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竜太と神楽のむかしのはなし。
11.俺、コーチ変えた方がいいかな…
しおりを挟む「あのガキと二人で話ししてくる」
気怠そうにボンにそう告げられてから夜が明けるのが長かった…。
一弥は相変わらずゆるゆるに壊れた表情筋をそのままに会議室で二人の到着を待っていた。本当は夜中に竜太に電話でどうなったかを聞き出したかったが万が一、二人が濃密な時間を過ごしていたら申し訳ないと思い自制していた。
おかげで僕が寝不足や。
遠足前の子供よろしく一弥は竜太からの報告が楽しみですまともに眠れていなかった。しかし、体調は悪くない。むしろ期待に胸を躍らせて足取りすらも軽い。
人の恋バナってほんま楽しい!!
青春やなと椅子に座り一人で繰り返し頷くとドアが重く開いた。
「ボン!おはよぉ──」
現れた竜太に飛び跳ねた一弥は思わず目を丸くした。
「はょ…」
見上げた顔色は悪くない。しかし竜太が纏う空気が重いのだ。
一弥は直感した。事態は悪化している!!と…。
横目で時計を確認する。神楽が来るまではまだ時間がある。
一弥は落ち着いて椅子に座り直すと竜太にも自分の前に座るように促した。
「昨日は有意義な時間を過ごせたんよね?」
「有意義…かどうかは分からんが…一応、あいつにはキスした理由を伝えたつもりや…」
「それで?神楽さんはなんて?」
「…同姓愛者なのかって聞かれたから違うって答えて………シュインしたった…」
「『シュイン』?………手淫?!」
竜太の言葉がなにかの擬音かと首を傾げた一弥だったが、思いもしない告白の意味を理解すると吃驚して言葉を詰まらせた。
頭の中で昨夜行われただろう二人の行為を想像すると恥ずかしさに両手で顔を覆ったがそれどころではないと慌てて竜太の胸ぐらに掴みかかった。
「なにしとんねんっ!!相手は未成年やぞ!!しかも日本の、世界の宝や!そんな人相手にお前はなにしやがったんやぁ!!」
力の限り叫びながら竜太の体を前後に振り回すが竜太は口を固く閉じたまま明後日の方向を見て相手にする気はないらしい。
「っ…!神楽さんはどういう反応してたん…?」
顔を引きつらせて怒りを押さえながら冷静にそう訊くとその時の状況を思い出したのだろう竜太は瞬間的に顔を赤く染め上げた。呆然とする一弥。
「いやっ!!あいつ…それからほとんど喋らんくて…」
「なんなん?その反応…」
「いや…その……あいつ、思いの外可愛ない…?」
「…」
僕はなんの話を聞かされてるん…?
まるで付き合いたてのカップルののろけ話でも聞かされているような気分になった一弥は「あっ!」と短く声を上げた。
「もしかして神楽さんと付き合い出したって事?なんや、それならまぁなんとか──」
「いや?付きおうてないで?」
「……そんなら合意の上で…?」
「…いや?だいぶ無理矢理やったな…」
「…………アウトや…」
一弥が振り絞り提案した考えうる最善の案は悉く「NO」を突きつけられ一弥の頭の中を『青少年なんちゃら条例』の文字が覆い尽くしニュースでよく見る両手を繋がれパトカーから降りてくる竜太を想像して脱力した体を机に沈めた。
「ウタに顔向けでけへん…」
しくしくと泣き出す一弥に竜太は悪びれもなく笑う。
「あいつかて公にせんやろ?騒ぎになって困るのはあいつも一緒やし」
「そういう問題ちゃうのっ!!合意もなしにいきなり変な事されて神楽さんのメンタル面が心配やっ!そもそもなんなん?!いきなりキスするわ変な事するわ!理性ないんかいっ!!」
「アホか!理性なかったら昨日最後まで──」
「…………ぁ…ドア、ノックしたんだけど…返事なかったから…」
「か!…ぐらさん…」
静かに開いたドアに竜太と一弥は揃って視線を向けると伏せ目がちにおそるおそる入室してくる神楽に再び二人は揃って固まってしまった。
無言のまま重苦しい空気に包まれるが神楽はそろそろと一弥に近付き竜太から逃げるように背中に隠れると震える声で呟いた。
「…俺、コーチ変えた方がいいかな…」
昨日の行為を思い出したのだろう身の危険を感じながら涙目で赤面している神楽は同性の一弥から見ても美しく背徳的な色香が劣情を誘う。
ゴクリ。
無意識に喉を鳴らす一弥に竜太は盛大に舌打ちをした。
「おい。今、ナニ考えとったんや?」
「な、ななななんもやましい事なんて考えとらんわ!!ボンと一緒にせんでっ!!」
ずいっと机に身を乗り出す竜太に一弥は神楽を庇うように立ちはだかると大袈裟にゴホンと咳払いをした。
「とにかく!神楽さんがこんなに怯えとるんでしばらく僕は神楽さんの護衛につきます。神楽さんが落ち着くまで、それでええですね?」
「う、うん?」
「ええやんなぁ?」
「…しゃあないなぁ…分かった。それから…神楽」
「う?!な、何?!」
「昨日はすまんかった…」
「え…あ、うん…」
面倒くさそうに溜め息を吐いて頭を掻いた竜太は「先に行っとる」と呟いてから会議室を出て行った。
「…という訳で、しばらくは僕が側についてますんで心配しなくてええですからね」
「…うん。ありがと…」
一弥は安心させるように微笑み神楽は力なく笑うと竜太が出ていったドアを見つめていた。
どう贔屓目に見ても両想いなんやけど…まぁ、これはこれでおもろいかな?
振り回されとる分、少しは楽しませてもらいましょ。
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