く義経の小さな声は少し震えてるようにも感じて。

聞き逃さないように義経の前に近付いて目線を合わせるように屈んでやると顔を上げてくれた義経の瞳に自分の姿が写るのが嬉しかった。




ーーーーーーーーーー

side 義経



あの日から…うまくチカと向き合えない。

別にリフトから落とされたことが怖かったわけじゃないしチカに対して怒ってるわけでもない。

ただ――。

「…なんか食うか…」

次の言葉が続けられないオレに気を使ってチカは花見客目当てに開かれた出店の列に向かっていく。

「…」

オレは両手を強く握りしめてから駆け足でチカに追いつくと、人混みにはぐれないようにチカの服を思いっきり掴んでやった。



チカは優しい。

背も高くて顔もいいし、正直、モテるんだろうなって思う。


熱愛写真だって…姉ちゃんがいうとおりめちゃくちゃ似合ってたし…。


なのに、チカはなぜかオレの側にいる。

よく分からないけどオレに恩があって、それはチカにとってものすごくでかい恩らしくてお互いがスケートに関わってる間はチカはオレの側にいると言ってるくらい。


「ほれ、りんご飴。あとはたこ焼き、大判焼き…焼きそば食うか?」

「…食べる…」

「あいよ」

今だって、オレに話す準備ができるまで時間をくれてる。

一通り出店を回って人気のないところに腰かけるとチカが買ってくれたものを口に頬張る。

…なにも言わなくてもオレの好きなものばっか…。


「…チカは、さぁ…」


浮かんでは消え、


浮かんでは消え…その度に言葉に出来なかった。



間違ってたら…こんな恥ずかしいことはないのに…。




「チカは…オレのこと…好き、なの…?」



『特別』なオレは…自惚れてもいいのか…。




驚いて目を見開くチカとオレの間を風が通りすぎてく。


あぁ、やっぱり…バカなことを聞いた…。



「俺が……義経のこと…好き…?」


チカはぶつぶつとおんなじ言葉繰り返しながら考え込んだまま。


違うなら思いっきり笑い飛ばして欲しかった。

「なに馬鹿なこと言ってんだ」って。

それならいつもどおりだったのに…なんでそんなに考えるんだよ…。


「義経は?」

「え…?」

「俺のこと、好きなの?」

……質問が質問で返ってきた…。

だけど、いつもと違って真剣な表情のチカに心臓がうるさいくらい脈打ってて。




何回も考えた。


そうなのかなって…。


でも…チカにとってオレは『特別』ってことしか答えはでなくて…。


だから、「分からない」。

オレにはそれしか答えられない。


「…気にしたことなかったから、考えたことがなかった……でも」

「っ…!!」

突然、ぐいっと腰に回された腕が力強くオレの体を引くと小さな体はすっぽりとチカの腕の中に閉じ込められて、オレは抵抗するとか考えもできなくて、チカの腕の、胸の温もりに心臓が破裂しそうなくらい早く収縮を繰り返してて。


心臓が痛い…。

ほんと、オレ死ぬかも…。


今までチカにこんなことされてもなんにもなかったのになんで…。

「俺は…」

耳のすぐそばで聞こえるチカの声に体が一瞬ぴくっと跳ねたら抱きしめてるチカの腕に力がこもった。

「義経と、こんな風にずっと側にいたいって思うくらいには惚れてるかも…」

思いがけない告白にオレはなにも返せなくて縋るように握ったチカの服をオレはもう一度強く握り直した。

「チカ…」

「今すぐ考えなくていい。俺だって自分の気持ち、言われるまで分からなかったし…」

項垂れるようにオレの肩にゆだねられたチカの頭のせいで声が、耳から血流に乗って身体中を巡ってるみたいで、心地よさに頭がふわふわしてくる。

「でも、もし…」

緊張した声、でもオレはふわふわしたまま。


「でも…もし同じ気持ちなら、すっげー嬉しい!」


顔、見なくても分かる。
チカは今、絶対オレの大好きな笑顔を浮かべて顔を真っ赤にしてるはずだ。


分かる…。


きっと、今のオレもそうだから……。



もし、今。

さっきとおんなじ質問されたらオレはきっと…。


「多分…オレもチカのこと、好きだよ…」


って答えられたかもしれない。




end

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